第36話 はちまき山

「さあさあ、がんばって田と畑を広げよう!」

「太郎のためによっこらせっと!」

「おじいさんおばあさん、僕もやるよ!」


 おじいさんとおばあさんはどうしようかとちょっとばかり顔を見合わせます。


「だってねえ、これは太郎のためにやってることなんだし……」

「そうだなあ、太郎に手伝ってもらうのもなんだか……」


 そう言って一瞬考えましたが、


「いや、今が大事だ。いつまた法律が変わるか分からん!」

「そうですよね、今の間にできるだけのことはやっておかないと!」


 太郎の体力、賢さをよく知っている2人です。


「じゃあ一緒にやろうかね」

「うん!」


 太郎も一緒になって、朝から晩まで一生懸命山を耕していきました。

 

 この山は大きくて深く、太郎たちの家が人が住んでいる最上部、これより上は「うっそ~」と言うぐらい鬱蒼うっそうとした林が続くだけ。ほんの出入り口のあたりにおじいさんが罠を仕掛けて獣をとり、そのあたりの芝を刈っています。


「この山はな、大蛇が住んでいるという伝説があるんじゃ」

「へえ!」


 太郎が開墾の手を止めず、おじいさんの話を面白そうに聞いています。


「それは大きな蛇で、この山を『七巻き半』するほどあると言われておった」

「それでそれで?」

「それで、その当時の殿様がな、家臣を連れて山に入り、その蛇を捕まえたんじゃ」

「それでそれで?」

「それがな」


 おじいさんがふうっと額の汗を拭きながら腰を伸ばします。


「実際に捕まえてみたら、そんな長い蛇でもなかったそうだ」

「どのぐらいの長さ?」

「このぐらいかの」


 おじいさんが両手を軽く広げたぐらいの長さを示します。


「そんなに短いの?」

「実際に捕まえてみたらな、『鉢巻(八巻き)』よりちょっと短いぐらいの長さだったというオチじゃ」


 それ以来、この山は「はちまき山」と呼ばれるようになり、アホらしく思われているからか、本当はもっと大きな蛇がいると思われているからか、誰も出入りししなくなった、という話でした。

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