第141話 仏敵というか世界の敵というか
「数々のご無礼、何卒ご容赦いただきたく――」
再び頭を下げた可成君に許しを与え(と言うと偉そうだけど、まぁそう答えないとこの場が収まらないのでしょうがない)、立ち上がってもらう。
「三ちゃんにいい友達がいるようで安心しました」
私が可成君の肩を叩くと、可成君はムズかゆそうな顔をした。照れているらしい。
「いえ、拙者はあくまで家臣でして、友などと恐れ多く――」
なるほどこれが戦国のツンデレか。
『だいぶ違うと思いますが』
男のツンデレもこれはこれで萌えますなぁ。
≪なんだ、ただの男好きか≫
ぶん殴るわよ玉龍?
またボコってやろうかしらと考えつつ、可成君に小声で話しかける。
「あ、そうだ。私が戦場にしゃしゃり出ない理由はもう一つありまして」
「? と、いいますと?」
「私は三ちゃんを信じていますので。三ちゃんなら、私が手出ししなくても天下統一してくれるでしょう」
「…………」
「三ちゃんに期待していないのなら、最初から介入します。三ちゃんに不安があるのなら、何かと理由を付けて手を出しましょう。しかし私は三ちゃんを信じていますから、私が戦場に出ることはありませんよ」
「……
キラキラとした目で私を見る可成君だった。なんか知らんけど好感度が爆上がりしたっぽい。
『実際、信長が戦を始めたら何だかんだと理由を付けて介入しそうですけどね』
私を『夫のためなら何でもするポンコツ妻』みたいな物言いするの、止めてもらえません?
◇
お見送り役の可成君とはここでお別れだけど、交渉役の平手さんは一緒に美濃まで行くことになる。
孫一君たちもやって来たのでさっそく出発準備。結構な大人数なので何隻かの船に別れての遡上となった。
「……あのぉ、さすがに馬を乗せるのは……」
と、船頭さんが困っていたので玉龍(馬ver.)の首元を叩く。
「じゃあ、人間形態で船に乗りましょうか」
≪む? いいのか? いきなり変身しては騒ぎになると思うが……≫
「大丈夫じゃない? 戦国時代の人って適応能力高いし」
≪……あぁ、お前に付き合っておればな。慣れてしまうというものか≫
「いくら私でも馬が人になるレベルの驚きは提供していないと思うわよ?」
≪自覚がないって大変よな≫
呆れつつも玉龍の身体が光を放った。数秒後、光が収まると白馬の姿はかき消えていて、代わりにいたのは白髪金目の美少女だった。
「な、なんと!?」
「馬が人に化けた!?」
「妖魔の類いか!?」
「幻術か!?」
みんなが予想以上に慌てふためき――
「――
という、孫一君の発言で混乱は一気に収束した。
「……まぁ、そうですな」
「帰蝶様の馬ですしな」
「人に化けるくらいはしますか」
「いや、この程度で慌てふためくとはお恥ずかしい……」
解せぬ。
というか『私の馬』になったのはついさっきでしょうが。それまではお義父様の馬だったでしょうが。
≪やはり慣れてしまうか。哀れなものよな≫
しみじみとつぶやく玉龍だった。解せぬ。
◇
色々あったけど、全員無事に船に乗って川を遡上する。ただまぁ割と風任せなのでのんびりとした船旅だ。
しかし、川だってのに関所が多いわよね。
『むしろ戦国時代の主要交通路ですからね。関税を取るのに関所が多くなるのも仕方ないでしょう。あとは一応美濃と尾張の国境でもありますし』
それにしたって多すぎである。いやお金はあるからまだいいんだけど、関所のたびにいちいち止められる(そして銀髪に驚かれる)のは面倒くさいことこの上ない。
…………。
いっそのこと関所なんて吹き飛ばしてやろうかしらん?
『危険思想ぅ』
いやいやみんな関所の多さに困っているし、経済的な負担も大きいし、流通の妨げになる。関所なんて吹き飛ばしてしまった方が世のため人のためなのでは?
具体的にはレーザー系の攻撃魔法でチュドーンっと。川に沿ってぶち込めば一掃できるでしょうたぶん。
『あなたどうせ手加減間違えて長良川から美濃、越前、加賀あたりまで撃ち抜いちゃうんですから止めなさいって』
どういうことやねん。いくら私でも手加減間違えで日本海までくり抜いたりはしないわ。ちゃんとそれなりに準備してからじゃないと。
≪手加減しなければ地形を変えられるのか……バケモノめ≫
『というか攻撃魔法は自主規制中なのでしょう? 師匠さんの教えはどうしたんですか?』
え? 関所を吹き飛ばすのは世のため人のためなんだから、セーフですよ?
『判断基準が甘すぎる……』
甘すぎるらしい。こんなにも自重しているのに。
……いや、むしろ『初級魔法で山を吹き飛ばしたり森を消し飛ばしちゃった♪』というのは転生者のテンプレなんだから、ここは一発貫通させるのも手かしら? そうすれば伊勢湾と日本海を繋ぐ大運河が……。
『……前の世界から
≪……この国の仏法を正す前に、まずはコイツをどうにかするべきなのでは?≫
真面目な顔で検討するツッコミ二人であった。解せぬ。
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