第84話 青の洞門

「太郎は強くて優しくて正義感があるから、鬼に宝物を奪われて困っている人がいると分かったら、動く気になるんじゃないでしょうか」

「それなんじゃが……」


 おじいさんが困った顔で言います。


「言ったんじゃがだめだった」

「だめだったんですか」

 

 おじいさんがまた困った顔で続けます。


「わしの言うことは右の耳から入って左の耳から出ていってるみたいな」

「ああ」


 おばあさんも納得します。

 この何年も色んなことを太郎に話しかけましたが、ずっとそうでした。


「そうでしたねえ、ええ、そうでした」

「じゃろ?」

「右の耳から入ったのが途中でとどまるようにできないでしょうかねえ」

「そうじゃのう」

 

 人の言葉を途中でダムのようにせき止める方法があればいいのに。

 おじいさんとおばあさんは真面目にそう思いました。


「少しずつでもいい、太郎の心に届いてくれれば」

「ええ」


 拷問の一つに、額に1適ずつ水を落とすという方法があるのです。

 一滴ずつ、拷問する相手の額に冷たい水を落とし続けるのです。

 最初のうちは平気なのですが、それを何日も続けられると、そのうちに落とされた水の当たるところが耐えられないぐらい痛みを感じるようになるとか、水が落ちてくるのに耐えられなくなって発狂するとか、色々言われていますが、そういう怖い怖い拷問です。


 落とす相手が人間ではなくて岩でも長い年月には穴が空いたりもします。


 そして、大分にある「青の洞門」のように、たった一人の僧侶がひたすら岩を穿うがち続けて人が通れるようなトンネルを掘り、おかげで崖から落ちる危険がなく通れるようになったという話もあります。


 ってか、拷問の話いらんやろ、岩と洞窟のいい話だけでよかったかなと思っていますが、まあそういうことなので。

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