第12話
「馬鹿クソゴミ屑虫野郎、ぎ、ギルに免じてさっさと終わらせてあげることにするんだから、感謝することね!!」
涙目での力説には一切の説得力がなかったが、それを言いかけたガイセルはギッとメアリーに睨まれてなにも言えなくなってしまった。
「あなたには私が所有するとーっとも危険な鉱山で、給料なしで一生働いてもらうわ!!」
「え?殺さないの?」
「え?」
「え?」
メアリーの働け宣言に、ギルバートはびっくりした声を上げ、メアリーはそのびっくりした声にまたびっくりした声を上げ、その声にまたギルバートが声を上げた。
「はあ?俺がそんなところで働くわけないだろう?」
若干1名未だに状況を理解できていない馬鹿ことガイセルが固まってしまっているメアリーとギルバートに疑問をぶつけた。
「ばっかじゃないの!?
カロリーナは心を決めたのか、勢いよくたと上がって、悪役令嬢顔負けの高らかな笑い声を上げた。
「あら、よく分かっているじゃない。カロリーナ様も覚悟して置いてくださいね?」
「ひぃ!!………分かりました。ですが、最後の晩餐くらいは美味しい物を食べさせてください!!」
そして、メアリーにバッチリと釘を刺された。
「アリーは優しいからそこのところは大丈夫だと思うよ?」
「え?」
「だって君は一応アリーの逆鱗には触れていないし、地雷も踏み抜いてないからね。」
ギルバートは苦笑しながら、メアリーが気に入った新たな
「おふたりとも、話を戻してもいいかしら?」
「いいよ。」
「構わないわ。」
メアリーは気を取り直してと言わんばかりに扇子の端をパシンと左手の掌に叩きつけてから、再びガイセルへと視線を戻した。
「逆に聞くけれど、じゃああなたはこれからどこで働くの?」
「はあ?この城に決まっているじゃないか。」
ガイセルの声音にはなにを当然なことを聞いているんだ?という疑問符が浮かんでいた。
「と、言っていますが、如何なさるのですか?国王陛下。」
にっこりと相手を威圧する笑みを正面から受けることとなった国王はプルプルと震えながら、大きく首を左右に振った。
「ち、父上!?」
「うるさいから黙ってくれる?」
メアリーのピシャリと言った言葉に、ガイセルは口を閉じた。
「だ、そうよ。あなたはもう王太子ではないっぽいから、働く場所がないわね。さて、もう1度質問するわ。あなたはこれからどこで働くの?」
「………………。」
「ないわよね?働く場所なんて。さっきのギルの言葉からして、お勉強はまともにせず、剣術から逃げ倒し、あまつさえ後ろ盾だった元婚約者様を蔑ろにしていたんだから。」
「………………。」
ガイセルはメアリーの言葉になにも言い返すことが出来ずに、逃げるように情けなく俯いた。
が、やがて上げた顔には喜色満面の狂気に滲んだ笑みがぴったりと貼られていた。
(ふん、やっぱり馬鹿な男。父親に見捨てられたのは私の所為だ、私を消せばどうにでもなる、あたりのことを考えているのでしょうね。救いようもないとはまさにこのことかしら?)
メアリーはその笑みに、花が綻ぶような淡く儚い完成された笑みを返した。
「アリー、」
「仕事ができる限りでならアイツを好きにしていいわ。」
「分かった。感謝するよ。」
ギルバートの身体に帯び始めた殺気を手慣れた雰囲気でするりと受け流したメアリーは、困った子供をみる母親のような慈悲深い表情でギルバートを見つめた。
「怪我は絶対にしないでね。」
「私があんな弱い屑に負けるとでも?」
「いいえ、思っていないわ。でも、絶対怪我をしないとも言い切れないわ。ネズミだって襲ってきた猫に牙を剥いて反撃することもあるし、何より、馬鹿のすることの予測ってとっても難しいんだもの。」
「分かったよ。十分に注意する。」
「ん。」
ギルバートのしっかりと節の通った男らしく綺麗で、けれども無骨な剣だこのある手を、小さくて傷一つない真っ白な両手でぎゅっと握り込んだメアリーは、うるうるとした瞳をギルバートに向けて不安気に表情を歪めた。
「はぁー、見ているこっちの気にもなってほしいものね。」
ここで本音をぶちまけた勇者たるカロリーナに、会場内の皆皆様は内心で盛大に拍手喝采した。政略結婚だと言われてもなんの疑いも持てないような、そんな高貴な身分の男女2人が本気でお互いのことを愛し合い、公衆の前で堂々とイチャイチャするのであるから、当然の反応だろう。
そして、そんな2人に注目が入っているのがいいことに、男は狂気の孕んだ笑みを浮かべた仮面をそのままに、音もなく愛し合う2人の元へと小さく、けれども、着実にどんどんと歩みを進めて行ったが、とある2人を除いてはその男の歩みに気づく者はいなかった。
「喰らええええぇぇぇぇぇーーー!!!」
「な?言っただろう2度あることは3度あるって。」
「そうね。」
「ぐはっ!!!!」
忍び寄ることができていると思い込んでいたガイセルは見事にギルバートによって返り討ちに遭い、またもや床に転がされてしまった。
ゴキッという鈍い音がするほどにキツく殴られたガイセルは床で悶え苦しんでいるが、メアリーはそんな彼を見ても同情することはなく、それどころか面倒くさそうに深いため息をつくだけだった。
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