第88話 はじめて☆のデート
「――はい、脈拍も正常。とりあえず問題はなさそうね」
夕食後。
小西隆佐君の奥さん、若草ちゃんの診察をしてあげた私である。だって子供を産むには若すぎて不安なんだもの。
ちなみに。脈なんて測らずとも『鑑定』してしまえば健康状態は丸わかりだ。けれど、やはりこういうのはお約束というかイメージが大切なのだ。じっと見ただけで『大丈夫よ』と言われるのと色々診察してから『大丈夫よ』と言われるのでは安心感が違うらしいからね。
出産日時も“視て”おいたから、その時になったら出産に立ち会いましょうかね。この時代って室内の消毒すらしなさそうだし。
そんなことをしているうちに堺の夜は更けていったのだった。
…………。
……はっ!? しまった! 三ちゃんを逆夜這いするの忘れてた!
『エロ娘』
せめてポンコツと言ってくれませんかね?
◇
翌朝。
今日はとうとう三ちゃんとのデートである。戦国時代に『デート』なんて概念は存在しないというツッコミは受け付けておりません。
今日は一日デート♪ して、明日の朝くらいに尾張まで転移させればいいかしらね? 長旅したあとだから一日ゆっくりして、そのあと末森城に行った方がいいだろうし。なにせ車なんてない時代なのだから。
あ、そういえば。
「ところで何で末森城に行くの? 悪戯しすぎてお説教されるとか?」
「……帰蝶はわしを何だと思っておるのだ?」
「天下の大将軍 (義輝)にまで『うつけ』っぷりが鳴り響いちゃっている織田三郎信長殿ですよねー?」
「ぬぅ……」
やはり座禅か、と嘆く三ちゃんであった。
「まぁよい。末森城の築城を祝して宴が開かれるのでな。嫡男として参加せねばなるまい」
「へぇ築城の。ということは、織田信秀さん(信長の父)にお祝いの言葉を述べるのかしら?」
「そうなるな」
三ちゃんの答えに私はきゅぴーんと。きゅぴーんときましたよ。
「これは! お義父様を買収――じゃなかった、媚を売るチャンス!」
『媚って。言い直した意味がないですね、それ』
プリちゃんのツッコミをスルーしつつ三ちゃんの手を取り、早足で歩き始める。
「ここでお高い贈り物をして『なんと見事な女だ! ぜひ息子の嫁に!』となってもらいましょう!」
「……父上はそんな単純であるかのぉ?」
首をかしげる三ちゃんをスルーしつつ宗久さんに首を向ける。
「宗久さん。築城のお祝いには何を送ればいいですかね?」
「築城祝いですか……。あまり聞きませぬが、そうですなぁ……。武家に送るならやはり太刀と馬でしょうか。馬の場合は時間もありませんし、目録だけ送ることになるでしょうか。それと
「ほうほう」
まぁ馬は今から良い馬を探せるとは限らないから宗久さんのアドバイス通り目録だけ送るとして。刀は八板清賀さんに聞いてみて、金は金貨でも送りましょうかね。美術品としても価値があるみたいだし。
「三ちゃんは何を送るの?」
「む? 何も送らないが?」
「あー、ダメダメ。家族だからって手抜きしちゃあ。むしろ家族だからこそこういうときにバシッと決めないと。しょうがない、ここはおねーさんが立て替えてあげましょう」
三ちゃんの返事を聞かずに話を進める私である。宗久さんに尋ねながら堺をめぐり昆布や椎茸、干鮭といった貴重な食品やら唐糸(輸入品の絹糸)やらをかき集める。
ふっふっふっ、ちょっと楽しくなってきちゃった。もうこうなったら容赦なく贈り物をして『尾張の虎』や『器用の仁』と称えられた織田信秀の度肝を抜いてやろうかしらね。
「……まこと、面白き女よな」
なぜか呆れたようなため息をつく三ちゃんであった。解せぬ。
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