九十二学期 酷い人生を歩んだ者達

「……えーっと、恋人と別れる。別れる事に不満を抱いた恋人が暴走して、殺しにかかってきて、逃げるもうっかり3千円落としてしまった……か」


 私は、自分の手元に置いてあったお金を瑞姫ちゃんに渡し、溜息をついた。




「……はぁ、まずいなぁ。恋人が出来た時にかなりお金使っちゃってたし……このままだとゴールまでに持たないよ~」



 すると、その隣で瑞姫ちゃんが頬を膨らませた状態で私に言ってきた。




「……別れた恋人の心配は、しないんですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」




「あっ、あぁ……ごめん。とりあえず、車から降ろすね」




「酷いです……。日和しゃん……別れた恋人よりお金の心配をするなんて……そんなのあんまりです……」




 本当に涙を流していた瑞姫ちゃんに私は、少し困った。いや、これ……ゲームなんだけど。そんなにこのゲームに熱中していたのかこの子……。




 すると、そんな瑞姫ちゃんの傍で愛木乃ちゃんが意地悪そうに微笑みながら告げた。




「……うふふ、所詮はその程度の女って事ね。楽しかった? 穴モテした気分は?」




 おいおい……そんな事言っちゃったら……いくらドS属性持ってる愛木乃ちゃんでも言っちゃいけない事だってあるんだから……流石に瑞姫ちゃんも号泣するんじゃ……。





「……あぁ? なめとうか? 誰が穴モテじゃ? そもそも付き合った事もないもんが偉そうな口を聞くなんざ何様じゃわれぇ!」



 急に人格変わんなよ! ていうか、かなり本気で怒ってる!?




「……あらぁ、悲しいですね。恋人の関係というのは……。いつかは、散る花のように……恋というのも一時のもの。過ぎれば終わる関係ですね。しかし、兄弟である私とお兄ちゃんの関係は、恋人などという枯れた花みたいなのとは違って、最後まで関係は続きます。うふふ……そこが貴方達と私の大きな違いなのです!」




 乃土花ちゃんが、凄く知的な事を言っている……。あのいつもお兄ちゃんお兄ちゃんって言ってる乃土花ちゃんが……。



 しかし、そんな彼女の言葉に対して瑞姫ちゃんと愛木乃ちゃんは2人同時に口を揃えて言った。



「「だったら、割り込んでくんな!」」


 愛木乃ちゃんが更に追い打ち攻撃と言わんばかりに言った。



「……あなた、そもそも何なんですか! 日和ちゃんの兄妹になりたいと思っているのなら勝手にやっていてください! 私達と系統が全く違うくせに出しゃばらないでください!」



 瑞姫ちゃんもいつもの調子に戻って潤んだ瞳のまま告げた。



「そうですよ! 私達と乃土花さんは、そもそも狙っているものが違うんですから! そもそも論外でしょう!」



「なんですって! 貴方達……たった数ヶ月程度の付き合いで……」




「えーっと、皆さん? その……ゲームの続きを……」




「「「うるさい! 言われんでもやりますから!」」」





「はっ、はい……」



 なんだよ。この子達……今日、ずっとこえぇよ。なんで、俺がこんな年下の女の子達相手にビビらなきゃならんのだよ……。




 すると、いつの間にかルーレットに手を伸ばしていた愛木乃ちゃんが駒を5つ進めていた。





「……久しぶりに大きい数字来たし……何か良い事起きますように……!」



 彼女が、駒を5つ先へ動かし終えるとそこには、ぎっしりと文章が書かれてあって、その文章を彼女は、皆に聞こえるような大きな声で喋り始めた。



「……えーっと、仕事のストレスが溜まって、気分転換に仕事終わりに夜の街を散歩していたらとても良い人を見つける。その人をナンパして夜の街の中に消えてしまった……。次の日の朝、目を覚ますと隣にその人は、いなく……お金が半分机の上に置かれていた……。ホテル代、15000円の半分を払う。また、ルーレットを回して1~3が出たら赤の人。4~6が出たら青の人。7~9が出たら黄色の人が、残りの半分を出す……って、何なんですか! この生々しい人生は!?」




