2話 ガールズ・オンライン

『ピコンッ』



 ライン特有の音が、眠っていた俺の耳朶じだをうつ。


 もうろうとした意識のまま、枕元においてあるだろうスマホを探り当て、あくびをしながら内容を確認する。

 送り主は夕輝ユウキからだった。



『通話かけてもいいかな?』



 きっと告白の件で心配しているのだろう。

 とりあえず、晃夜こうやから借りたジャージのまま寝ていた事を思い出し、着替えてから通話しようと思った。


『すこし待ってくれ』



 そう返事をした時、違和感に気付く。


 妙に返事が打ちづらい。

 正確にはスマホが大きすぎて、片手だけの指ではタップしにくい。否、できない。


「あ?」



 そして驚きの連続はここからだった。


 慌てて立とうとしたら、ズボンのすそを踏んで盛大にベッドから転げ落ちた。

 頭を床にぶつけ鈍痛に顔をしかめつつ、俺はなんとか立ち上がる。


 これはもうあれだ。

 着ている服のサイズが何故かぶかぶかすぎる。

 腕を伸ばしきっても、袖をまくらないと手が出てこない。


 おれの身長は175cmだったはずだか、視点がいつもより数段低い。



「え、なんだ?」


 そして更なる違和感。 

 何気なく発した俺の声が高い。鈴の音を転がしたように澄んだ音色、りんと透き通った声だった。


「は!?」

 

 俺が出した声だとは到底信じられない。

 だが、続いて動揺から出た音は、タイミングを見ても俺が発した声に間違いない。


「あー、アァー…………ぁ~?」


 何度か発声して分析してみた結果、小学校中学年に相当するその幼い声は、俺のノドを振動して発信しているようだ。


 ぶかぶかの制服を見まわすように両手を広げて、今一度、自分の身体をしっかりと視認する。

 そうして最も気になったのは、顔の左右から盛大に垂れ流されている髪の毛だった。


 腰まで届くぐらいの長い髪の毛。しかも、微妙に青みがかった銀髪。



 袖をまくってなんとかひと房つまみ、目の前で凝視してみる。人工の毛ではありえない、きめの細かさ、猫っ毛の頂点を極めたようなふわっサラ仕様だった。


 気味が悪くなって、自分の髪を慌てて離す。



「なんだこれは……」


 

 縮んだ体格。少女のような声。身に覚えのない長髪。

 ここまで来れば自分に何が起こったのか。

 どんなに鈍い奴でもわかる。

 

 理解はできるのだが、そんなのはファンタジーだ。

 納得できるはずがない。


 ニュースで報道されていた原因不明の性転化事件。


 ある日突然、性別が転化した少年少女がいるというのは最近何かと話題にはなってはいた。だが、得てしてニュースの向こうで報道されているような内容なんて、自分に関係あるわけがない、というのが世間一般の感覚だ。芸能人のゴシップを見るのと同じような感覚で、他人事のように眺めていた。


 だから、俺の身に起こっている現象は夢だ。うん。

 どうにも脈絡のない考えを自分でしているのは認識できるが、これはファンタジーだ。

 おれが、おれが、こんな姿になるわけがない。




 きっと夢だ。

 ウン白によるショックで変な夢でも見てるに違いない。


 

 そう思ってとっさに頬をつねろうとするが、袖が長くて手が出せない。


 まくらねば。

 いや、待て痛覚、つまり触覚は信用できない。

 なぜなら先ほど、ベッドから転げ落ちた自分は、痛みを感じたではないか。


 ジャージの衣擦れや重量も、まぎれもない現実のボリューム。


 




