患者と医師と。
『あら、アナタは?』
「私、サンジェルマン伯爵家でお世話になっている、ルーマニアのローシュと申します」
天使さんが、重要な者が病を発症した、と。
なので私だけで早馬リレーをし、マルセイユの宮殿に到着した。
そして目の前には煌びやかなドレスを纏う、天使が寄り添う、国家の重鎮。
『私はイザヴォー・ド・バビェ、宜しくお願い致しますわね』
この時代に有名なのは、メランコリック、憂鬱。
そして憂鬱は怠惰とも、7つの大罪の1つだそうで。
向こうでは鬱は脳の器質的疾患なのだけど、そうなると病が罪って。
いや、ココは本題へ。
危惧されていた
「宜しくお願い致します、ですがお顔色は良さそうですね」
『そうなのよ、何を皆は心配しているのかしらね』
彼は、
クーちゃんの資料では、親愛王、そして狂気王とも書かれていた人物と同じ名だけど。
「最近は特に冷えますから、少しの変化でも過敏になっているのでしょう」
『それにしてもよ、東洋の方よね、お医者様なの?』
「ルーマニアでは、ですね、ココへはあくまでも旅行でして。ですが、少しでもお手伝い出来ればと思い、召還に応じさせて頂きました」
『そうでしたか、ありがとうございます、どうか私の事は気にせず楽しんで下さい』
この時代に多重人格だとでも、神々よ、コレを私が見過ごせるとでも。
無理でしょう、少なくとも彼は苦しんでいる筈なのだから。
「はい、ありがとうございます」
『では、また』
国婿としては優秀、だからなのか、天使さんが名残惜しそうに離れてコチラへ。
そして彼は奥様によって、こう心を歪められてしまった、と天使さんが凄い悲しそうに言うから一緒に来たのは良いけど。
コレ、凄く、大事よね。
《あぁ、ありがとう、ロースさん、だったかしら》
惜しい、そして絶妙な間違え方をしなさる彼女こそが、イザヴォー女王。
嘗ては神々が認めた女王、けれど。
「ルーマニアのローシュ、と申します、サンジェルマン伯爵家で大変お世話になっております」
あら、目を見開いて。
ダメだわね、王族なのだから表情に出しちゃダメなのに。
幾ら疚しい事が有る貴族でも、顔に出した時点で失格なのに。
《ぁあ、そうなのね》
「陛下、事は重大で御座います、宮廷医に助言させて頂いても良いでしょうか」
《あぁ、ええ、そうね、お願い》
宮廷医が集まる場所へ向かうと、アンナに似た顔が、お兄様かしら。
あ、私を見て微笑んだから、多分認識された筈。
「では、宜しいでしょうか」
《ええ、お願い》
素人の私が知る限り、この病の治療法はただ1つ。
「放置、関心を向けない、話題に出さない。如何に無視するか、そうする事で寛解へ向かう患者の数が多い、と向こうでは言われています」
《けど、それだと何だか可哀想だわ》
こうして病を悪化させるって事は、向こうでもココでも、本当に良く有る事で。
「欲しがるままに何でも与えては子を殺す事に繋がるのと同じです、それとも死んで頂きたいのですか?」
《そん、けど彼は大人よ?》
「そうですが、大人が何でも出来るのでしたら、何でも我慢が出来ると言うのであれば。もう少し、貞淑になっては頂けませんかね、薬が効かなくなれば例え貴女であっても医師の道具となるのですよ」
《そっ、何を証拠に》
「出したら貞淑にして頂けますか?」
《無礼な人ね!捕らえなさい!》
「警備兵さん、彼女を捕らえて下さい、病を広げる者を野放しには出来ませんから。ですよね、最近彼女を診た人は、アナタかしら」
天使さんが教えてくれるの、凄く便利。
『はぃ、僕です』
「薬の処方は、これまで何回しましたか」
『今まで、この5年で、4回です』
「警備兵さん、宮廷医の方々、誰を捕らえるべきか分かりますよね」
《ちょっと》
「どうしてなのか、時に流行り病を持つ者は、何故か囲われると逃げるのですよ。そう病に操られているかの様に、逃げ、時に治療を拒む。警備兵、マスクをしてから捕らえなさい、そして噛まれぬ様に気を付けて」
最初は恐る恐る捕らえた警備兵達だったが、けれども神が姿を現さない事から、問答無用で牢へ入れられる事に。
コレもサンジェルマン伯爵家のお陰、感染症を保有する可能性の有る者は捕えるべきだ、と衛生法として確立してくれていたからこそ。
下が優秀でも、先代が良き女王でも。
こう、とは。
《もしや、妹がお世話になってる方でしょうか》
「サンジェルマン伯爵家のアンナさんにお世話になっていますが、お兄様の、ルイ様で宜しかったでしょうか」
《あぁ、はい、間違えようが無いとは聞いていたんですが。どうも、ルイです、妹がお世話になっています》
「いえ、私の方がお世話になりっぱなしで、今回も急に申し訳御座いません」
《門番から翼の生えた方をお通しした、と聞いてましたから。です、けど》
「天使さんですね、多分、ガブちゃんかと」
あぁ、サムズアップを、当たって良かった。
って言うか、どうして神様が来な。
ぁあ、私を特別扱いさせない為ですか、成程。
成程?