 すると、途端に瑞姫ちゃんと乃土花ちゃんから笑いが起こる。私は、この……なんとも言えないエゲツない文章に笑う事もできず、ただ愛木乃ちゃんがルーレットを回す所をじーっと見守る事にした。



 なんか……嫌な予感がするけど……。




 そして、私の予想はしっかり的中し、彼女はルーレットで1番を引き当てた。




「あ……」



 私の口から情けない声が漏れて、そのまま手持ちの少ないお金を震える手で愛木乃ちゃんに渡した……。


 愛木乃ちゃんは、そんな私に対して「ふん!」とそっぽを向いてお金を奪い取るかのように勢いよくかっさらった。



 そんな私達の姿を見て近くで見ていた瑞姫ちゃんと乃土花ちゃんが笑いを堪えながら見ていた。瑞姫ちゃんが言った。




「木浪さん……ある意味、私の上をいくとは、思いませんでした……」



 瑞姫ちゃんの後に続けて今度は、乃土花ちゃんが口を開く。




「……穴モテって……それ、ブーメランでしたじゃん……」



 そんな爆笑している2人に愛木乃ちゃんは、頬を赤らめながら告げた。


「うっ、うるさいです! だいたい、何なんですか!? この人生ゲーム! 生々しすぎます! 破廉恥です!」



 そう言って愛木乃ちゃんが余裕の無さそうな顔でパッケージを覗いてみるとそこに

は、こう書かれてあった。




『超リアル! 子供はプレイしちゃ……い・け・な・い・ぞ♡大人の人生GAME!』



 AVのタイトルかよ!? どんなもん持ってきたんだよ! この子は!?



 すると、愛木乃ちゃんは余計に頬を赤らめてボソボソした声で告げた。





「……パパとママが昔、大学の飲み会で遊んで楽しかったって聞いたから……持ってきたのに……」




 それ、絶対飲み会じゃなくて合コンだから! こういう女の子同士で遊ぶのには絶対適してないからこのゲーム!



 と、そんな事を心の中で思っていると今度は、自分の番が回ってきてルーレットを回しながら愛木乃ちゃんと瑞姫ちゃんの事をクスクス笑う乃土花ちゃんが駒を持ち上げる。



「……まっ、いいではないですか。先輩達。2人の時代は、もう終わったと言う事で……ここからは、私が……」



 彼女は、そう言うとルーレットで出た4の数字の分、駒を進めて……そこに書かれている文章を読んだ。




「なになに~……運命の出会い!? えぇ! もしかしてもしかして……!?」




 その言葉に愛木乃ちゃんと瑞姫ちゃんは凍り付き、私は……素直におぉっと喜んでいた。彼女が続きを読む。




「……たまたま出会った人が、自分のお兄ちゃんに物凄く似ていて、惚れてしまう。付き合ってはみるが……相手からお金がないから貸して欲しいと毎月要求され、言われるがままにお金を支払い続ける。お仕事カード、パパ活を手にして毎月貢ぐ分のお金をギリギリ稼ぐ……。プレイヤー1に毎ターンごとに1万円支払う……え?」




 流石にこれには、他の皆も凍り付いたみたいだ。しかも……このゲームのプレイヤー1って……。




「私……?」



 数秒ほど時が止まったかのように凍り付いた空間でお金がグシャグシャになるまで握りしめながら乃土花ちゃんが私に言った。




「……お兄ちゃんのバカ! ヤリチン! 最低! 性欲お化け!」





「えええええええええええええええええええええええええええええええええ!?」




 いや、性欲お化けは……認めざるをえないかも……。



 すると、今度は愛木乃ちゃんから怒られた。




「……ほんっと、最低! 一体、何人の女の子に手を出せば気が済むんですか! 貴方みたいな人がいるから世の中、心に傷を負う人っていうのが減らないんですよ!」




 更に瑞姫ちゃんからも……。




「酷すぎます! 日和しゃん……。私だけじゃなくて……木浪さんや乃土花さんにまで浮気するなんて……最低です! 私の何がいけなかったんですか!」









「……こっ、これはゲームだってえええええええええええええええええええええ!」





 第一次恋愛戦争……四回戦目は、(日和も含めて)全員敗北……。

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