 ……ふう。


 落ち着け。




 聴覚もダメだ。自分の声が少女のソレに聞こえるなどおかしいが、しっかりと周囲の音を拾っている。


 となると嗅覚だ。

 衣類、主に晃夜から借りたジャージに鼻を近づけてクンカクンカする。



「…………」



 なんていうか、ちょっぴり汗臭い。


 夏だしな。初夏だし仕方ないだろう。



 続いて、やはり異質であるこの淡く青色に輝く銀髪だ。

 さっきつまんだ量より更に多めに取り、鼻へともっていく。



 さわさわそよそよ……。

 なんとも甘くよい匂いが俺の鼻孔びこうをくすぐる。


 さわそよさわさわそよよ。



「へっぶし! うっくしょーい」



 毛先がさらふわしすぎて、鼻の穴に程良い刺激をもたらし、くしゃみへと俺をいざなった。

 これはマズイ。

 聴覚、触覚、嗅覚までもがここが現実だと主張している……。



 いや、決めつけるのはまだ早い。


 残るは味覚。

 食べかけの栄養食品である、カロミーメイトをおもむろに口に放り込む。


 寝起きのため、口の中が多少乾いてるものの、もそもそと咀嚼してみてわかったことは、味はいつも通りであることだった。



「……がひガチで?」



 最後の五感。

 最後の砦は視覚。


 自分の頬に両手を当てる。

 だが、これかおを見てしまったら。


 俺が俺でなくなっているのではないかという恐怖が、最終確認を躊躇わせる。


 



 何時間が過ぎたのだろうか。

 

 

 何も飲まず、ベッドに座ったままボーっとしていた。

 

 ふとスマホが点滅しているのに気付き、軽くタップする。


 夕輝ゆうきから、通話はまだ? という追加のメッセージが来ていたので、今はやっぱり無理だと伝えておく。



 何せこの少女声である。

 落ち着くまで何もする気にはなれない。


 もう一人の親友、晃夜こうやからもメッセージがきていた。


『クラン・クラン、明日からだけど訊太郎じんたろうはするよな?』

 

 夏休みから一緒にやろうと言っていた、VRMMO。つまりはバーチャルオンラインゲームのサービスが、明日から開始だという連絡だった。

 

 VRMMOとは、体感型の3Dオンラインゲームだ。

 実際に自分がゲームの世界に入って、身体を動かしているような感覚が味わえる最新のゲームだ。

 そんな大きなタイトルでもなく、製作しているゲーム会社も聞いたことのない『カグヤ』という会社であったから、それほど期待はしていなかったが、製造販売が大手のゲームメーカーに委託されたことで少し話題になっている。

 



 まったく。


 夕輝ユウキで心配をしてくれ、晃夜コウヤで気分転換を促してくる。


 二人の思いやりに感謝の念を抱きつつ、まったく進展しない現状を放置するのも飽きた頃だと自分を叱咤しったする。


 俺は覚悟を決め、髪型チェック用の手鏡を、高度のあがった机の上からおそるおそる手に取る。


 震える手を、意志の力で無理矢理おさえ、緊張の生唾をのみこむ。



「ゴクリ……」




 そして、自身の顔を覗き込む。




 そこには——



 北欧にいそうな、色白の銀髪美少女の顔が驚きの表情を浮かべていた。



「お、おれが……美少女であるはずがない……」






 現在の時刻は夜の10時。


 終業式が終わったのが午前11時ぐらいだったことから、家についたのが午後2時前後だとして、夜の7時ぐらいに目が覚めて、そこから自分探しの旅に出たと推測できる。



 あれから、少女となってしまった俺は自身の身体を隅々まで確認した。


 残念ながら女の子だった。多分、まぎれもなく。

 しかも年齢的には9~11歳の小学三年~五年生ぐらいだと判断できた。


 身長も自分で計ってみたところ、135cmしかなかった。



「マジか……」


 肌は陶器のように白く滑らかで、瞳は青玉色サファイアブルー。蒼銀色の長いまつ毛が大きめの瞳を一層際立て、鼻梁は高く通っている。幼さゆえにすこし丸みの帯びた輪郭と相まって、形の整ったローズピンクの唇が添えられている。


 正直に言うと、まごうことなき天使に見えた。


 決め手は、部屋の電光にすら反射して煌びやかに輝く空色の銀髪。


 

 至上最高の美少女、俺だった。




 市役所に連絡するべきか、警察に連絡するべきか、親に連絡するべきか、姉に連絡すべきか、俺は迷った。

 俺の両親は共働きで海外に出張中だ。妹は父と母についていき、共に海外を点々としている。姉は日本在中だが、大学進学と同時に一人暮らしを始め、通学しながら立派に仕事もこなしている。


 だから、俺はこのアパートで実質の一人暮らしを満喫している。

 自由なのはすごくありがたいのだが、家事炊事洗濯も全て一人でこなさなくてはいけないため、わりとキツイと感じるときもある。


 また、今回のような事態が起きた時もどうしたらいいのか、わからない。



「やはり姉に連絡するべきだろうか……」


 しかし、彼女はわりと忙しい毎日を送っているし……。

 ここは順当に考えて市役所なのか?