寧ろ、コレが本題だったのでは?
《天使も、我々には見えない、ですね》
「あぁ、喋っては無いですから、今は」
《あぁ》
って言うか次はなに。
何、何よ、女医さんがどうかしたって言うのよ。
「あの、あの方は?」
《ぁあ、僕の弟子でして。だからと云うワケでは無いのですが、腕は確かですよ》
「成程、けど、何かお悩みが有るのでは?」
《そこは、後でお話させて下さい。改めて国婿の事を、いえ、先ずはご休憩を。早馬で来て下さったそうで》
「あぁ、そうさせて頂きます。それと」
《お連れの方々ですね、手配させておきます》
「では、宜しくお願い致します」
とは言ったものの、超豪華、向こうと多分殆ど同じ。
お金を貯め込まないで行ってたら、いや、ネットで十分だからなぁ。
あぁ、コレ、クーちゃんに見せたかったなぁ。
つか、旅行で行ける位になっててくれると良いなぁ、新婚旅行とか。
『どうぞ、コチラをご利用下さいませ』
「あの」
『お着替えを急いでご用意させておりますが、着てらっしゃるモノは全て、コチラで洗わせて頂いても?』
「ぁあ、はい」
『では、失礼致します』
マルセイユ宮殿でマルセイユ石鹸って、何よコレ、何なのよ。
向こうでも叶わない事よ?
えっ、コレが今回のご褒美かしら?
『ありがとうローシュ』
「ぁ、ガッ、ガブちゃん?」
『はい』
「あの、ガブちゃんの今回の目的は?」
『私、と言うか主の、ですね』
「ぁあ、はい、成程」
『目的と言うか、もし救って頂けるのなら、と。彼は優秀で優しい、故にあの様な状態に陥ってしまった、けれども我々も介入は不可能』
「で、私がお名前を出したから」
『友好的であるなら、お願い出来るかも知れないな、と思いまして』
うん、天使には癖が無いだろう、と勝手に思ってたけど。
そうよね、ずっと人間を見守ってたのだから、上手でも当たり前よね。
「けど、私だと正攻法は難しいですよ?」
『是非、聞かせて下さい』
美人。
と言うかイケメン?
