第3話
「姉ちゃん、久しぶり」
母が手放したカバンとスーツケースを持って智樹が近づいてくる。
「ねえちゃん、俺がお母さんについていくよ」そう言って、別れた日のことを思い出した。
生き別れになったわけではないが、こうしてもう一回家族に戻れたのだと思うと、感無量でまぶたに涙が浮かぶ。2年前の中学2年生の冬もまだ幼い幼さの残る印象だったが、見違えたと思う。だいぶ男らしくなった弟だった。その癖、気恥ずかしいのか、はにかんでいるが、これがとても爽やかで自然な笑顔だ。同級生にもこんなに晴れやかに笑う男子はいなかったと思う。
父親は優男だったので、姉の優奈同様、智樹も日本人形的な涼しげな顔付きをしている。 優奈の顔の輪郭が母親似なのに比べて、智樹はそこも父親に似ている。姉は顎や頬が削げているのに対して、男性的な頬骨を見せていた。
(父の若い頃の写真がこんなだったか)
「さぁ、みんな家に入ろう」
ダウンコートを羽織った母に、 ジーンズとパーカーの上にダウンベストを着た長男が父に促されてへ屋内に入った。父と母は、この間ずっと会っていたので、何の違和感もなくくつろいでいる。母が家に帰ってくるのは久しぶりだったが、この半年ほど、父とは外でよく会っていたのだと言う。
と言うか、父と母が恋人関係に戻ったことで、再婚話が出てきたのだ。交際期間も元夫婦だからか、復縁してから再婚まで早かった。
(だったら最初から離婚しなければいいのに)とも思うが、 今だからこそわかったこともあるのだろう。
二人は、父と母が高校の同級生だったから同い年で、44歳。まだまだ若い。 再び恋を楽しんでいるのだろうか。娘としてはちょっと複雑な気持ちになる想像だった。
荷物は明日以降届くと言うので、2人が必要になりそうな日用品はある程度、父と買い出しに行き揃えてあった。玄関で靴を脱ぐと、勝手知ったる我が家なので両親はさっさと入っていった。弟は姉に向かって向き直すと一礼した。
「これからまたお世話になります、姉ちゃん」
思わず優奈は彼の肩を叩いた。
「やめてよ、水臭い」
「でも、 母さんはともかく男子高校生が一緒に暮らすとなると騒々しく感じるだろうから」
姉と弟で何の遠慮がいるだろうか。
「いつからそんな他人行儀なこと言うようになったの」
姉は少し困ったような顔してるから優しく笑った。
「帰ってきてくれてうれしいよ、智樹」
「ありがとう、姉ちゃん」
「気をつかうぐらいだったら、早く4人家族の元の生活に慣れてね。そうすればそんな心配してたことなんてすぐに忘れるわ」
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