第57話 人質救出



 鎖型の魔導具について行って森の中に分け入ると……たどり着いたのは古ぼけた寺だった。

 近くの茂みに身を隠しながら本堂に近づく。


 魔法で堂内の声を聞いてみると、あの生臭坊主の取り乱した声が聞こえてきた。


「くそっ! なんだあれは!? あんなバケモノがいるだなんて聞いてないぞ!?」


 バケモノ扱いされてしまった。薬師如来の化身 (他称)に対して無礼な坊主である。

 三ちゃんが興味深そうにしていたので、他のみんなにも堂内の声が聞こえるようにしてあげる。


「おい、どうするんだ?」

「法主様の護符を使って失敗したとなれば首をはねられるぞ?」

「だからこんなことはしたくなかったのだ」

「う、うるさい! お前らも賛成しただろうが! もうこうなれば出世など関係ない! 逃げるしかあるまい!」


 お、逃げてくれるなら人質も簡単に確保できるかしら。と、甘いことを考えてしまう私だった。


 まったく以て甘い。

 屑はどこまで行っても屑だというのに。


「……へへっ、その前に、楽しませて・・・・・もらおうじゃねぇか」

「いいねぇ」

「ずっと我慢してたんだ、最後くらい楽しまなきゃな」

「ガキはどうするよ?」

「騒がれても面倒だ。殺しちまえばいい」


 うわぁお。屑だ、屑がおる。これはもう雷を落としていいわよね? 物理的に。


 準備運動とばかりに手のひらに帯電させていると――



「――貴様らの悪事! 天が見逃してもわしが許さん!」



 真っ正面から。

 本堂の扉を開けて叫ぶ三ちゃんだった。せめて奇襲するとか、犬千代君たちに指示するとかしなさいよ。弾正忠家の跡取りが真っ先に突っ込んでどうするのか。


 さては三ちゃん結構アホだな?


 私が確信を抱いているうちに可成君や犬千代君たちが駆けだして、三ちゃんの側に侍った。そのまま本堂の中に突撃して――


 うん、まぁ、小悪党が第六天魔王とか攻めの三左とか槍の又左とかに勝てるはずがないものね。ちょっと悲鳴とか生々しい音とか響いてくるけど是非も無し。私には何も聞こえません。


 すべてが終わったあと。三ちゃんたちは意気揚々と本堂から出てきた。きつく縛られ、顔がボコボコになった坊主たちと一緒に。


 人質であろう若い女性と幼子は無傷なようだったけど……目の前で容赦ない暴行が繰り広げられたせいか蒼い顔をして震えてしまっていた。


 なんというか、うちの第六天魔王がすみません。





「な、何とお礼を申し上げればいいかっ!」


 深々と土下座する痩せこけた青年――鳥居半四郎さんだった。なぜか私に向かって。助けたのは三ちゃんたちなのだからそっちにお礼を言うべきなのでは?



『ほんと、主様って自覚がないですよね。色々と。ヤケドを治したのも、長老たちの悪事を暴いたのも、監禁された妻子の場所を突き止めたのも主様じゃないですか』



 おー、すっげぇ。そう言われるとなんだかとても優秀そうに聞こえるわね私。三ちゃんに惚れ直してもらえるかしら?



『ほんと、主様ってポンコツですよね』



 なぜか呆れられてしまった。解せぬ。

 首をかしげていると半四郎さんが頭を上げた。その目には神を目にした狂信者のような熱がこめられている。


「薬師如来様! ぜひ! ぜひ拙者をお側においてくだされ! この鳥居半四郎、生涯を掛けてあなた様にお仕えいたす所存!」


 ん~?

 なんかとんでもない展開になってきたぞ? つまりは光秀さんみたいに家臣になりたいってこと? でも『薬師如来』扱いされているしなぁ。


「え~っと、半四郎さん。私は別に薬師如来でも化身でもないのですが?」


「……なるほど、そういうことでしたか。では、この世における名前を教えてくだされ」


 なんだいその『えぇ分かってますよ、そういうことにしておけばいいんですね?』って顔は。隆佐君と同じような顔をしているぞー?


「……斎藤帰蝶です」


「帰蝶様。ぜひ拙者を家臣にしてくだされ。むろん禄(給料)など不要なれば」


 いやいやそういうわけにもいかないでしょう。ここは光秀さんほどとはいかないまでもちゃんとした給料を――いや奥さんに子供までいるんだから少し多めに――いやいやちょっと待って。なんで家臣に加えること前提で思考しているのか私。


 う~ん、どうしてこうなった?




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