海神、セレッサ。
セレッサは魔獣を食らう事で成長し、水陸両用と言うか、水空両用となった。
相変わらず話す事はしないけれど、意思疎通は出来るし、空も飛べる。
そして水の中も。
手の中のシャボン玉の様な膜に入ると、潜水艦の様に海中を進む、物凄いスピードで。
『やるじゃん、僕より凄いのは偉い』
ドヤるんです、この子。
「最早存在がチートね、バレたらダメよ」
何もしてない時は妖精サイズ。
その妖精と同様、姿を現したい時に姿を現す。
『けどルーマニアじゃこのままなんだよね』
「アーリスの仕事を取らないなんて優しいわね、セレッサ」
《姉上!》
「ご機嫌よう、ブラド」
姉上は近々、コンスタンツァに行く、と。
《それで海から来るかよ、マジでビックリしたわ》
「この子の試運転にね、名はセレッサ、桜色って意味なのよ」
《なら、白いのは?》
「ぁあ、シロガネ、妖精なの。悪戯しない良い子よ」
『セレッサの方が悪戯するんだよ、気に食わないとガジガジするし』
《それで、ルツは?》
『ウムトとお酒の飲み比べしてる』
「あ、荷物が有るのよ、それとワインは用意してくれた?」
《裏に用意させたが》
「ほら、スカアハ様の加護なの」
影から壺が。
《それ》
「そう、ガルム、魚醤。見本が無いと心配になるかと思って」
《いや、それもだが》
「ふむ、実に信心深くて結構な事だ」
「コチラがスカアハ様、なのだけど、多分私と同じ声と姿なのよね」
《おう》
「実に良い反応だ、デュオニソスらに慣れてるかとも思ったが、良い」
『セレッサのって、こう、神様の性質なんじゃない?脅かすのが好きなの』
「ぁあ、確かに」
《姉上もでは?》
「あ、コレは最近なの、ココへ来る少し前に授かったの」
「アレに何か有れば不便だろう、影の国からの恩恵だ」
ぁあ、アレか、姉上がアヴァグドゥとか言う女神様の息子を抱いたんだか抱かれたんだか。
けど恩恵は転移転生者の名と姿絵と。
いや、まさか、また抱いたのか。
凄いな姉上、知らずとは言えど神性に抱かれるとか。
《成程?》
「もう少し掛かりそうだし、荷が良く売れたから」
影に荷だけが吸い込まれ、その影から違う荷と目録が浮かび上がって来た。
『じゃ、またね王様』
「またね」
そうしてアーリスが竜化し飛んだかと思うと、今度は桜色になって、消えて行った。
「察しが良いのは良いが、余計な事を言うでないよ、まだ時期では無いでな」
《あ、はい》
怖っ。
姉上も怖いが、スカアハ神が凄んだ方が怖いわ。
《どうでしたか》
「相変わらず元気そうだったわよ、本当に大丈夫?」
《頭痛で死にそうです》
「治す?」
《お願いします》
『はいはい、ローシュ』
「ん」
《おっぱじめないで下さいよ》
『しないしない』
僕とローシュの唾液が混ざったモノが万能薬になる、けどだからって無茶するなぁ、ルツ。
「本当に辛そうね」
《すみません》
『楽しかった?』
《いえ、後半はもう記憶に無いです》
《え、本当に普通だったんですよ、酔ったかどうか分からなかったですもん》
「そう、頑張ったのね、おやすみルツ」
二日酔いが消えるまで熟睡出来る。
スッキリ治せれば良いけどそれはローシュだけ、ネオスもこの恩恵を味わったけど、コレで十分らしい。
『ウムトも?』
「まぁ、そうねぇ、アンジェリークを連れて行きましょう」
そうそう、アンジェリークの魔法の方が直ぐ痛みは消える。
けど。
『あぁ、ローシュ』
「ウムト、恩を売ろうと思うの、どうする?」
『この頭痛を消してくれるなら、是非売って下さい』
「アンジェリーク、お願い」
『はい』
『コレは、凄い』
「痛みを誤魔化しているだけ。アンジェリーク、先ずは胃を穏やかに、それから肝臓ね」
『はい』
「さ、コレを飲んで」
『蜂蜜と、レモンかな』
「はい、次は鮭と牛乳のスープ、コレで良くなる筈よ」
『ありがとう』
「お礼は後で、頑張って飲んで」
アンジェリークが島で病人が出ると、真っ先に痛みを消してあげたからこそ、直ぐに統治出来たんだって。
そしてローシュがサイコちゃんって呼んでるジェイソン、癒し人の名の通り、医学に精通してる子が対処法を指示して、原因をちゃんと治してたから襲われる事も無かったって。
