第45話
地下室へと急ぐレンブラントの行先には、ゴーベル伯爵の配下と思われる者達が地べたに転がっていた。
『地下には偽花薬の製造場所があるそうです』
先程ユリウスの部下であるマインラートが話していた。そこにユリウスは一人で向かったそうだ。
もう一人のユリウスの部下であるカミルからは地下以外の屋敷内は隈無く調べ上げたと聞き、ティアナの事を簡潔に説明して彼女を見ていないかを尋ねたが、彼は否と答えた。ならば彼女は地下室にいる筈だ。
地下へ続く薄暗い階段をランプの明かりを頼りに進んで行った。階段を降り切ると、少し気温が下がったのを感じる。長い廊下をレンブラント達は警戒しつつ駆けて行くと、先程同様にここでも地べたには伯爵の配下が幾人も転がっていた。
彼は一人でこの数を相手にしたのかと思うと、流石だと言わざるを得ない。
「レンブラント、気を付けろよ!」
やがて数メートル先に明かりが漏れているのが見えた。先陣を切っていたレンブラントの直ぐ後ろのヘンリックが、声を上げる。
「ティアナッ‼︎」
扉が破壊された部屋へと飛び込む様にして入った。するとそこには細身で血色の悪い男が、ティアナを拘束し首元にナイフを突き付けていた。
思わずレンブラントは叫ぶ。
その向かい側には、金を帯びた淡褐色の髪の青年が剣を構え、鋭い翡翠色の瞳で男を睨んでいる。彼がユリウス・ソシュールだ。
「これはまた、参ったなぁ」
男はレンブラント達を一瞥すると、気の抜けそうな態度と声色、情けない表情を浮かべる。だがナイフを握る力を緩める様子はない。
「クヌート・メロー、観念しろ。貴様に逃げ道はない」
表情一つ変えないユリウスは振り返る事すらなく、レンブラント達に見向きもしない。その様子を見て、相変わらずだと思った。
学院生時代からそうだった。己の興味の対象以外は彼にとっては空気も同然であり、どんなに周囲がレンブラントとユリウスが好敵手だと囃し立てようが、レンブラントの存在すら無視をするような人物だった。
「それはどうだろうね。君達が彼女を見殺しにすると言うなら確かに逃げられないかな」
クヌートはそう言いながらティアナの首筋に向けているナイフをゆっくりと滑らせた。
「さて、どうする?」
身体を強張らせながらも声を洩らす事なく、静かに耐える彼女の首筋からは、赤い血が伝い流れる。その光景に血の気が引く感覚を覚えた。
そんな中、気丈さを崩さない彼女と目が合う。その瞳の奥が不安気に揺れていた。
「ユリウスッ、剣を下ろせ!」
レンブラントは叫ぶが、彼は剣を構えたまま動く様子はない。視線はクヌートを見据えている。
(まさか、彼女を見殺しにするつもりなのか……⁉︎)
そう思った瞬間、今度は一気に頭に血が上った。そして気が付けば剣を抜きユリウスへ振り下ろしていた。
キーンッ‼︎ 部屋に剣と剣が擦れる音が響く。
「レンブラント、止めないか!」
「レンブラント! お前、何してるんだよ⁉︎」
クラウディウス達がごちゃごちゃと喚いている声が聞こえるが、興奮し過ぎて言葉として認識出来ない。
今は兎に角ユリウスをどうにかして抑え込む事しか考えられない。
「チッ……」
カッカッカンッ‼︎ 剣で打ち合う中、ユリウスはレンブラントを睨み付け舌打ちをした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます