未来の王太子夫妻の恋 3
始めてのアホでクズでお馬鹿な婚約者との最低最悪な邂逅を果たした3日後、キャサリンは王太子妃教育のために登城していた。
「もっと腰は低く!そう、そんな感じですわ。ですが、まだまだですわね。公爵家の娘でも、この程度の教育しか受けていないなんて、わたくしたちの子供世代が不安ですわ。」
「………精進いたしますわ。」
ピンヒールに重たいコルセットドレス、複雑なシニヨンにするために引っ張られた髪。どれをとっても痛い。キャサリンは微笑みを浮かべて、かれこれ4時間激痛に耐えていた。というか、初回からこんなハードなレッスンというのは非常識ではないだろうか。キャサリンは王妃に対する溜め息を必死なって隠していた。
本来の教育係たる子爵夫人にキャサリンが視線を向けると、彼女はあからさまに視線から逃れた。どうやらこの教育は普通ではないし、どちらかといえば、やっぱり非常識らしい。
ーーーパチリっ
扇子を閉じた音に、キャサリンは一層美しい微笑みを浮かべて王妃にカーテシーをした。
「お忙しい王妃殿下に(手酷い)ご指導をいただけたこと、至極光栄にございました。」
「えぇえぇ、精々その感謝を忘れないことね。」
(えぇ、この恨み、決して忘れませんわ。いつか100倍にしてお返しいたしますわね。)
キャサリンの言葉を真の意味で理解していない王妃は、いやらしい笑みを浮かべてキャサリンを馬鹿にするような流し目をご丁寧にプレゼントしてから公務に帰っていった。
あの王妃のことだ。まともな公務なんかしていないだろう。キャサリンは心の中で思いっきりあっかんべーをした。
「ねえ、私、お散歩に行きたいと思ってますの。行ってきてよろしくて?」
「え?」
「この授業、規格外だったでしょう?私、少しだけ疲れてしまったの。庭園をお散歩するだけですわ。1時間だけ休憩が欲しいの。」
こてんと首を傾げて上目遣いで、呆然としている可哀想な子爵夫人を見つめた。キャサリンはおねだり上手なこともあり、彼女くらいならば簡単に落とせる自信があった。
「だめ?」
今度は少しだけうるうると瞳を揺れさせる。
「うっ、わ、分かりましたっ!!分かりましたから、そのお綺麗で愛らしいお顔をしまってー!!」
「わあーい!じゃあ、行ってきまーす!!」
ご機嫌が一気に浮上したキャサリンは、痛いピンヒールを脱ぎ捨てて、王太子妃教育の教室として使われていた2階お部屋の窓から外に出て、窓の隣にあった木に飛び乗ってするすると地面に降りた。ついでに痛い髪の髪飾りも躊躇いなく外して、コルセットも器用に緩めておく。侍女に教わった小技だ。
「きゃー!!」
出てきたお部屋からえげつない声量の悲鳴が聞こえる。
お歌の先生でもあると聞いていたが、まさかここまで伸びやかで美しくて大きな声が出るとは思っていなかった。後で色々な人に叱られそうだ。
キャサリンはそう考えながらも、満面の笑みを讃えて3日前に訪れた庭園に向かって人気のない道を全力疾走していた。ドレスの裾をたくし上げて走るのは大層気分がいい。………見た目はよろしくないが。
「あ、いた。」
キャサリンは目的の少年、レイナードを見つけて走るスピードを緩めた。結構な距離を全力疾走していたはずだが、運動が大好きなキャサリンは息すら乱れていない。
「レイナードさま!!」
「!?」
キャサリンがぶんぶん手を振ってレイナードに挨拶をすると、レイナードはこれでもかというほどに目を大きく見開いた。
「ど、」
「ど?」
「ーーーどーしてそんなにぼろっぼろなんだー!?」
「!?」
今度はキャサリンが目を見開いてびっくりする番だった。びっくりするくらいに大きな声だ。王宮の人間は皆声が大きいのだろうか。大きいならば、しっかりと鍛錬を積まねば………!!キャサリンは明後日の方向に思いっきり思考を飛ばしながらもにこにこした。幼い頃から母親に叩き込まれた笑顔の仮面は余程のことでもおさらばしないらしい。キャサリンは変なところでふむふむと感心してしまった。
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