第17話
「国王陛下、彼女はこの後どうするつもりですか?」
「………北の塔にでも閉じ込めようと思っておるが………、コレット嬢はコイツが欲しいか?」
ギルバートの質問を受けた無表情の国王は、メアリーに静かな視線を向けて質問した。
「………ヒステリックに叫ぶ女は私自身は必要ありませんが………、私の兄に渡したら有効活用してくれそうですので、譲っていただいてもよろしいですか?」
「あぁ、構わぬ。我はコレを愛しておらぬからな。」
「あらまぁ、酷い。」
メアリーはくすくすと笑った後すっと後ろに視線を向け、ひとりの壁の花に顎をしゃくった。顎をしゃくられた地味な容姿の女性は訓練された動きで国王に6枚の紙を手渡した。
「誓約書をお願いいたしますわ。」
「本当にしっかりとした娘じゃな。」
ギルバートの腕の中で商売専用の仮面をつけてにっこりと笑ったメアリーに対し、国王は困ったように破顔した。
国王は誓約書に一通り目を通した後、何の躊躇いもなく誓約書にサインし、自分の従者に王印を持って来させて誓約書にその王印をポンと押した。
「これにて完了ですわね。」
「あぁ、厄介払いをしてくれたこと、感謝する。」
「あら、私はギルのためになることをしただけですのよ?感謝される筋合いはございませんわ。」
「ふっ、」
メアリーは可愛らしい仕草で小首を傾げ、その後国王の従者に手渡された誓約書に目を通した。
「その誓約書はいつ用意させたのだ?」
「? 先程の会話中ですわ。」
「出来すぎている気がするのだが………。」
「あの娘は私のお気に入りですもの。優秀でしょう?」
「こちらに欲しいくらいだよ。」
「上げませんわ。」
「だろうな。」
国王とメアリーはばちばちと火花を散らして笑い合った。そんな大胆な婚約者の姿にギルバートは頭を抱えて蹲りたくなった。彼もまさかメアリーが国王相手にここまで大きく出るとは思ってもみなかったのだろう。
こんな態度の婚約者を見ても国王は文句を言うどころか頭が上がらないようだから、結果としては一応いい方向に転がしてくれたのだろうとギルバートは思った。良い誤算だろうが、心臓に悪い誤算だ。これからはやめて欲しいと密かに願ったことは彼だけの秘密だ。
「これにて我は失礼させてもらう。皆は夜会を楽しめ!!」
国王の言葉に皆内心苦笑しながらも深々と頭を下げた。
これにて一件落着という清々しい笑みを浮かべることができたのは、異常なまでに大胆な女性2人だけだった。当然ながら、彼女らの婚約者は清々しい気持ちどころか、やっと台風が去った安堵の心地になっただけだった。
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