 そう逡巡していると、ほどよいタイミングで姉からラインの通知メッセージが届いた。


『タロウ、明日の午前11時に「先駆都市ミケランジェロ」の教会前ね』



 電波でんぱな内容が届いたので、おれはスマホから眼を逸らした。

 

身内びいきしているわけではないが、俺の姉は美人と言っても過言ではない。だがときおり、こうやって理解の範疇を超える発言をしてくるところが玉にきずだ。そして怖いところも。

 

 なんだか、姉からの意味不なラインを皮切りに、色々と考えるのがめんどくさくなってきた。


 今日は本当に疲れる一日だった。

 精神的にも肉体的に疲弊していた俺は、この結論に至るまで、そう長い時間はかからなかった。

 

 どうするかは明日考えればいい。

 そう思った後の行動は早かった。

 

 作り置きの軽食をって、慣れない動作でトイレへと用を足し……。

 再び眠りについた。



 ……。


 …………。




 あ、き忘れた。


 どこを、とは言わない。

 


 この身体に慣れるには当分の時間がかかりそうだ。

 小さなため息をこぼし、しんみりした気分でトイレへと戻った。




 明くる朝。

 夏休み1日目。


 寝起き一発目のシャワータイムを敢行し終えた俺は、バスタオル一枚姿で牛乳を一瓶飲み干す。


「ぷはぁ」


 やはり朝一の牛乳はいと美味うまし。

 その後、大好物の蜂蜜たっぷりのハニ―トーストを自作し、目玉焼きを添えて朝食を済ませる。そろそろ市役所に行って、今後をどうすればいいのか相談しようと思い立った矢先、夕輝ユウキ晃夜コウヤから3人共有のライングループに連絡が入った。


『絶対にインしてよ~』『待ち合わせ場所は13時に、「先駆都市ミケランジェロ」の「天球まかせな時計台」前で』


 先駆都市ミケランジェロ……?


 あぁ……。


 ……昨日、姉が言っていた先駆都市ミケランジェロってのはVRMMOオンラインゲーム、クラン・クランの町の事だったのか。


 夕輝ゆうき晃夜こうやはベータテストからこのゲームをやっていたらしく、かなりおもしろかったのか、俺に猛烈プッシュしてきたのはつい先日のこと。メガネな晃夜がゲームやアニメ、マンガに熱中するのは珍しいことではなかったのだが、夕輝までもが一緒になって薦めてきたときは驚いた。

 

 てか、姉よ。あなたもやっていたのかクラン・クラン。


『傷心会も兼ねて、パーっと楽しもー!』

 

 夕輝ゆうきからそんなメッセージが来たので、即座に


『一緒にゲームやりたいだけだろ』


 って感じで軽口を叩いておく。



『今回は建前のない本音だよ』


晃夜こうやから返信がきたので



『わかってる、ありがとな……』


 気恥ずかしいから、一言で伝わる文を作る。

 これも逆になんだか恥ずかしいと思ったが、まぁいい。

 

 スマホをベッドに放り投げ、あいつらの顔を思い浮かべる。

 ウン白。我ながら最高にパンチのきいた告白方法だったな。そんな感じで笑い話にできるだろうか。


 その後の、ウワサの性転化に関してはあいつらに言うかどうかは今のところ保留にしておこう。これ以上、心配をかけたくないというのもあるが、これがどういったものなのかもわからない。身体が戻った前例はあるのか、とか。

 重い恐怖が俺にのしかかる。


 ほんと、笑えない冗談だ。

 告白失敗を嘆く、傷心のヒマもない。

 

 昨日の夕輝の言葉を思い出す。

 俺たちは友達。

 でも、それは、俺がこんな姿になっても言える事なのか?