結構使えるんだね、アンジェリークの魔法。
『はぁ、本当に楽になったよ、ありがとう』
「脱水です、けれど胃の調子が悪いので水を上手く受け入れられない、この子が島で学んだんですよ」
嘘、だってマン島にお酒無いし。
『“ありがとうアンジェリーク”』
『“いえ、全てはローシュ様の為ですから”』
ウムトの色気が通じないの、何か面白いかも。
「暫くは子供用の飲み物で我慢して下さいね、では」
ローシュも大好きな麦茶、作るの簡単だし美味しいし、ローシュが行く先で直ぐに流行ったんだよね。
『アンジェリーク、ウムトは?』
『綺麗なお顔ですけど私には向きませんね』
「バッサリねぇ、どんな人なら良いの?」
『力持ちで体力の有る方が良いですね』
「成程、夫のローレンスと真逆ね」
ローレンスとネオスは陸路で来たキャラバンの人間と一緒にお仕事、各国のワインとセットで売って、その場で飲み比べて貰ってる。
ウチのは飲み易くてホットワインにも向いてるって、良く売れてるらしい。
『様子見に行く?』
「それより仕入れよ、グラブラックスが凄く美味しかったし、ヘデボ刺繍を見に行かないと」
『素敵ですよね、白の透かし刺繍』
「そうそう、出来たら職人さんを欲しいわよね」
『頑張って下さいねアーリスさん』
『僕はローレンスみたいに上手じゃないよ?』
「なら交代するか、頑張るか」
『がんばる』
アーリスさんはローシュ様を好き過ぎて、他の人に言い顔が出来無いんですよね。
けどローシュ様が工房の方とエジンバラの流行りの事を話し合って、職人の方を1人キャラバンに付き添わせてくれるって。
『“子種は期待しないでおくれね、それで離縁されてココで働いてるから”』
「“構いませんわ、技能に惚れての事なので”」
子種と離縁は聞き取れたんですけど、難しい。
強い訛りみたいだけど複雑な発音をする。
『“ただし2年だけ、元気で返してくれないなら仕入れはさせないからね”』
「“それは難しい事を、彼の不注意で死なれたら困りますし、怪我をウチのせいにされても困りますから。今回は”」
『“婆ちゃん、手紙を出すから良いだろ”』
『“だってアンタねぇ、ルーマニアだなんて何処だか分からない土地に行くんだよ”』
『“地図を出して教えてくれたし、信用の有るキャラバンの人で、しかもキルトパットの事も教えてくれたんだから。欲張り過ぎると神様に怒られるよ婆ちゃん”』
「“ウチのモノに決まり事を書かせに来ますから、お孫さんにどうして欲しいかを教えて下さい。ただ、あまりに無理な事ばかりなら仕入れ値を下げて貰います、情報料分だけ。でなければ向こうで税を掛けさせますが、お任せしますよ”」
『“アンタ、そこまで価値が有ると思うのかい”』
「“だって可愛いじゃないですかコレ”」
『“5年は売らんでくれよ、ウチも商売なんでね”』
「“良いですよ、白地に白糸のモノだけなら、ヘデボ刺繍だと彼が認める品以外も出しません。ただし他の色は2年、ヘデボ刺繍の名を出さずに売り出します”」
『“ぁあ、そう言う事かい、目を付けられた時点で私達に交渉の余地は無いってか”』
「“とんでもない、新しく出るヘデボ刺繍が気に入らないなら偽物として構いません、そしてキャラバンとの取引を止めれば良い”」
『“で、アンタ達がヘデボ刺繍を乗っ取るんだろう”』
「“そうならない為の交渉です、正式に認めるか本当に偽物が出回るか、職人を態々連れて行かなくても時間さえ掛ければ偽物は作れますから。どうしたいか、ですよ”」
『“全く、どうしたいって言うんだい”』
「“商売の守り方もついでに教えて差し上げると言ってるんです、素敵だから”」
『“はっ、だけ、かい”』
「“はい”」
『“で、情報を先払いした、と”』
「“良い物には残って欲しいんです、それと黒が好きなので、黒いヘデボ刺繍が見たいんです”」
『“キルトパットの売り上げ次第では、孫を早く引き上げさせるよ”』
「“ならさっさと作った方が良いですよ、向こうは工房も大きいし人手も多いですから”」
『“そう知ってるって事は”』
「“はい、知り合いの工房ですわ”」
『“全く、脅したいんだか何だか分からない人だね”』
