ゲーム序盤で死ぬモブヒーラーに転生したので修行したら、なぜか真の勇者と崇められた ~ただ幼馴染ヒロインと自由気ままに暮らしたかっただけなのに、成り上がりすぎて困ってます~
第29話 魔神の悪あがき、そしてゲーム主人公の命運
第29話 魔神の悪あがき、そしてゲーム主人公の命運
「グオオオオオオオオッ……! オノレ、マタシテモ貴様カ……!」
そう叫びを上げる魔王シン──いや魔神。
魔神は今、シンの口を使って
「我ノ想定ハ正シカッタ、ヤハリ貴様ハ聖女ノ転生体デアッタ! デナケレバ《回復術師》ゴトキガ、我ヲココマデ追イ詰メルコトハ不可能!」
俺は聖女じゃなくて日本人男性なんだが。
……確かに「セイン」という「序盤で死ぬモブ」は、とある無名聖女の転生体とされている。
あくまでそれはゲームでは語られない「裏設定」での話だが、一応は事実だ。
ゲームのセインは、勇者シンと幼馴染リディアを魔王から救うため、自ら勇者を演じた。
そうすることができたのは、シンから採取した神性を、かすかに残っていた聖女の力を使って無理やり増幅・オーバーロードさせたからだ。
しかしこの世界は『セイクリッド・ブレイド』と似て非なる異世界。
この俺セインの前世は、紛れもなく日本人アラサー社畜男だ。
俺が聖剣を扱えるほどに強くなれたのは、才能・運・環境そして努力が揃っていたからこそ。
前回も魔神から「聖女の転生体」などと言われて一応黙っていたのだが、ここではっきりと言っておこう。
「俺はそもそも勇者でも聖女でもない。聖剣に選ばれただけの、ただの《回復術師》だ」
俺は、魔神の
これ以上、奴と会話をしていても意味がない。
「グフフ。誤魔化シテモ無駄ダガ、今ハソウイウコトニシテオコウ……ダガ残念ダッタナ、真ノ勇者セイン」
喉を潰されてもまだしゃべるか。
「貴様ガ愛シタ女……リディアト言ッタカ、奴ハタッタ今、魔族ノ手ニカカッテ死ニ絶エタゾ!」
「……バレバレの嘘を付くな。リディアの魔力反応はまだある」
まあ、ほとんど減衰してしまっているわけだが。
俺はダンジョンの最下層、一方のリディアは地上にいるわけだしな。
そういえば、俺の時限 《エリア・フルヒール》は役立っただろうか。
王都を出る直前に仕掛けておいたのだが。
「イヤ、貴様ガイマ嗅ギ取ッテイルソノ魔力ハ、我ガ偽装シタモノダ。リディア本人ハスデニ死ンデオル」
「じゃあ今すぐそれを増幅させてみるんだな。できなければ、お前は嘘をついているということになる」
「ソレハデキヌ。貴様ガ我ニ致命傷ヲ与エタセイダ」
「じゃあ──」
「ダガ、リディアノ死因ニツイテ説明ハサセテモラオウ」
俺は聖剣で魔神の首をはねた。
はねたつもりだった。
しかし奇妙なことに、首は繋がったままだった。
幻覚を見ているとでもいうのか。
「リディアハ貴様ガ倒シタツモリニナッテイタ、貴様自身ノ『ダークトライアド』ニヨッテ騙シ討チサレタノダ」
俺は確実にダークセインを倒した。
万が一生きていたとしても、ダークトライアドはダンジョンから出られないはず。
ダンジョンの魔物は、原理は不明だがスタンピード時を除いてダンジョンの外に出ることはできない。
そして今はスタンピードの最中ではない。
この前スタンピードを起こしたばかりだからな。
「お前の言っていることはありえない。ダークトライアドはダンジョンから出ないし、リディアにはダンジョンに来ないように言ってある」
「聖女エリスハ、リディアニコウ言ッタ。『ここはわたしたちに任せて、セインさんに加勢してあげてください』ト」
「エリスはそんなこと言わないしリディアも……」
「リディアノ笑顔ガ絶望ニ歪ムソノ様、貴様ニモ見セテヤリタカッタゾ。『偽物なんかに騙されてごめんなさい……わたし、ずっとセインくんのことが大好きだったのに、なんで……』ト嘆イテオッタワ!」
確かに俺は、ダークセインを倒したはずだ。
その証拠に、俺がダークセインを聖剣で貫いたとき、奴は消滅していた。
でも、もしそれがダークセインの偽装だったら?
《回復術師》には《ライト》という、暗闇を照らす光属性魔術がある。
《ライト》を応用して、光の
その隙に魔王シンが、安全な場所まで《ワープ》させていたら?
いや、それこそありえない。
聖剣の一撃に、死霊であるダークセインが耐えられるはずがない。
──いや、それすらも俺からコピーした《ヒール》で癒せるのか?
