騎士・紳士、淑女の為のマナー学園。

礼節クォトァジィ学園イェコル

「コォトァジィ、ェコル、ね」

『どちらかと言えばCがコ、Qがク。このéは殆ど出さない方ですね』


『やっぱり文字を分かって無いと難しい』

「アカデミックの方にしてくれたら良かったのにね」

『そこにも、何か意味が有るんでしょうかね』


「そうね」


 ココから更に移動してしたブリテン王国は英語圏、ココで言葉に慣れておけばブリテン、イギリスに行くには楽になる。

 って最初に言って欲しかったわ、本当。


《ようこそ、礼節学園へ。私は当学園を代理で取り仕切っている学園長補佐、アンナと申します》

「お招き頂きありがとうございます、ローシュと申します、ココでの言葉では朽葉色ルースですかしらね」


《あら、遠慮なさらず紅色ルージュと名乗って頂いて構いませんのに》

「意外と年ですし、寧ろ本当にルースが由来に近いですから」


《分かりました。では本日は講師になるかどうか、そうした見学者、と言う事で》

「はい、構いませんわ」


《ではコチラのサンテュールを、どうぞ》


 ぁあ、脳がバグるわ、コレってサッシュよね。

 たすきも間違いでは無いけど、確かに、襷の印象が強いわ。


「ナポリでは黒いサッシュを使わせて頂いてましたけど」

《学徒が黒色を着用してますので……》


 淑女の為の教師は赤、武官である騎士としての教師は青、そして緑は文官であり紳士の教師でも有る。


「では、この3色は?」

《それら全て、ですわね》


「あら、白い色の方が」

《成績が良ければ黒から灰色、白へ。卒業までに白にならなければ留年、この学園から出られません》


「それは大変、婚期を逃すのでは?」

《成績さえ良ければ別に、それこそココで恋を実らせ成婚へ至る子も少なくは無い、そう両親からも聞いておりますよ》


「あ、創立は?」

《凡そ10年程前からで、まだまだ改善が必要だと日々思わせられていて。宜しければ是非、何か改善案を頂けましたら助かります》


 私よりは若い。

 けれども結婚していて、多分、お子さんも居る筈。


「いえ、私はこの年で未だに未婚ですし、子も居ませんので」

《あぁ、愚か者の言う事など気になさらないで、アレは本当に田舎者の農民以下なのですから》


 凄い言うわねこの子。


「ですが実際には読み書きが不得手ですし、それこそ歴史も」

《それこそアレの方が遥かに下ですよ、隣国に近い場所に住んで居たのにココの単語だけしかダメで。成り上がり準男爵、商家の娘なんですけど、教育と教養を疎かにしたまま放置。このままでは爵位の維持は無理でしょうね、既に噂も出回ってしまって、貴族に嫁ぐのも婿も養子も不可能でしょう》


「その様な大事に」

《準男爵だからこそ、です、最低でも2代は続けねばならない男爵の第5子。とかでしたらまぁ、お目こぼしも有りますけど、2人姉妹の次女ですし。それこそ年が離れてはいますが姉の方は優秀なんですが、何故か嫁いでしまってますし、どうやら業績も微妙だそうで。このままでは、平民へ逆戻りでしょうね》