まぁ、良いか。
「私が会ったのは最初のイザヴォー女王だけ、で宜しいのでは?」
2回目に会った方が、寧ろシャルル6世って事にしちゃう、とかね。
『成程』
「お似合いでしたし、ある意味では正史通り。けど、子供達が優秀なら、こそっと療養させて終わりで良いのでは?」
『ふふふふ、流石ですねローシュ』
「もー、アンナにも止めてって言ってたの聞いてましたよね?」
『どうでしょうね?』
底知れないなぁ。
けど神性として、当たり前と言えば当たり前なんだろうけど。
「私を、どう思ってます?」
『私も、善き心の持ち主だと確信していますよ』
「罰を与える事は?」
『乱す者は悪としますが、貴女は違うでしょうローシュ』
「そう見えてるなら、まぁ、良いんですが」
『私も主もココの者、ですから、既存とは少し違うかも知れませんね』
「ぁあ、そうなると天使然として下さってて寧ろ助かります、私の中の天使は結構俗っぽいですから」
『ですが木曜日の天使、カスティエルは素晴らしいかと』
「あー、脳内を見られてしまっているぅ」
『他は見てませんから大丈夫ですよ』
「事前に許可を、お願いします」
『以降はそうさせて頂きますね』
「はぃ」
『そろそろ上がった方が良いのでは?ふやけてしまいますよ』
「はぃ」
どうにも髪を乾かす魔法は苦手で、必死に髪を乾かしていると、天使さんが乾かしてくれた。
そしてお礼を言って、すっかり着替えを済ませた頃。
《失礼しても大丈夫ですか?》
ルイお兄様の声。
「はいはい」
《どうですか着心地は?》
「凄い上等で、コレ、大丈夫なんですかね?」
《ココでは何ですから、先ずは温室へご案内いたしますね》
そして案内されたのは、素晴らしいガラスの温室。
と言ってもそこまで暑くは無い、大広間に有る暖炉から逃げる熱を利用している、浮島と同じ構造。
エコ。
「素晴らしいですね」
《ありがとうございます、さ、どうぞ。僕の弟子のブランシュです》
『先程はご助力出来ず、申し訳御座いませんでした。どうか、宜しくお願い致します』
「いえいえ、素敵なお名前ですね、お姿にとってもお似合いだわ」
『いえいえとんでもない』
《はい、じゃあ座りましょうか》
お兄様の方が物腰が柔らかいのは、やっぱりココで揉まれての事かしら。
お可哀想に。
「美味しいお茶をありがとうございます」
《この子がココで育ててるんですよ、少しだけ治癒魔法が使えるんですよ、ね》
『ぉ、あ、はぃ。浅いケガだけ、ですが』
アレかしら、聖女モノがとうとう。
「それがお困りになっている事の、原因?いえ、切っ掛け、ですかね?」
天使さん的には、そう、らしいけど。
『そう、そこまででも』
《些末な事だと君は思っているかも知れない、けど、だからこそ話してみたらどうかな》
え、何?
頬を赤らめる様な事?
「あぁ、成程」
ローシュ嬢は僕が全てを話さなくとも、何が問題なのかが分かったらしい。
見極めの必要は無いとは思うけれど、念の為、そしてブランシュの為にもなるだろうし。
《お疲れの所をすみませんね》
「いえ、それで、その魔法を見せては貰えますか?」
『えーっと』
《あのハーブをお願い出来るかな、今日、話題に出た》
『あ、はいはい』
《そのまま世話を頼むよ、コチラでもう少し話をしたいんだ》
『はい、では、失礼致しますね』
「お手数お掛けします」
『あ、いえいえ』
現女王とは比べ物にならない程、表情が読み取れない。
けれど。
「わぁ、凄い」
こうした部分では、素直に出るらしい。
《一神教、と言うか彼女は幼い頃から天使画が好きだったそうで。そのお陰なのか、小さなケガを治す事や、植物の成長を促す事が可能なんです》
「ココでは珍しい?」
《ですね》
「発芽率とか凄い良さそう、欲しい人材ですね」
《それは少し困るのでご勘弁下さい》
「ですよねぇ」
治癒より、植物の成長の方を評価した。
流石魔女、と言うべきなのか、それとも本当に不死身だとでも言うのか。
《あの子の事も、ですが》
「あぁ、少し不思議な策をと思ってたんですが、どうしましょうかね?」
《少し、お聞きしても?》
「あのままで宜しいのでは、と」
《ほう》
「あ、お子様達が優秀であれば、ですけどね」
《継承権が揺らがない程度には、既に立派にお育ちになっていらっしゃるので、そこは問題は無いかと》
「どちらに懐いてらっしゃいますかね?」
《お父上の方と聞き及んでいます》
「その言葉を信じるなら、彼にこのまま女王としてお過ごし頂けば宜しいかと」