「“滅ぼす気は決して有りませんし、ご商売の邪魔をする気も無い。でも技術は欲しい、だから交渉してるんです”」
『“ならもう少し穏便に交渉したらどうなんだい”』
「“5年も売るなと言われカチンと来たので、単に人手が増えるのと大差無いと思って下さればね、囲い過ぎて滅んだら技術が泣きますよ”」
『“2年だ、孫と一緒に品物を寄越してから、ヘデボ刺繍かどうか見極めさせて貰うよ”』
「“アナタにもしも何か有った場合用の代理人も指名して下さいね、コチラも同じ様にします。更に詳しい決まり事は、キャラバンから人を寄越しますから、良いですか?”」
『“ぁあ、分かったよ”』
「“多分、ウムトと名乗る美丈夫が来ますから、では失礼しますね”」
『ローシュ様?』
「ぁあ大丈夫、お孫さんを心配してるから、後でウムトに来させるって言ったの」
『成程』
ルツの女、ローシュは凄く良い女。
恩をその日のウチに返させるし、気が利くし、ルツの女じゃなければ直ぐに手を付けるのに。
『ローシュ、はい、契約書だよ』
「どうも、はいルツ」
《はい、確認させて頂きますね》
『ルツの何が良いの?』
「ウブさ」
即答、俺には無い所だ、賢い。
『ルツ、ローシュに1人だけ俺の子を産んで貰えないだろうか?』
《どうしますかローシュ》
「契約書次第で考えます」
うん、賢い女は大好きだ。
『分かった、相談に乗ってくれよルツ』
《幾ら支払って頂けるかによりますね》
「ギリシャのガルムよりは高値でお願いね」
《アーリス曰く、ガルムより美味しいそうですから》
「ふふふふ」
《香りはサフランとでもしておきましょうか》
「ウチで栽培したかったのよね、サフラン」
『なら、サフランの苗はどうかな』
《根付かなければ無価値ですし、有り得ませんね》
「提案は残り2回までね」
うん、良い、凄く欲しい。
《何か、凄いウムトさんに好かれてません?》
「ちょっとルツと誂ってただけなんだけど」
《賢い女性は宝ですから、ローシュの賢さがバレてしまったんですよね》
コレが何処でも同じ常識だと思ってたのですが、少しでも生き易いと、多少は愚かでも構わないと思ってしまうのか。
兎に角、子種さえ残れば良いと思っているのか。
《何か因縁が?》
《俺の倍は生きているのに、誰も愛せないルツは可哀想だ。ウムトが最初の妻を娶った婚儀の場で、ローレンスより少し若い頃に言った言葉ですよ》
「酷い失言ね」
《いえ、今は凄く可哀想だと思いますよ、もっと早くに出会えてたらと思わない日は有りませんから》
「私も、けどもっと愚か者だったから、ルツは1人のままね」
《元ピュティアよりはマシなのでは》
「んー、種類は違っても同じ様なモノよ、好きな人の子供を孕みたがってたから」
《なら16のアナタがすんなり私を受け入れてくれる、と》
「この美青年は、美的感覚が狂ってるのかしら?」
《同じ道筋になってますよ》
「だって自分の容姿はとっくに理解してたんだもの」
《ならファウストを連れ出さなかったんですか》
「いいえ、けどネオスは直ぐに食べてしまったかも知れないわね」
《じゃあ僕も直ぐに食べて貰えたかもですよね?》
「んー、食べ頃までは我慢する筈」
《変わらないじゃないですかー》
「こう、ちょっとの違いで間違いが起こるかも知れないのが、きっと怖いのよね。正史派は」
《堂々と表に出てくれれば助かるんですが》
《周りが全部敵だー、ってなっちゃってるかもなんですよね》
「それか、もっと酷い事を企んでるか、実は何も考えて無いか」
《ウムトさんは何を考えてるんでしょうね?》
《金の卵を産むガチョウ、賢い女性の子は賢くなる可能性が高い、賢い子が居れば一族は安泰ですから》
「私にはファウストが居るから老後は安泰ね」
《僕の相手をしてくれなきゃ嫌ですからね?》
「それまでファウストが私を好きならね」
《さ、もう日が落ちますから、寝て下さい》
「おやすみファウスト」
《おやすみなさい、ローシュ様、ルツさん》
《はい、おやすみなさいファウスト》
「はぁ、私の子じゃないし賢いから、イライラしないだけだと思うの」
《まだ不安ですか、子を成すのが》
「アナタの子種は信じてるけど」