「私、何か」

《いえ、彼女が頑張れば良いだけですし、因果応報ケセラセラですからルースが気にする事はありませんわ》


 ぁあ、ケセラセラって因果応報なのね、成程。


「そう、納得してしまいますからね」

《はい、ココの一般的な常識ルールだと納得して構いません。では、コチラが教室となりますが、授業をご覧になりますか?》


「はい、是非」




 彼女は時に茶髪の彼に囁きメモを取らせ、黒髪の子に流暢に言葉を教え、教師に出会えば見事なお辞儀カーテシーを披露する。


《うーん、コレは魔女!》

『お嬢様、流石にお控えすべきかと』


《だって、私だってどうにか近隣諸国の言葉を使いこなせる程度で。なのに黒海に面して近隣諸国とは国交をしていないのに、アレなのよ?》


『お嬢様、キャラバンをお忘れでは?』

《はっ、確かに、ルーマニアのワインと織物は見掛けたけれど》


『キャラバンが優秀なのは確かでしょう、ですが彼らに足元を見られない方法としては』

《ぁあ、ルーマニアの王が噛んでいる、若しくはルースの様に優秀な者が多いか》


 後は転移者か、転生者と呼ばれる知恵を持つ者か。


『時にキャラバンでは人買いも有るそうで』


《ウチや近隣諸国では禁止しているだけ、だものね》

『奴隷だったかどうかは分かりませんが、可能性は有るかと』


 優秀だからこそルーマニアの誰かが買ったのか、売り込みが有ったのか。

 でも、そしたら逃げるかも知れないって心配する筈で。


 けど、結婚もしていないし、子も居ないって。


《でも、そうなると、それこそ同胞の可能性が高いのだけれど》


『であれば、寧ろ我々が見定められているのかと』

《えー、それならもうそうなのだと、はぁ、言い訳を沢山させて欲しいわぁ》


『そこを待ってらっしゃるのかも知れませんよ』

《怖いわぁ、ウチの家系は本当に文官しか居ないんだもの》


『その為の私かと』

《頼むわジル》


『勿論で御座います』




 ローシュが偶に言う、クーリナと呼ばれる者が記した名前の人物が、目の前に。

 ジル・ド・モンモランシー=ラヴァル、そしてジャンヌ・ド・アーク。


《ふふふ、驚いて、まだまだですね転移者様》


「はぁ、では、彼らは」

《いえ本物です》


 普段は表情を崩さないローシュが、目を見開いた。


「あぁ、しくじった、この時点で私は認めるしか無くなってしまった」

《転生者様かもとは思ったんですが、言語に優れている事から、少しだけ試させて頂きました》


「不合格ですかね」

《そこは私のセリフでして》


《ぶふっ》


 吹き出しながらも姿を表したのは、アポロン神だった。


「アポロン様、流石に吹き出しながらの登場は如何なモノかと」

《だってさぁ、お互いに試されてるって思ってんだもん、ひひひひひっ》

《すまない、黙らせる》

『彼はメルクリウス、そして僕はバッカス』


「ちょっとアンナちゃん」

《そ、こ、腰が》

《ふひっ》

《アポロン》

『まぁ、お互いに誤解してたのは分かっただろうし、ココではココの、フランク王国の神性の名を呼んであげてくれると助かるのだけれど』


「アンナちゃん、善き神様や精霊、妖精の名を知らない?」


《ふぇ、あ、ウチではメリュジーヌ様を主に崇めておりますが》

「あぁ、メリュジーヌ様、知ってます知ってます」


 そうローシュが答えた後、長いドレスとベールを着けた女性が現れた。


『そう、知ってくれているのね、ありがとう』

『近付かないで、ローシュはアーリスの』

「あら上手ねアーリス」


『ふふふ、大丈夫よ竜の子、アナタのモノを奪うつもりは無いわ』

《ろ、えっ、そ》

「アンナちゃん、一旦、落ち着きましょうね」


 ローシュがガゼボにアンナを座らせると、神々もガゼボへ。

 そしてジルとジャンヌも。


『お嬢様、お茶を淹れましょうか』

「あの、先ずはジルさんの事から良い?」


『はい』

「貴方に言うのも間違いだとは思いますが、ちょっと産まれるのが早かったのでは?」


『もし、私達の同胞に会う事が有れば、時代や年代のズレを気にする筈だ。そう、アンナ様のご家族に言われておりますが、そう言った類いの事ででしょうか?』

「うん、はい、そうです」


『その理由は、お嬢様が知ってらっしゃるそうです』


《2人で、お茶を、それとお菓子もお願い》

『はい、畏まりました』


《本物、の定義によるの》


「ぁあ、けど、何でまたそんな」

『私から話しても良いかしら?』

《そ、あ、はい》


『とある地方の子で、ジルやジャンヌと名付けられた子がいたら、知らせる様にと。そうして2人を引き合せる事で、寓話としてのジャンヌ・ダルクの話を創話し、広める。そう言う計画よね?』