確かに、病は発症した。
けれども政治に関しては相変わらずの判断力と言うか、それこそ今の方が逆に。
《成程》
「仕事ぶり次第では、暫くはこのままでも良いかと」
《出来れば、実際に問題が起きてから、ですか》
「はい、引き継ぎの多少の時間稼ぎにはなるでしょうし。万が一に指摘をされても無粋者だとなされば良いんです、敢えて変装してまで国を守って下さっている方を侮辱するなら、寧ろ不敬罪で殺処分しても問題無いのでは?」
《それで、あの治療方針を》
「いえ、実際にもです。如何に安心出来るか、安全なのかを思い知って頂くにしても、敢えて反応せず刺激をしない。そうする事で、ある時から不意に元にお戻りになるかも知れない。その時になって、改めて彼がどうするかをお聞きするのが、1番かと」
《では、彼女の事については》
「非常に簡単な方法で、ですけどお時間を頂く事になるかと」
《詳しくお聞かせ下さいますか?》
「専門家では無い、素人の意見ですが……」
私と私の家族と同意見、とは。
《流石です、感服致しました》
「そ、コレは一般常識で、しかも決して確信を持ってるワケでも無いですし」
《それでも、私達にしてみれば遥かに進んでる方で、あぁ先日は誠にウチの国の者が失礼を》
「いえいえいえ、ちょっと止めて下さい、高官の方なんですから」
《だからこそです、国を支える者として、本当に申し訳御座いませんでした》
「いえ、それこそ教育を広めるのは難しいんですし、例え末端まで教育が行き届いても」
《例の著書ですね、祖母も呻っておりました、成程と》
「アレも私だけでは無いんですからね、それこそ王や側近とで」
《だとしてもご謙遜を、その概念を持ち込み、ココの者にも理解させたのですから素晴らしい手腕ですよ》
「王にも伝えておきますね」
アンナが敢えて年を教えてくれなかったのは、そう言う事か、成程。
見た目通りの年齢なら聡明過ぎるが、魔女なら、有り得ると思ってしまう。
《参りました、相当の手練でらっしゃる》
「良く言われます」
ユーモラスでチャーミング、けれども底知れない、まさに魔女。
ルイ先生と翼持ち、とあだ名されるローシュさんが、陛下の今後の方針について宮廷医達の合意を取り付け。
そして家臣達へと素早く広めた。
そうした戒厳令の中、殆ど反対する者は居らず。
いや、そも、お2人が反対者が居た事を恥ずべきだ。
との流れを作り出し、敵を浮き彫りにし、あっと言う間に排斥させた。
正直、ちょっと怖い。
《ココで騒げば自分が秘密の浮気相手だ、とバラすも同然だったのに》
「本当に愛してらっしゃったのかも知れないですよ」
『なら、あの方がご病気にならなかったのでは?』
「そこは冷静なのに」
《日陰の子でしたからね、仕方無いかと》
『もー』
「あら、迷い仔牛が、何処かしら」
《脱走したのはブランシュと言う名の仔牛だそうで》
『どうせ、お2人とは違ってウブですしぃ』
《ブランシュ、ソコじゃないと言えばソコじゃないんだよ》
「そうね、ちょっと違うわね」
先日、事情をお話ししたのに、全然答えを教えて下さらない。
確かに、何が違うのか、何が間違いなのか自分で分かるのが1番とされている。
けれど。
『本当に誂ってるワケでは無いんですよね?』
「まぁ、ちょっとは、よね」
《そうだったんですか、意外にもローシュは酷い人だねブランシュ》
『もー』
「あら2頭目が」
《柵の見回りをさせる必要が有りそうですね》
この時、アレが気遣いだったのだと、気付けていれば。
《ローシュ、何もされていませんか、色んな意味で》
「ルツ、ご挨拶を」
《先ずはハグを》
「はいはい」
ローシュの居ない馬車移動は、未だ嘗て無い程、緊張感と苛立ちに溢れたモノで。
ファウストに至っては、不安からの過眠なのか、ひたすらに眠っていて。
《私達はもう、アナタ無しではいられないらしい》
《ローシュ様ぁ、凄いもう、誰も何も話さなかったんですからね》
『心配してたのに、普通に馬車で来いって言うんだもん』
『それこそアンナも心配してましたよローシュ』
「はいはいごめんなさい、事情を話すから、アンナのお兄様のルイにご挨拶をして」
《ルツ》
《ファウスト》
『アーリス』
『ネオスです、どうぞ宜しくお願い致します』
《ふふふ、コチラこそ宜しく》
そして事情、とは。
もう既に殆どが片付いているそうで。
《なら帰りましょう》
「あらブリテンに行くわよ?」
『まだ他の竜を諦めて無かったの?』
