第35話 マムシ退治
「――うむ、クマとはこうにも美味いものであったか」
父様(道三)がバーベキューで焼き肉食って舌鼓を打っていた。戦国オタに見せたら金が取れそうな光景だ。
『さすがにハゲジジイの食事シーンは金にならないのでは?』
ハゲジジイって。プリちゃん容赦なさ過ぎである。
――稲葉山城。
御殿の庭先で私はクマ肉を焼いていた。そして父様は焼けるはしから食っていた。この場には他にも(光秀さん含め)家臣の方々がいるのだけど、父様から肉を奪える強者はいないらしい。まさしく
『しかも『帰蝶』が手ずから焼いたお肉ですからね。恐れ多くて手など出せないでしょう』
どうしてこうなったかというと、三ちゃん(信長)との出会いのあと。ついうっかり鍋やら毛皮やらを片付け忘れたせいで追いついてきた光秀さんにクマハンティングがバレてしまったのだ。
で、なんやかんやで父様(道三)にまで話が行ってしまい、なんやかんやで父様たちにクマ肉を食べさせることになってしまったと。
まぁお肉は余っているから別にいいんだけど……父様って子供の頃に得度受けた(僧侶になった)んじゃないの? 肉食っていいんかい肉を。
『道三は子供の頃に得度を受けたとされてきましたが……実はそうじゃなかったんじゃないかという説もありますね』
「歴史って曖昧だなぁ」
後世の人のために帰蝶日記でも書き残してあげようかしら? あるいは真・信長公記。
そんなことを考えている間にも父様はクマ肉をバクバクと食っている。そりゃもうバクバクと。冬眠前のクマかって勢いで。
そんな父様に向けて私はにっこりとした笑みを浮かべた。
「そういえば父様。クマ肉とは脂が多くてですね……。食べ過ぎるとお腹を壊してしまうんですよ。しかも普段肉を食べておらず身体が慣れていないとくれば、ね?」
私の言葉にぴたりと箸を止める父様。なんだか冷や汗を掻いているような気がするしぎゅるる~って感じの音が鳴っている気がする。不思議だねー。
「……帰蝶。そういうことはもっと早く言ってくれ」
「あら失礼。普通に一人分を食べるだけなら問題なかったのですけれど。まさか美濃守護代ともあろう御方が家来に分け与えることもなく独り占めするとは思いませんでしたので。ついつい助言が遅れてしまいましたわ。別に、『ちったぁ痛い目を見ろ暗君が』だなんて考えていませんわよ?」
「…………皆の者、儂は所用を思い出した。あとは皆で楽しむがいい」
先ほどよりも明らかに冷や汗の量を増やしながら父様は御殿に戻っていった。直接厠に向かわないのは国主としての意地かな? あとで整腸剤でも差し入れてあげよう。
「……この腹黒さ。やはりお館様の娘か……」
聞こえてますわよ光秀さん?
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