《はひぃ》


「同じ内容ですか」

《そ、そこは時代によります。あまりにも一神教が我が物顔で暴れ回る様なら、史実通りに、そしてあまりにも弱体化する様なら美談にと。そう、我々はあくまでも全滅を回避する為の、調整係なのだと》


『一家が転移したのよね?』

「凄い、家族が転移、そうか、成程」

《高祖母が医師、曾祖父母達は料理人と教師、そして祖母達は……》




 ネオスが黙々と書いてるから、僕も予備と練習としてメモを取る。

 絶望的に字が下手だって言われるけど、ローシュは読めるから大丈夫って言ってくれる、寧ろ読み易いって。


「比較宗教学は、様々な宗教の違いを学ぶって感じで。服飾はもう、この全体と、農業」

『“農業、ですね”』

《“はいアーリスさん、その通りです”》


「それで、アンナちゃんのご両親はここら辺一体の地方領主」

『ウチと一緒なんだね、爵位の運用って』

『そうですね、寧ろ正史の方が理解に苦しみますから』


「ネオスが“爵位の運用について、正史の方が理解に苦しむ、ですって”」

《“あぁ、分かります分かります、世襲権が無いなら子孫の教育を頑張らないじゃないですか。しかも騎士道がどうとか言っておいて、お金で爵位を売る、けど貴族じゃないってマジで意味が分からないですよね”》

