第4話 とある学園長の苦悩

 錬金術士の最高峰たるこの錬金術学園、またこの季節がやってきた。初々しい学園の生徒達が厳しい困難を乗り越え三年、卒業前に執り行う実践的な試験。

 本当は皆を合格にして救ってやりたい、しかしそれでは最高峰の学園の地位やブランドにヒビが入ってしまう、そうなればここを目指して来る子たちに申し訳ない。なので私情は持ち込んではならないのだ。

「...長...学園長...エリナ!」

 名前で呼ばれてハッと我に帰る、補佐のユウリだ。昔からずっと一緒なので二人きりのときは学園の地位は関係なしに名前で呼ぶことも多い、

「ぼーっとしてないでさっさとそこの資料に目を通して下さい学園長ー」

「すまんユウリ...」

「悩み事?どうせあの子でしょ?エフィリアって娘」

「うっ...」

「やっぱり」

 長いこと一緒にいるせいか考え事や悩み事は大抵当てられてしまう、それは私も同様だが。

「仕方ないじゃんか、頑張ってる子は応援したいでしょ?」

「まぁそうですけど」

「でしょ?無遅刻無欠席!...試験は赤点ばっかりだけど、補習もちゃんとくるし再試験にもめげずに頑張っててさぁ~?」

「特例ですからね、エリナが頼んで補習と再試験で救済措置を沢山作っちゃったんだから」

「まぁまぁ頑張ってる子には相応の報酬がないと、さ?...消灯時間過ぎに寮で一部屋だけ薄暗くなっててさぁ、飛んでって見てみたらまだ勉強してたの、エフィリアちゃん偉いっ!尊い!」

 毎回寝落ちするから窓を開けて寝顔を堪能してから明かりを消すこともしばしば。

「はいはあい、おしまいおしまい。エフィリアちゃんが好きなのはわかったから」

「...私知ってますからね」

「な、何のことかな?」

 ユウリが半目になって私を見てくる、また何か勝手にしたことがばれてしまったのか...?

「3ヶ月前、実習授業で使った滋強草...数足りてなかったわよ?」

「ギクッ」

 エフィリアちゃんがちょっとくすねたやつ...ユウリがやはりと言う顔をする、

「エリナの給料から取っとくから」

「はい...ごめんなさい」

「そういうのはいずれバレるのよ、エリナ?...そして!」

「まだあるの!?」

「こっちが言いたかったわよ、不動産屋!あんた安い一軒家一つだけエフィリアちゃんにキープさせてたでしょ、不動産屋から電話来たわよ?まだ来ないのか~って」

「え??」

 彼女の言う通り私は不動産屋にキープしてもらっていた、今回の実習はエフィリアちゃんに厳しいと思ったからだ。

「不動産屋に行っていないの、エフィリアちゃん...そんなはずは...」

「問題になりかねないからもうキープしないように言っておいたけど。確かに変ね、エフィリアちゃん何処にいったのかしら」

エフィリアちゃんの金銭事情は何となくわかる、私もそうだったように

「まさか、野宿???」

「...」

彼女は黙った、黙ったが私には分かる、聡明なユウリが弾き出した答えが、その私の答えがイエスであると。

「...そうか」

「飛び出していかないでよ?あなたはもう大人で、学園長なんですから」

「ああ」

勿論分かっている、今までのように学園の中でならば助けることができる私だが、学園を出れば手をさしのべることは難しい。


ーーー頑張って、エフィリアちゃん...


私と外を仕切る窓からは鈍色の空が顔を覗かせていた。



...と言う所で終わる私ではない、爆速で仕事を終わらせ(普段の三倍の速度)夜にはフリーな時間が出来た。ユウリはあきれた顔をしていたがこれは私の性だ、誰にも止めることはさせない。

普通の錬金術士は釜がないと錬金はできない、なので水が必要不可欠...となると平原、岩場、森林エリア。薬草やその他素材を手に入れる所は森林しかあり得ない、湖だな。

上空から湖周辺を確認すると確かに火の光がある、あそこか。ならばっ!

「ここら辺で良いだろう、はいっ!」

地面に手を当て家をイメージ、しかし今回作るのは完璧な一軒家ではない。そうしたいのは山々だがそれでは立場上まずい。それに彼女の成長の妨げになってしまう。ので錬金途中で止め、屋根や所々壁が崩れた家の跡を作った、

「今回できるのはここまで、頑張るんだよエフィリアちゃん...」

将来家になるだろう跡を残してその場を後にした。ちなみに外出がバレてユウリにこっぴどく叱られた。



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