第40話……民主派のクーデター!?

――ライス伯爵家。

 セーラさんの家であり、フランツさんが家宰を務める家でもある。


 この世界には私は詳しくないが、少し調べたところによると、この地が共和民主制をとってないのには理由がある。

 なぜだか分からないが、この世界の人類は広範囲の宙域の未開の惑星に、散らばって住んでいる。

 推定総人口は20億人といったところだろう。


 宇宙に広く散らばった人類に、出来る限りの通信インフラや行政を施行しようとした際に、時の中央政府はまどろっこしい民主手続きに嫌悪し、政策効率を求めた。


 その実行案として、各惑星の地元有力者をそのまま貴族階級として配置。

 その地方統治権を認める代わりに、中央政府自体を各惑星政府の上に立つ王家として中央政権を成立させたらしい。


 そのような複雑な要因の副産物として、ライス家が統治する惑星アーバレストにも昔の名残にて、形式上は民主議会が存続しているのだ。


 私は先日、マーダ連邦に奇襲され、安否不明になった王家を蔑ろにした提案をした。

 これが思わぬ反感を呼び、今回の惑星アーバレストへの帰還も、人目を避けてお忍びとなってしまったのである。


 ユーストフ星系に到達したクリシュナは、減速しつつ惑星アーバレストの衛星軌道上に到達。

 夜間に隕石を装い、自然重力落下により、アーバレストの海面部へと静かに着水。

 こっそりとA-22基地へと入港した。




☆★☆★☆


「カーヴ殿、良く帰ってきてくれた!」


 A-22基地にフランツさんが出迎えに来てくれた。

 彼は私の肩をパンパン優しくと叩く。



「ただいま戻りました!」


「いやいや、資源調査の結果はとても貴重なものだった。流石はカーヴ殿。これからの開発が楽しみでしょうがないな。はっはっは!」


 フランツさんは私の持ち帰った資源データを受け取り、ご満悦。

 その顔を見て私も少しうれしくなる。


 トムとレイは用事で基地にいないらしい。

 二人ともしばらく会えていない。

 彼等も元気でやっているだろうか?



「……では一度、お嬢様にもこのデータを見ていただきますぞ!」


「はい、よろしくお願いします!」


 夜も遅いために、フランツさんは一旦セーラさんの待つ館へと帰還。

 私とブルーは久々にA-22基地のベッドで眠ることとなった。




☆★☆★☆


――翌日



「カーヴ殿、起きてください!」


「はい?」


 早朝にも関わらず、フランツさんが私を起こしに来る。

 ブルーと寝酒を楽しんだので3時間も眠れてはいない。



「お嬢様、こちらへどうぞ!」


「ぇ?」


「おじゃましましてよ!」


 A-22基地の士官用の仮眠室に、外出着姿のセーラさんまでやって来た。



「フランツさん、一体なにがあったんですか!?」


「民主派のクーデターです!」


「え!? 私が原因ですか?」


「……いえ、あまり関係ありません。他の星系の惑星でもたまに起こるんですよ。民主派のクーデターが!」


 ……民主派のクーデターという言葉に馴染めないが、とりあえずは民衆に武装蜂起されて、セーラさんとフランツさんはA-22基地へと逃げて来たということだった。


 着替えて基地の入口のゲートの付近まで出てみると、早速民衆の皆様のお出ましだった。

 複数の武装した車両が詰め寄せて来る。

 大きな横断幕には『独裁反対!』とデカデカと書かれている。



「独裁者を出してもらおう!」


「ここは私の私有地です。立ち入りはお断りします!」


 A-22基地は私の私有地の中になる。

 もし相手が入ってきたら不法侵入というやつである。



「我々は民主主義者だ! つまるところ正義である! 不当な独裁者は倒されるべきなのだ!」


「回答は後日行いますので、今日のところは帰ってください!」


 相手も流石に武装した基地には入ってこず、とりあえずは帰ってくれた。

 私は歩哨を増やす手配をし、基地の警備を厳重にするよう命令した。




☆★☆★☆


「フランツさん、正規軍はどうしたんです?」


 私は基地内で落ち着いたであろうフランツさんに問う。



「いやあ、昨晩にネメシス殿に脱獄されましてな。素早く命令系統を奪取されてしまいました。面目ありません」


「フランツは悪くないわ!」


 しょげるフランツさんを、励ますセーラさん。


 どうやら不正を働いていた汚職軍人たちと、過激な民主派が手を結んで蜂起したらしい。

 さらには、中央王権擁護の極右派閥まで混ざっているという。

 もはやなんでもありの反乱であった。


 しかし、現実問題として、アーバレストの正規の地上部隊は5万名を数える。

 A-22基地の兵力は2000名。

 もし、攻めて来られたら、ひとたまりもない兵力差だった。



「相手に攻めてこられたら、ご領主さまの安全が保障できません!」


 私はフランツさんにはっきりと言った。すると、思わぬ回答が返ってきた。



「……では、お嬢様を伴って逃げてください! 私は残ります!」


「フランツ!」


 セーラさんは悲鳴にも近い声で異を唱えたが、フランツさんの意思は固かった。



「全員で逃げますとな、相手の支配権の正当性を認めることにもなりかねませんからな」


 ケセラセラと笑うフランツさん。


 ……が、彼の軍事的手腕のなさは致命的だ。

 彼にこの基地の防備を任せるわけにはいかない。



 私はその日のうちに、急ぎレイとトムを召喚。

 彼等とも相談し、セーラさんの脱出作戦が練られたのだった。


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