「違うわよ、他の選択肢よ」
ローシュが言うには、魔道具の杖か箒で、自ら飛ぶのだと。
《それこそ魔女じゃないかローシュ》
「あぁ、やっぱりダメよね」
《目立ち過ぎても悪い様に動く事も有りますからね》
「じゃあ、神獣、それこそフェニックスや鳳凰は?」
《ココでは知名度が低いから顕現させられるかどうか》
《ですね、一部地域では強いかも知れませんが》
「じゃあ、お馬さん?」
《女神エポナ、又は同一視されているマビノギオンの女神リアノンか》
「ルイ、そこに同一視される事の弊害は」
《リアノン神は、正直、凄く強い。そしてエポナ神も強く根付いているから》
「それらを信仰する者達が迫害の余波を受けるかも知れない」
《であれば、それこそ竜、ですが》
『んー』
「メリュジーヌ様、どう思われますか?」
『そうね、ちょっとだけ、お話しましょうね』
『ぅう、ルツ』
《はいはい、付き添いますよ》
そして、流石泉の精霊の子孫、とでも言うべきなのか。
『女の子の竜ならどう?ローシュがアナタにって宛てがおうとする可能性が高いけれど、ソレを乗り越えたなら、もっとアナタを認めて愛してくれるとは思わない?』
私が口を挟む隙も無い程、ローシュとアーリスを良く理解しての言葉。
この、たったこの一言で、アーリスが陥落した。
『ぅう、女の子なら、許す』
「ありがとうございます、流石メリュジーヌ様、8人のお子をお育てになったと言われる方ですわ」
『ふふふ、アナタの子も楽しみにしているわローシュ、じゃあね』
多産と豊穣の女神。
だからこそ、サンジェルマン家で拝めているんだとか。
《そ、あ》
「流石兄妹、反応がそっくり」
《ですね》
ローシュ様に抱っこして貰いながら、ココでの事を聞く。
だって、僕だって我慢したんだし、夜とかはルツさんとアーリスさんに譲るんだし。
「甘えん坊に戻ったのね」
《もう、それは良いですから、ココでの事を教えて下さい》
「はいはい、ルイ、良いかしら」
《ぁあ、はい》
《先ずはこの服について、ですかね》
服や下着を贈るのは、脱がせたいからって。
だからルツさんが噛み付いたんだけど。
《特別な来客用で、税金とは別、予めウチで購入してあったモノと言うだけですよ》
《成程、そうでしたか、お手数をお掛けしました》
《いえ、ココまで来て頂ける方用、ですから》
単なる転移者とか転生者には振る舞わないって意味なんだろうけど、ローシュ様が気に入ったから贈った、とも受け取れる様な言い方。
多分、ワザとだと思う、だって結婚の証の指輪をしてるし。
《ルーマニアのお言葉がお上手ですね》
《家族兄弟で分担しているので、責任重大ですからね》
「そう絡んで遊ばないの、もう1つの件は聞かなくても良いの?」
《あぁ、ブランシュの事ですね》
そのブランシュって子の話も終わって、やっとローシュとの時間。
「どうして仲良く来れなかったのかしらね?」
『だって、もしローシュに何か有ったらケンカになるだろうから、お互いに気を遣ってだし』
《まぁ、致し方無い事かと》
「けど、いきなり2人を相手は、加減をしてよね?」
『無理無理』
《ですよね》
アンナのお兄ちゃんのルイは、ルツとも冗談が言い合える面白い人間で。
ネオスにも気を遣って、ファウストとは別室に、そして僕らの寝室を警備出来る特別な覗き窓付きの部屋を用意してあげてた。
ローシュには内緒だ、って言って、良い人間だから好き。
『本当に心配したんだからね』
「はいはい、ごめんなさい」
今日は音を遮断する魔道具を使っているらしく、音も声も何も聞こえなくて。
そう、自分に言い訳をして、少しだけだと。
羨ましくて堪らない。
だからこそ、直ぐに見るのを止め、布団へ潜り込んだのに。
『あっ』
《あぁ、意外に若いんですね、ネオス君》
アンナの兄のルイ。
やけにルツさんと気が合うとは思っていたけど、こんなに意地悪な人だとは。
『その』
《不思議なんですが、どうして君は気持ちを伝えないんですか?》
『そんなに』
《既婚者の勘、そしてカマかけだったんですけど、成程》
王族では無くなったから、と。
そう油断し過ぎていたのかも知れない、こんな簡単な事に引っ掛かるなんて。
『失礼します』
《本物だと思うなら、寧ろ早く伝えた方が良いですよ》
この助言が、実は本当に優しさからくるモノだったと知るのは、少し先の事だった。
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