『“すみませんが、もう少しお手柔らかに、お願いします”』


《“あぁ失礼しました”》

「ネオスに激しく同意って事よ」

『成程』


『あ、鐘が鳴ったけど』

《“ぁあ、ココだと不味いので、私の私室でも宜しいですかね?”》


『じゃあ、僕らは下がるよ』

《うん、ごめんね、本当に面白かったよ、うん》

《すまない》

『私も、失礼するわね』


 神様達が、やっと居なくなった。


『はぁ』

「アーリス、違う竜なら他でも会ったでしょうよ」


『何か性質が違う気がするんだもん』

「あぁ、成程ね」


 それから結界が充分に張られた場所へ。

 魔道具らしい、しかもブリテン産。


 ならこう、通訳してくれる魔道具って、無いのかな。




『通訳してくれる魔道具が欲しい』


 まぁ、アーリスにしてみたら暇だものね。

 けど。


「アーリス、結構、それ危ないわよ」

『そうなの?』


「“アンナ、私を間者かも知れないとは思わなかったの?”」

《“それこそ祖母達が早々に伝言をくれたので、なのにすみません、お守り出来ず”》


「“アンナ、多分、私って貴女のお母様より年かも知れないわ”」


《“そう、言うって事は、もしや、30代でらっしゃいます?”》

「うん、はい」


《“あー、すみません本当に生意気な”》

「“いえ、それより、よ。普通なら、先ずは間者を疑うわよね?”」


《“はい、ですね”》

「アーリス、多数の国の言葉を操れるとなると」


『あぁ、間者ね、けど魔道具なら良いんじゃない?』

「悪用が怖いのよ、けど1代限りの魔道具は贅沢品、本来なら永続的に使える物を残すべきだから」


『けどココの結界って魔道具なんでしょ?凄いよブリテン産の魔道具、神様のみたいに質が良い』

『ですね、王宮のもこの位ですけど、魔法ですから』

「そう比較がね、成程。“アンナ、ブリテン王国はどうなの?”」


《“そこ、気になりますよねぇ……”》


 ルーマニアとは完全に離れている、ブリテン王国。


 それこそ国交は有ったけれど、ほぼ手付かずでも安全は保たれているらしく、寧ろ常に気を遣っているのは隣のエスパーニャだとか。


「“ぁあ、侵略行為は抑え込みたいのね”」

《“ですね、海を渡ってまで滅ぼすなんて、本当に意味が分からないです”》


 そこを心配すべきなのはブリテン王国も同じなのだけど、コチラで編纂した負の歴史書等が代々受け継がれているそうで、向こうも同じくアイルランドがネックらしい。


「“ココでも神話が絶滅しちゃったのね”」

《“はい、残念ですが、ウチと同じで内政と隣で余裕が無かったそうです”》


「“約1000年も前の事でしょう、流石にどうにもならないんじゃない?魔渦だって合ったんだし、一神教の広まりで悪魔の発現が頻発してたって言うんだし”」

《“そこもなんですよね、魔王が現れて、逆に安定したとも言えるので”》


「“あぁ、けど、卵が先か鶏が先かよね”」

《“でも言ったもん勝ちですから”》


「そうね」

『もう、ルツさんも呼び寄せても良いのでは』


「あ、忘れてた“もう2人、呼び寄せても良い?”」

《“はい、どうぞどうぞ”》


「“伝書紙、ココに伝わってる?”」

《“はい、元はスオミの国の魔道具を模したモノがブリテン王国へ、そしてウチに来たそうです”》


「成程」


 ブリテン王国イギリスも気になるけど、スオミの国フィンランドも気になるのよねぇ。




《はぁ、それにしても意外な決着方法でしたね》

「ルツ、アナタ偶に、遠慮無しに笑うわよね?」


《鼻が、寒さで少し荒れたのかも知れません》

「まぁ、今はそう言う事で良いのだけれど、国外でお願い出来る竜が居るかも知れないのよ」

『えー、やだぁー』


「平和が嫌なの?」

『他の竜に乗っちゃ嫌だ』


「じゃあどうしろって言うのよ、エスパーニャとアイルランドをほっといて、クーリナの転生体が死んだら」

『死んだら分かんないじゃん』


「会いに来る途中で手紙を託して死んだとしたら、よ」


『それは、凄く嫌だけど』

《竜以外の選択肢は無いんですかね》


「流石ルツ、天才、ちょっと聞いてくるわ」


 ローシュと合流出来たのは良いんですが、コレは暫く忙しくなりそうですね。

 抱き溜めておいて良かったかも知れません。


『ルツ』

《はいはい、機会が有れば譲りますよ》


『寧ろ協力してよ』


《良いですよ》

《ダメです、今日は僕と眠るんですからね》




 もう会えないかもって凄くドキドキしたから、今日はローシュ様には僕と眠って貰う。

 飴のご褒美も我慢したし、好き嫌いしないで何でも食べてるし。


「ファウスト、誰かが恋しい?寂しい?」

《ローシュ様に会えなくなるかもって、それが凄く嫌で、会えるまで頭の中がその事ばっかりで凄く嫌でした》


「そうか、ごめんね、取り越し苦労でした」

《ローシュ様は悪くないです、でも、なのに嫌でした》


「分かる、じゃあお夕飯の後、一緒に寝ましょう」

《やったー》


 それから暫くは学園で過ごす事になるからって、会議が始まって、色々と決まった。


 子供が教師だと変だからって、僕はネオスさんの侍従。

