百学期 千夜一夜喫茶を開く者ら

「はぁ~い、皆静かにして~。文化祭の出し物について決めるよ~。なんか案出してね」



「……俺、お化け屋敷!」



「私、喫茶店が良いかなぁ!」




「……んじゃあ俺は、劇をやりたいぜ!」




 クラスのあちこちから様々な意見が飛び交う。普段だったら手を挙げてない奴の意見など絶対に聞いてやらない私だったが、今回ばかりは許してやっていた。それもそのはず……なんたって文化祭が近いのだから。私達の学校は、二学期に入るとすぐ文化祭の準備に取り掛かる。出し物を決めて、10月終わり辺りにやる文化祭に向けて準備をするのだ。

 勿論、クラスの出し物はそうであって、他の部活とかでやる出し物とか学校全体の動きは一学期の頃から文化祭実行委員の人達が密かにやってくれている。毎年、実行委員が一学期の間にあらかたの準備を終わらせてくれるから私達は、二学期の初めまでダラダラできるというわけだ。




 今日は、ついにクラスの出し物について決めて行かなくちゃならないのだが……。





「瑞姫ちゃん、案は全部書いた?」



「あっ、はい! 縁日が書き終わったら全部です」



「よし……」



 それで、私は黒板の方を見てみたのだが……うーん。案がちょっと多すぎるな。まだ5分も経っていないのに……既に10も出ているだなんて……。それだけ皆、文化祭が楽しみなのだろうか。



 しかし、この意見を全部やるのは難しい……。





 縁日に……お化け屋敷、喫茶店、劇、焼きそば……迷路、ケバブ、コスプレ大会……。




 すると、隣で文字を書き終えて手を休ませていた瑞姫ちゃんが言った。



「……焼きそばとかケバブって縁日の中に入れられません?」




「あー、なるほどね。確かにいけそうかも……。まぁ、ただ縁日の中にご飯屋さんを入れるとなると……焼きそばかケバブのどちらかにはなるだろうけど……」





「そうですよねぇ……。予算の問題もありますし……」




 そこで、私は教室にいる他の皆に聞いて見る事にした。



「……とりあえず、多数決とってある程度は絞り込みたいんだけど、良い?」




 すると、教室中から賛成の声が聞こえてきたので、私は早速皆に手を挙げて貰った。そしてその結果が――。





「うーん、何とか色々絞り込めて……3つまでいけたかぁ」



 しかし、私の目の前に並んでいた3つの候補は……。





 喫茶店、コスプレ大会、ケバブ……。なんだか、絶妙にどれも噛み合わなそうな組み合わせだ。……いや、コスプレ大会と喫茶店は、コスプレ喫茶にしちゃえばいいと思うんだけど……ケバブって……。いや、このクラスの男子ケバブ好きすぎだろ……。うまいけどさ! うまいけど……。





「……何とか、この3つをうまく合わせられないかなぁ……」




 私がポツリと呟いた事に対して瑞姫ちゃんは恐る恐ると言った様子で告げる。



「……もう一度多数決をとるしかないんじゃ……」




「そうだねぇ」




 しかし、結局それから3回多数決をとっても男子達による圧倒的ケバブ人気は揺らぐ事なく……3つの意見は出揃ったままだった。






 いや、どうするねん……。もう時間もあんまりないぞ……。このままだとコスプレした女の子がケバブを持ってくれる訳の分からない喫茶店が誕生するぞ……。







「……って、待てよ?」




「どうしたんですか? 日和さん」




 瑞姫ちゃんに話しかけられた私が頭の中で閃いた案をクラスの皆に話す。





「……この3つ合体させよう!」




「え? でも……これ全部、うまく組み合わせ辛いって日和さん言ってましたけど……」




「いや、こうすれば良いんだよ!」




 私は、黒板にでっかい文字で書いて、それをクラスの皆に見せた。





「……ケバブを出しても違和感のないコスプレ喫茶! つまり、にしちゃえば良いんだよ!」






 私の一言にクラスの皆は「おぉ~」と感嘆の声を漏らす。そして……次の瞬間に「賛成」の声が上がる。




「良いですね! なんだか、今までにない案で新鮮で素敵だと思います!」






「よし! じゃあ、うちのクラスの出し物は……ケバブを出すアラビアンナイトカフェで決まり!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る