 次から次へと湧きあがる不安を押しのけるように、クラン・クランへと思考を無理矢理に切り替える。


 きっと二人あいつらと遊ぶのは、いい気晴らしになりそうだ。




 時刻は午前九時半。十時からクラン・クランの正式サービスが始まるので、洗濯物を干し終えた俺はあらかじめ買っておいたクラン・クランを開封する。


 ゲームソフトが入っていた箱は、直径15cmにも満たない大きさだった。

 

 その中からでてきたものは——

 大中小サイズ別、二枚一組のコンタクトレンズが計六枚。

 そして少しゴツめのUSBフラッシュメモリーとイヤフォン。

 それに二つ折りの説明書のみ。


「おー」


 たったそれだけだ。

 そう、これが話題の一つでもある。


 既存のVRMMOは顔、頭をすっぽり覆うタイプのヘッドギアを装着してプレイするものばかりだったが、この『クラン・クラン』は違うらしい。


 脳波に呼応し、ゲーム内に直接入りこんでプレイしているような感覚を味わえるのは他のVRMMOと同じようだが、決定的な違いは慣れるとゲームプレイ中にも現実の世界で普通に生活ができる、つまり現実の世界で身体を動かしながらVRMMOが楽しめるらしい。


 ゲームの世界でも身体を動かせと脳が指令をだしているのにも拘わらず、同時に現実世界でも別の動きを実現することは果たして可能なのか?

 そこらへんの詳細は晃夜こうやから聞いてはいたが、そう簡単に信じられるものではない。


 晃夜あいつが言うには、この一センチ弱のコンタクトレンズに人類の科学技術が結集しているらしい。

 俺はオンラインゲームというものを、今までプレイしたことがなかったので、晃夜こうやが珍しく興奮した様子で「ゲーム界の革命だ!」と、豪語していてもピンとこなかった。


 まぁ、前置きはここまでにして、クラン・クランのサービス開始時間まで三十分を切っているのだし、百聞は一見にしかずだ。


 ゲームをセットアップして自分のキャラクターを作ってみよう。


 まずはUSBフラッシュメモリーをスマホに専用の端子を使って接続し、ゲームをダウンロード、インストールする。

 こういったオンラインゲームの容量はかなり大きいのが極一般の見識だが、クラン・クランは例外らしい。アプリゲーム並みのデータ総量だった。


 次に、イヤフォンを両耳に装着し、コンタクトレンズをつける。

 慣れないコンタクトをつけるという作業に多少の時間を要してしまったが、なんとか装着できた。


 あとはスマホから、ゲームを起動するだけだ。


 高鳴る胸の興奮を抑えつつ、俺はクラン・クランをタップする。



 すると――――。



『ヒトとヒト、魔物が入り混じって見境なく争いを繰り広げる世界、クラン・クランへようこそ』


 機械的な女性のアナウンスが両耳に響いた。

 そして、おれは小宇宙を連想するような、真っ暗闇の中で身体を浮かせながら空中をただよっていた。


 これが、クラン・クラン。


 極小のコンタクトを媒介に、人間の脳神経に間接的にリンクし、ゲーム内での感覚を体感させる。


 試しに右腕を動かしてみる。イメージしたとおり、現実で動かす感覚とすんぶん違わず、右腕は上下に振れた。

 現実の俺はベッドに座ったままで、右腕も動いていない。

 コンタクトレンズ内は無限に広がる漆黒空間、大小さまざまな光点の数々が眼前に浮かぶ風景。


 コンタクト越しは何の変哲もない自室。


 これは、すごいなんて軽々しい一言で形容できるものじゃない。

 そもそもVRMMOをプレイしながら、現実世界の自分も明確に認識できるというのは全く新しい、いわば新境地だ。



 これは晃夜こうやが騒ぐのもうなずける。

 まるで二つの世界に同時に存在しているような、このなんとも言葉にし難い感覚。


 おいおい、ファンタジーか。


 こんなちっこいコンタクトレンズ内でどうやって、そんなに高性能なモノを埋め込むことができるんだ。これで脳波に干渉して、3Dの世界へと誘う? 

 人類の科学ってここまで進歩しちゃってるものなのか?


