第56話 あとかたづけ

 食事が終わり、後片付けを始める。

 いつもは侍女が全部やってくれるのだが、今日は一人しかいないので、できることは全部やる。


「いっしょにはこぶの」

「ありがとうございます。サラお嬢様」


 戻ってきてくれた侍女と一緒に、サラがカートに乗せたお皿を押して廊下に出て行く。


「ルリアも……」

「ルリアは少し待って」


 サラを追いかけようとして、母に止められた。


「サラは、カート運びを手伝ってあげてね」


 サラが歩いて行くのを確認すると、母はこちらに来て屈んであたしと視線をあわせた。


「ルリア、サラの面倒を見てあげてえらかったわね」

「姉だからなー」


 母に褒められると、照れる。


「でも、ルリア……」

「む?」


 母に口の周りを拭かれてしまった。

 母はあたしの口周りを拭いた後、テーブルの上も拭いた。

 いつも侍女がしてくれることだが、今日は侍女の数が少ないので母がしてくれるのだ。


「よごれてたかー。きづかなかった」

「もう、サラの何倍も汚れてたわよ」


 ほんとうに気づかなかった。

 冷静になって、服をみると、サラの服よりあたしの服の方が汚れていた。


「それにルリア。床を見て」


 母に言われて、あたしは床を見た。

 キャロとコルコが大人しくしている。

 そして、ダーウはお腹がいっぱいになったからか眠っていた。


「む? きれいだな?」

「キャロとコルコが、ルリアの落としたものを食べていたわ」

「え?」


 あたしがキャロとコルコをみると、

「…………」

 目をそらされた。


 やけにおとなしいと思ったら、そんなことをしていたのか。


「床を掃除する手間が省けるから、いいのだけど」

「むう。きょうはじじょがすくないからな?」


 キャロとコルコは気を使ったのだろうと思ったのだが、

「いつもよ。いつも。本邸にいるときもよ」

「そ、そうだったかー」

「そろそろ、ルリアは床にこぼさない食べ方を練習した方が良いかもしれないわね」

「むむう」

「きゅいきゅ」「こぅ」


 キャロとコルコは、そんな練習しなくていいと言っている。

 だが、姉としての沽券にかかわる。

 明日からはもっときれいに食べようと思った。



 母とのお話しが終わった後、あたしと母もキッチンに食器を運んだ。

 正確にはキッチンの手前までだ。


 キッチンは、本邸の使用人が訪れるかもしれないので、あたしたちは入ったら駄目なのだ。


 その後、母は侍女に何か用事を頼んだあと、あたしとサラに言う。


「さて、お風呂に入りましょうか」

「おふろ!」

「別邸には大きなおふろがあるのよ」

「ほほー」


 探索した際、大きなお風呂は見つからなかった。

 どうやら、探索が甘かったようだ。


「わふっわふっ」「きゃぅ」「こっこ」


 ダーウとキャロとコッコもお風呂が楽しみらしい。


 ダーウは大喜びであたしたちの周りを走り回っている。

 先ほど寝て、すっきりしたのだろう。


 床を走っていたキャロは、おいて行かれないようにあたしの肩の上に乗る。

 コルコは羽をバサバサさせながら、先頭を歩きはじめた。


「コルコはおふろのばしょわかるの?」

「こっこ」


 どうやらわかるらしい。

 別邸についてから、建物内を探索して見つけたのだろう。


「コルコ、ルリアたちより、たんけんがとくい?」

「こぅ」


 コルコは誇らしげだ。

 案内してやるからついてこいとばかりに歩いていく。


 その後ろを母が歩き、その更に後ろをあたしとサラがついていく。


「コルコをたいいんにして、もういっかいたんけんすべき?」

「……うん」


 サラはあまり元気がなかった。

 耳がしょんぼりしているし、尻尾もへなへなだ。


 探索中、水が出る装置を説明したとき、サラはあまり体を洗われるのが好きそうではなかった。


「サラは、おふろすきじゃない?」

「……よごれたらあらわないといけないから」


 さっきもそんなことを言っていた。


「サラはそんなによごれてないから、おふろは、あしたにする?」

「だめよ、一緒に入りましょうね」


 母が優しく言って、サラの頭を撫でた。


「うん。がんばる」


 サラは棒人形をぎゅっと握る。


「そっか。でも、むりしなくていいとおもう」

「うん。ありがと。えへへ」


 あたしはサラの手を掴んで、母の後ろをついていく。


 向かったのは未探索領域だ。

 一階の使用人たちの居住エリアの端にあった。


 使用人エリアは、本邸の使用人が訪れる可能性があるため、進入禁止の場所が多いのだ。

 だから、探検の際に漏れたのだろう。


「普段は侍女たちが使っているのだけどね」


 母がそう言ってほほ笑んだ。


 主人家族の部屋には体を洗う設備があるが、使用人部屋にはない。

 だから、みんなで使える大きな浴室が用意されているのだろう。


「ルリア、おやしきの大きなおふろに、はいったことない」

「そうね、侍女たちは侍女たちだけでゆっくりしたいでしょうし」


 いつも過ごしている王都屋敷にも実は大きな浴室はあるのだ。

 だが、利用したことはない。


 主人家族が使ったら、侍女が安らげないからだろう。


 脱衣所に入ると、

「サラ、てをあげて!」

「だいじょうぶ。じぶんでぬげる」

 脱がしてあげようとしたのだが、断られてしまった。


 仕方ないので、あたしは自分の服を脱ぐ。


「む? むむ」

 ボタンをはずすのに手こずっていると、

「ちょっと待ってね」

 母が手伝ってくれた。


「ありがと、かーさま」


 あたしが服を脱いでも、サラはまだ服を着たままだった。


「やっぱり、むずかしいのな?」


 自分で服を着たり脱いだりするのは難しい。

 ボタンが小さいし、いっぱいあるし、背中の方にもいろいろあるからだ。


「じぶんでぬげるの」

「えんりょしなくていい。ルリアもかーさまに手伝ってもらったし」

「……うん」


 あたしはサラが服を脱ぐのを手伝った。


「しっぽあながあるほうがいいな?」

「でも、しっぽがでたら、へんだから。はずかしい」

「へんじゃないし、はずかしくないよ。かっこいいよ」


 そういいながら、服を脱がしたら、サラのお尻にはミミズばれがいくつかあった。

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