第79話 誤魔化す作戦

 あたしはまず寝台の下から格好いい棒を取り出した。


「フクロウたのむ。ルリアの肩をつかんで、すこしとんでほしい」

「ほほう?」

「せつめいするじかんがない。たのむ」


 フクロウはあたしの指示通り肩を掴んで、宙に浮かんでくれた。

 激しく羽ばたいているわりに、相変わらず羽音が小さい。


「すごいなぁ。フクロウたすかる」


 どうして、肩の部分がボロボロなのか、理由を聞かれて誤魔化すのは難しい。

 ならば、聞かれないようにすれば良い。


「こうしていたら、どうしてボロボロなの?ってきかれたりはしない」


 尋ねるまでもなく、ボロボロになった理由が誰の目にも明らかだからだ。


「ほっほう!」


 フクロウは感心してくれる。あたしは戦略家なのだ。


「きゅう」


 キャロが呆れた表情でこちらを見ている。

 作戦の真意が伝わっていないのかも知れなかった。


『……ルリア様、どうしてそんなことを? ってきかれるのだ』

「そのためのこれだ」


 あたしは棒を振り回す。


「これで、空中戦のれんしゅうしてるようにしかみえない」

『……えぇ』「きゅきゅう」


 クロとキャロが呆れている気がするが気のせいだろう。


「ふんっふんっ! ふんっふんっ! ちゃああ~~」


 あたしは早速棒を振り回す。

 多少、息が上がってなければ、怪しまれてしまうからだ。


 ――バサッバサッ


 あたしが棒を振り回すと、フクロウがそれに合わせて羽ばたいてくれる。


「フクロウだいじょうぶか?」

「ほう!」


 フクロウは「大丈夫、任せろ」と言ってくている気がした。


「むりだったら、おろしてくれていいからな?」

「ほう!」


 あたしは棒を振り回す。

 いつもやっている剣術練習を思い出して、振り回す。


 足が地に着いていない状態での剣術はやはり難しい。


(たいじゅういどうが大事と、先生がいってたのは、これかー)


 剣術の先生は「体重移動が大切。足運びはおろそかにしてはいけない」と言っていた。

 地に足がつかない不安定な状態で棒を振ることで、足運びの大切さがわかった。


 ――バサバサバサ


「ふんぬふんぬ!」


 棒を振っていると楽しくなってきた。


 集中して棒を振っていると、部屋に入ってきた母が、

「ルリアを放しなさい!」

 大慌てでフクロウに跳びかかろうとする。


 ――バサバサ


 フクロウは容易くかわす。


「フクロウ! おろして!」


 フクロウは床に降ろしてくれる。


「ありがとうな?」


 あたしはフクロウのことをしっかり撫でた。


「ルリア!」

 すると、母にぎゅっと抱きしめられた。


「かあさま?」

「もう……もう、心配させないで……」

「ごめん。フクロウに協力してもらって、れんしゅうしてただけ」

「……攫われかけているようにしか見えなかったわ」

「ごめん」


 その発想はなかった。

 だが大きな猛禽類が幼児を捕まえていたら、攫われかけていると思うものかもしれない。


「……ほ、ほう」


 フクロウが申し訳なさそうに、かあさまのそばによる。


「かあさま。ルリアがフクロウにたのんだの。フクロウはわるくない」

「……わかったわ。フクロウは悪くないのね」

「うん、かあさま、ごめんね?」

「……もう。相変わらずルリアは、動物と仲良くなるのが上手ね」

「うん。みんな、いいこ」


 母の後ろから部屋に入ってきたサラがとことこと近づいてきてフクロウを撫でる。


「フクロウは、かわいい」

「そうね、可愛いわね。さっきはびっくりしたけれど」


 サラと一緒にかあさまもフクロウを撫でる。

 フクロウも気持ちよさそうだ。


 ――バサバサバサ


「こけ」


 そのとき、窓からコルコがはいってきた。


 コルコはにわとりなので、長い時間飛べない。

 だが、にわとりも二階ぐらいまでは飛べるのだ。


 コルコは守護獣なので、普通のにわとりより長く飛べるだろう。

 ひょっとしたら三階ぐらいまで飛べるのかもしれない。


「コルコ、おかえり」


 コルコは先ほどロアのご飯について相談している途中、部屋の外に出ていったのだ。


「ここっ」


 コルコは小さな声であたしたちに挨拶すると、寝台の向こう側に歩いて行く。

 かと思うと、またすぐに窓に移動して、外に行こうとする。


「コルコ、ちょっと待ちなさい」

「こ?」


 窓から飛び去ろうとしたコルコを母が止めた。


「…………入ってきたとき、虫を咥えていたわよね?」

「こぉう?」

「どうして、いまは咥えていないの?」

「……こぉ」


 コルコは目をそらした。


「……まさか!」


 母が立ち上がり、寝台の向こう側へと走る。


「ひぃぃ」

 母は小さな悲鳴をあげて、膝から崩れ落ちた。


「かあさま、どした?」


 あたしとサラも慌ててかあさまのところに走った。


「うわ~っ!」


 驚いたサラの尻尾が揺れる。


「あー、これはだな……」


 寝台の陰には、籠が置いてあり、その中には大量の生きた芋虫が蠢いていた。

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