「ぐっ!?」
『何か』が俺の中に入り込んできた。
俺の本能が、「これはヤバい」と警鐘を鳴らしている。
「グハハハハハハッ! 《回復術師》デアリナガラ聖剣ヲ扱エル真ノ勇者ヨ、我ニスベテヲ
俺の心臓を貫くのは、俺が持つ聖剣だ。
俺の中に入り込んできた魔神を殺すには、これがもっとも効率がいい。
「自分ノ身体ヲ聖剣デ貫クナド、何ヲ考エテオル……死ヌ気カ……!」
「俺はなんと言われようと、リディアが生きていると信じている。決してお前を受け入れたりしない」
「オノレ……オノレオノレオノレ!」
魔神は俺の心を侵食するのをやめ、俺の身体から離れる。
そして再び、シンの肉体を
俺は《フルヒール》で傷を癒やす。
そして、己の魔力を聖剣に注ぎ込む。
「これで終わりだ。魔王シン、そして魔神」
力いっぱい、聖剣を振りかざす。
すると、魔神に乗っ取られたシンの肉体は、鮮血を上げると同時に強く輝き始めた。
「人間ドモニ卑シイ心アル限リ、我ハ何度デモ蘇ル。ソノコトヲ……忘レルナ……! グワオオオオオオオオオオオオッ……!」
地を揺るがすほどの
そして魔王シンの魔力も……
「うっ……」
大の字になって地面に寝転がりながら、シンはうめき声を上げた。
「また、お前に負けちまったな、セイン……」
「勝負は俺の勝ちだ。今すぐ魔族たちを止めてもらおうか」
「心配するなよ……魔王であるオレが討たれて魔神が表に出てきたと同時に、魔族どもは撤退し始めたぞ……」
今のところはシンの言うことを信じるしかない。
もし魔族たちが未だに王都を攻めていたとしても、俺が聖剣を携えて加勢すれば最悪の事態は避けられるはずだ。
さて、問題はシンの扱いなのだが……
「おっと、《ヒール》はやめてくれよ……?」
「シン、君には王国騎士団による事情聴取に応じ、
「それでもダメだ……どういうわけか、オレはアンデッドになっちまったんだよ……まあ、何もしなくてももうすぐ浄化されちまうがな……これも聖剣のせいだ」
アンデッドになったというのなら、俺の《ヒール》では逆にシンを殺してしまう。
俺が何をしようが、何もしまいが、シンはどのみち死んでしまうようだ。
「オレは、間違ってた……」
「君らしくもない」
「自分でもそう思うぜ」と、かすれた声で笑うシン。
「いずれ勇者になるからって、才能に溺れちゃダメだったんだ……謙虚さを失ってはいけなかったんだ……調子に乗って、周りを見下してはダメだったんだ」
神が与えし才能──天職。
それに振り回された者は、最弱職 《回復術師》を授かった俺や、狂信者から差別される《魔女》リディアだけではない。
シンという男も、実はそうだったのだ。
「それに比べてセイン、お前はすごい……ゲームの序盤で死ぬクソザコモブ野郎のくせに、勇者であり魔王でもあるこのオレを倒したんだからな……分かりにくい才能を駆使して、血のにじむような努力をしてきたんだろうよ」
「シンに褒められるなんて、今日は火の雨が振りそうだ」
「せっかくこのオレが褒めてやってるのに茶化すなよ」と、青い表情で微笑むシン。
「本当は全部分かってた……オレがお前に勝てないのは、努力と謙虚さが足りないからだって……でも認めたくなかったんだ、オレだってそれなりに努力してきたからさ。お前ほどじゃねえけど……オレは必死になって言い聞かせていた……主人公であるオレが、モブ野郎に何度も負けるはずがない……リディアがセインを選ぶはずがないって……」
「急に話が飛んだな」
「リディアには本当に、取り返しのつかないことをしてしまった……本当にどうかしてた、リディアを騙してヤろうだなんて……そんなことして、リディアから拒絶されたら意味ねえじゃねえか」
身も心も苦しみながら、後悔の言葉を述べるシン。
できればもう少し早い段階で気づいて欲しかったのだが、今それを言っても仕方のないことだ。
シンは目に涙を浮かべながら続ける。
「セイン、最後に頼みがある……」
「最後だなんて言うな。とりあえず俺と一緒にダンジョンを出て、魔神に植え付けられた知識を俺たちに提供し、法律に基づいた処罰を受けて罪を償うんだ」
「魔神の野郎は『リディアは死んだ』なんて嘘を吐きやがったが、本当はちゃんと生きてる……だからリディアに伝えてくれ……お前を傷つけてしまって、本当にすまなかった……と」
その言葉を最後にシンは事切れた。
ダメ元で《ヒール》してみたら、まるでアンデッドのように光の塵となって消滅した。
「ふっ……『モブ野郎って馬鹿にしてすみませんでした』ぐらい言ったらどうなんだ。まったく」
腐れ縁であるシンとの思い出を、今一度思い出してみる。
うん、ロクでもない思い出ばかりだ。
だがその「ロクでもない思い出」もまた、俺の一部であることに変わりはない。
さて、そろそろ地上に戻るか。
魔族たちが本当に撤退したかどうか気になるし、それにリディアとエリスが無事かどうかも確認しなければならない。
最下層に設置されていた転移門をくぐる。
そうしてダンジョンの入口付近に戻った直後……
「セインくん!」
「ぐはっ──!?」
ダンジョンの外に出るやいなや、いきなりリディアに勢いよく抱きつかれてしまった。
さすがに倒れたりはしないが、リディアの頭が腹や胸に激突してしまって、少しだけ痛かったのは内緒だ。
……でも、リディアが生きていてくれて本当に良かった。
まあ最初から分かりきっていたことだがな。
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