《育てたがる者が居るんですから大丈夫、もう少し先の事ですし、ゆっくり考えましょう》
「ごめんなさい」
《どんなアナタでも愛してますよ、ローシュ》
自信と賢さは必ずしも一致しない。
虚勢、虚栄、それらが無いだけでも十分なんですけどね。
『“また色男を連れて、嫌だよ全く”』
「“まだまだ綺麗ですわよ、一口どうです?”」
『“全く、冗談を。何だい、あの書類に文句でも有るのかい”』
「“いえ、ただもしお子様が産まれたらと、念の為に確認に来たんです”」
『“かなり薄いよ、母親の代わりに私が確認したんだ”』
「“念の為ですよ、コチラで育てたいとなれば、母親ごとココへ送らなくてはいけませんから”」
『“いや、出来たんならもう好きにしてくれて良いよ、ただ騙す事だけはしないでおくれ”』
「“しませんよ、寧ろ定期的に他の者と入れ替えた方が新しい図案も手に入りますし。そもそも習得してしまえばそこまでする必要が有りませんから、騙しませんよ、面倒が過ぎます”」
『“また善意だってのかい”』
「“はい、それに商売とは念には念を入れてこそ、ですから”」
『“悪かったよ、アンタの善意を踏み躙る様な条件を出した、信用しないで悪かった”』
「“いえいえ、コレからも慎重に、用心を重ねてご商売下さい。敵は常に、客の中にすらも居ますから、では失礼致しますね”」
『ローシュ』
「ローレンス、色男だって褒められてたわよ」
『そんな事より、俺の為に連れて来てくれたのでしょう、子種の単語はジェイソンのお陰で分かってるんですよ』
ジェイソンの発音の練習に助けられる事が有るとは、あの島に居る間は思いもしなかった。
「お孫さんの事を少しだけね、アーリスとネオスは仕事中だから、偶々よ」
俺の為に子種が無くても大事にされる者の姿を、後から教える為だったのか、敢えて知らせずに見せるなんて。
いじらしい、愛おしい。
『そうしおらしくされると逆に欲情するんですけど、ワザとですかローシュ』
貴族は一切顔にも態度にも出してはいけないのに、ローシュは口説かれ慣れて無いから、少しだけ反応してしまう。
「ならアーリスに唾液を貰わないとね」
『愛してますローシュ、後で沢山しましょうね』
完璧に思えるローシュの隙が愛おしい、いじらしい。
『少し前に、加減をしろと怒った事を謝ろうと思ったんですけど。加減を知らないんですか、ローレンス』
『回数をこなせる方法を教えようか?』
少し揺らいだ隙をつかれ、話を聞いてしまった。
『そこまでするんですか?』
『出なくなると痛くなって打ち止めになるからね』
『そこまでしたんですか?』
『男なら誰でも1度は試、さなかった?』
『あ、いえ』
『なら少し出して止めるとかは難しいよね、そうか、成程』
『ぃゃ』
『ローシュに練習を手伝って貰ったらどうです、それならローシュの負担も少ないかも』
『そ、そこまでは』
『遠慮してたら永遠に順番が回って来ないかも知れませんよ?』
それは、ずっと思ってる事で。
でも、ルツさんやアーリスが許してくれるから、ローシュを抱けるのだし。
『どうしたの?ケンカ?』
『アーリス、ネオスがあまりにも遠慮してるので、少し背中を押してただけですよ』
『成程ね、うん、ちょっとおいでネオス』
それからどうしてなのか、そのままローシュの前に連れて来られて。
「どうしたの?」
『ローレンスに煽られてたから連れて来た、ネオスが我慢してるのが嫌みたい』
『私は別に、そこまで我慢してるワケじゃ』
『選ぶのはローシュだから、言って良いんだよネオス』
『でも、本当はルツさんやアーリスのローシュなんですから』
『断られるのが怖い?』
『少し』
『僕が呼んだら混ざる?』
「それはちょっと、どうなのかしらね?」
『試しに少しだけ、ネオスが嫌になったら止める』
『あの、どうしてなんですか?』
『皆で仲良くがローシュの願いだから、それにローシュの世話は僕もルツも大好きなんだよね、クタクタのローシュ可愛いんだよ。加減が分からないんでしょ、大丈夫、教えてあげる』
「あの、私の承諾は?」
『無いよ、ネオスを可哀想にした罰なんだし』
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