 元々、人間とは脳の大半の機能を活用できていない状態で、その活動率は10%にも満たないという。最近ではそんなことはなく、人間は100%フルに脳を使用しているという説が強い。しかし、このクラン・クランを実際に体験してわかる。


 噂といえど人間の脳の活動範囲を20%増加させることに成功した、などと囁かれているのも頷けた。これはそんな夢物語を真に受けてしまいそうなほど、衝撃を受けるゲームシロモノだと確信できる。


 俺が空中浮遊を楽しんでいると、アナウンスがチュートリアルを再開した。


クラン・クランこちら現実あちらの相互認識が正常にリンクできているのを確認。五感の反応良好』


「は、はぁ……」


『音声認識、正常動作確認。これより、キャラクタークリエイトに移行しますがよろしいですか?』


 どうやら、発声すらも脳からゲームへと変換し、認知できるらしい。

 チャット式でコミュニケーションを取るゲームではないようだ。


「あ、はい」


 了承の意を示すと、AIプログラムにのっとった音声だけのナビゲーションシステムは、説明を続け始めた。


『現実世界での、お客様の外見データをスキャンし、認証します』


 数秒間、おれの身体に青白いエフェクトが明滅し、光は静かに消えていった。



『スキャン終了です。キャラの骨格および、規格は現実のサイズと誤差5センチまで変更可能です。また、現実での性別と同じキャラクターしか作成できません。容姿、その他の部位に関しては、いかようにも変更可能です。それではキャラクタークリエイトが終了しましたら、お呼びくださいませ』

 

 現実世界との身体の大きさの規模が、ゲーム内のキャラとの差が大きすぎると、ゲームログアウト時に感覚差がありすぎて、現実での身体運動に支障をきたすと言ったところか。


 見た目は自由に変えられるが、性別や骨格は偽れないっと。

 


 どうやら、今の俺のキャラの外見は現実の超絶美少女そのままらしい。

 ここからいろいろいじるってわけだ。

 

 俺は大量のカスタマイズ項目を凝視しながら、そのバリエーションの豊富さに驚いた。


 瞳の種類だけでも、200種以上はある。色も同様だ。

 ウェストやヒップ、果てはバストの微調整、顔の選択項目やパーツの種類の多さは度を越していて、もはや辟易という気分しか湧いてこなくもない。

 唯一、普通だったのが髪色の種類だ。白系統に近い色は選択できず、パッと見、三十種類ぐらいだった。


 いろんな項目を眺め続けて数分、俺はとある重大案件に気付く。



 おれ、少女なう。

 

 つまりキャラクリも少女のまま。


 なんてこった……。



 性別変更不可=夕輝ゆうき晃夜こうやに、性転化したということがクラン・クラン内で会ったら、もろばれである。


 いや、機械の誤認ということでごまかせるのか?

 いける、と思う。多分。


 オンラインゲームのサービス開始当初は、いろんなバグや不都合が発生するとよく耳にするし。晃夜はこれを祭りと称していたが、俺も祭りということで、なんとか押し通そう。

 そう決意すると、おれはとある部分だけ軽くカスタマイズして、見た目はリアルと同じ、そのままにした。

 

 正直、大ボリュームなカスタム項目から一つ一つ吟味して、自分のキャラを創り上げるキャラクリがだるくなった。



「キャラクタークリエイト終了でーす」



 俺の合図を元に、再びナビケーションボイスが答えてくれる。


『畏まりました。現実世界との誤差、胸部以外・・・・とくになし。クリアーです』


「ぐっ」


 ナビゲーションの指摘に居心地の悪さを多少感じつつも、気にしないように努める。そう、俺はほんのすこしだけ、胸に関して見栄をはってみたのだ。

 さすがにぺったんこはアレだったので、ほんのすこしだけ凹凸おうとつをつけてみた。


『現時刻は午前10時3分です。ログインしますか?』



 いよいよ、正式サービス開始か。

 姉との約束は11時からだったが、この際だから先にログインして慣れておこう。


「はい、ログインします」


『では、神人が支配するクラン・クランの世界「ツキノテア」をお楽しみください。貴方はこの広大な世界をさすらう傭兵ようへいとなって、傭兵団を組織するも良し、軍を編成するのもよし、建国するのもよし、竜族が残した秘宝を狙うも良し、神人に挑むも良し』



 長い謳い文句を言い終えたナビゲーションは一区切りつけ。


『——貴方は自由だ』


 最後にそんな言葉を残していった。

 

 それが合図だったのか、俺の視界は眩い光の渦に呑みこまれていった。



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