 ネオスさんとローシュ様は教師、ルツさんはローシュ様の婚約者で、アーリスさんはローシュ様の侍従。


 お夕飯はローシュ様だけお部屋で、落ち着いて日記を書きたいからって、偶にこう言う日が有る。


《ローシュ様用のお夕飯です、家に伝わる特別食だって》


 薄い麦粥みたいだけど、匂いが違う。


「あぁ!そう、ふふふふ」

《どう言う事なんですか?》


「コレは中華粥、アジアのお米のお粥、もう食べた?」

《いえ、コレはローシュ様にだけって言われてますから》


「美味しい筈、おいで」

《はい》


 ローシュ様が言った通り、麦粥みたいだけどサラサラしてて、何か美味しい。


「どう?」

《何で美味しいんでしょう?》


「ココだとフォン、お肉やお魚の煮汁、コレは貝の煮汁入り。“出汁ダシ”煮汁の美味しい汁が入ってるから、美味しいの」

《じゃあスープですね》


「そうね、美味しいお米のスープ、ふふふ」

《そんなに嬉しいですか?》


「違うアジアだけど、久し振りにアジア人と繋がりが出来たな、と思って」


《帰りたいですか?日の出ずる国に行きたいですか?》

「帰りたくは無いし、ちょっと、行くのは微妙かな」


《どうしてですか?》

「何か問題が有ったら、ルーマニアに帰るのが遅くなりそうだから」


《その国にローシュ様のご家族が生まれ変わるかは分からないんですよね?》

「文明、文化が殆どが消え去ったら嫌だから。美味しい物も綺麗な物も、いつか生まれ変わる2人にちゃんと届く様にしたいの、伝書紙みたいに直ぐに届く様に」


《そうなる何百年も先の為に、ローシュ様が苦労しちゃうんですか?》

「苦労って、今回は少し誂われたけど、そこまで苦労はしてないわよ。ナポリでもよ、もっともっと嫌な世界だったから、もう少し嫌な事が多くないと苦労だって思えない」


《僕みたいな子は、居るんですか?》


「どうだろう、貴族は居たし、誰かの命令で売られる子は居たから。似た子は居た、けど私が居た国には貴族は居なかったから、私の国に全く同じ子は居ない」


《神様が居たから、僕は無事なんですよね》

「それとスペランツァね、あの子が言いなりにならなかったから、優しい神様が居てくれたから」


《見えないのと、居ないのは違うんですよね》

「ちょっと、最近、そこは疑ってる。実際にサンジェルマン伯爵って人は居て、凄い長生きをしたって言われてるし、しかも転移や転生者みたいに各国の言葉が話せたんだって。だから、もしかしたら、神様も転移転生者も居るのかも知れない」


《だったら救われますよね?》

「忙しいんじゃない?魔法も魔道具も無いし、人の成熟度が上りきる前に便利な道具がいっぱい出ちゃったから、それだけ不幸が多いのよ」


《魔素、枯渇しちゃったんですかね》


「それか神様達によって封印されたか、数年後に復活してるか、新しく広まるか」


《本当に帰りたくないですよね?》

「おう、ファウストは帰りたい?」


《絶対に嫌です》

「ですよね、私もです。よし、寝る準備をしてきて」


《はい》


 美味しくない木を良く噛んで、その細かくなった部分で歯を磨いて、糸で歯の間を綺麗にして。

 樹液を入れた美味しい水で濯いでから、ローシュ様のベッドへ。


「歯は綺麗にした?」

《はい》


「よし、私も綺麗にしてくるわ」

《はい》


 ゴハンは直ぐに食べたみたいで、木をガジガジしながら日記を書いてた。


 実はローシュ様はゴハンが食べるのが早いんだってルツさんが教えてくれた、本当は食いしん坊だけど、周りに人が居るから仕方無くゆっくり食べてるだけなんだって。

 ローシュ様も雑な時が有るんだって、元は平民だったって事も教えて貰った。


「はい、準備完了、ふーっ」

《もうミントの匂いは平気ですもん》


「あらもう大人になっちゃったか」

《良い子ですから》


「そうね、どっち側が良い?」

《コッチで》


「はいはい」

《ふふふ》


 後ろから抱っこされるのが好き。


 ローシュ様は優しい匂いがする。

 柔らかくて良い匂い。


「メリュジーヌ様の事はもう聞いた?」

《長いドレスとベールだったって》


「色は?」

《あ、聞いて無いかも》


「水の精霊さんの娘さんらしい」

《本当なのか聞けなかったんですか?》


「まぁ、メルクリウス様も出て来たし、そこはいつかで良いかなって。そこで問題です、綺麗な水の色は何色ですか?それがドレスの色のヒントです」


《水色?》

「ぶー」


《緑?》

「ぶっぶー」


《ふふふ、くすぐったぃ》

「はい、目を瞑って考えて、海では何色だった」


《お日様の色?》

「お日様は何色?」


《白?》

「海は青?緑?」


《あ、両方?》

「何色と何色?」


《オレンジと青色》

「惜しい」


《え、じゃあやっぱり青と緑だ》

「正解、しかも見る位置で変わるの、青だったり緑だったり……」


 ローシュ様は僕が眠っても、多分話してくれたんだと思う。

 だってこう言う日は、いつもローシュ様が夢にも出てくるから。

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