午後の部、シュレディンガーの猫と箱について。
昔、聖女が現れる国が有りました。
―――以下略。
そして国は滅びましたとさ。
『ほ、滅ぶんですか?』
「愚かな主君なら妥当でしょう、馬鹿の一党独裁が可能となった時点でアウト」
《そうですね、領主程度ならマシでしょうけれど、王なら影響する範囲は国ですから。古代の様に権力が一極集中していた場合、頭の良く働く自称聖女に暗躍されたとしたら、滅びるでしょうね》
『でも、ハッピーエンドを迎えるんですよね?』
「主に他国で」
《そこも疑問なのですが、どう、正確な情報を得ていると確信が持てたのでしょうか》
『アレ、魔道具とか、魔法とか?』
「学園で知り合った友人だから、父親の情報で、とか」
《だけ、ですか?》
『その時に、それこそ盟約魔法とか』
「騎士としては誓ってたりはします」
《あぁ、なら裏で情報収集を》
「描写は特に無いモノも存在します」
《確実な情報源からの情報だ、確かだ、と分からないままに他国へ行かされるも幸せに暮らせる。それがココでも可能だ、と勘違いする者が来た可能性が有るかも知れない》
『若しくは、後から来て、操られてしまうかも知れない。って事ですよね』
「あ、黒子の概念は分かるかな」
『舞台裏で仕掛けや道具を動かす職人さん、ですかね』
《あぁ、それが何か》
「黒子と呼ばれるその方々は真っ黒で頭巾を被って表舞台に立ちますが、観客は舞台装置の1つとして、敢えて無視しながら舞台を見る」
『あぁ、要するに無視して良い決まり事、って事ですね』
「正解。描写が無いからと言って、無いとは限らない、そうやって情報が省かれまくる事も有るだろうから。敢えて描写が無いのか、漏れかは分からんよ」
『本当に何も無いかも知れないし、有るかも知れない。それこそ作者がその時に考えてた事が確認出来無い限り、謎のまま。正にシュレディンガーの箱ですね、実に興味深いです』
「勉強が出来る子の結論は、そうなる?」
『と言うか哲学、心理学、それこそ科学にも応用出来る考え方だと思うんですよ。それこそ考える力を身に付けるには、良いと思います』
「いや、そこに至るまでには、それこそ活用する時期は程遠いのではと感じるんだが」
『寧ろ僕らみたいな転移者の篩い分けに良いのでは?』
「いや、それこそ黒子を無視しているのか、黒子に気付いて無いかの判断が」
『ローシュさんの説明並みに、敢えて雑に説明して、逆に滅んだ理由を挙げて貰うとか?』
「あぁ、成程」
『それこそ問答でも良いワケで、質問がいっぱい返って来る程良い、って明確な基準になりますし。応用編も複数出来そうだし、マニュアル化し易いと思います』
「凄いな、勉強苦手だったから尊敬するわ」
『あ、いや、それこそ健康だったからだと思います。元気だからココでも僕は勉強出来てたんですし』
「いや巨体の分際で偶に貧血を起こしてたとか、それこそ些細な事よ」
『貧血ってそこまで体格に関係無い筈ですよね?』
「けどまぁ、色白低体重美人専用って思う人間が多い環境、カーストだったから」
『けど、でも、抜け出せたんですよね?』
「どうだろうね、あの家に逃げ込んでた部分も大いに有るから」
《アナタ方の居た国、時代には階級制度は存在していなかった筈では?》
『国として、とか、それこそ国民全体の常識として定着している、とまでは言えませんけど。それこそ貧富の格差、常識の格差、扱いの差は確実に有ったと思います』
「ただ諸外国よりは遥かに、圧倒的に少ない、小さい、薄いって認識だけど」
『ですよね、それこそ同性愛者だからって殺されるワケじゃないですし』
「有っても数が違う、それこそ人口比率で見れば、大概の事は良い方なんだけど」
『数字の暴力ですよね、学校への武器の持ち込みで学級閉鎖してる数とか桁違いですし』
「しかも飛び道具で、死者が出るとなれば更に違うし」
『目立つから多いワケじゃない、実数、それこそ中央値の問題も有りますよね』
「そこな、平均値と中央値の違いを敢えて履き違えて使ってるとしか思えない記事、情報も有るし」
『情報を扱う人間の練度とか習熟度の問題が、実はココとそんなに変わらないって、何か悲しいですよね』
「中世並みかよ、プギャーだもんなぁ」
《クリーナ嬢、今の会話の中で知能指数や学力の差は感じましたか?》
「そこ今、ワシの前で聞くかね?」
『いえ、盟約魔法に誓って無いです、差を感じませんでした』
《なら、ある一定の部分では同等の学力や知能、知識が有るとして扱っても問題無いですよね》
『はい』
「何を企んでる」
《相互評価ですよ。アナタはクリーナ嬢を高く評価している、そしてそのクリーナ嬢の評価はどうなのか》
「あぁ、ディベート苦手そう」
『そうなんですよー、特に大勢で、慣れてない人だとダメで。そう、表に出ちゃってますかね?』
「コレが年の功です」
『成程』
《なら私から1つ言わせて頂いても?》
「却下します」
『僕、席を外しますよ?』
「ダメ、議論は議論、私的な事は休憩の時に」
『じゃあ休憩にしましょう、僕お手洗いに行ってきますねー』
《じゃあ、話し合いましょうか》
「一服中だけだ」
《分かりました》
面白い事になりそうだけれど。
コレって、見守るべきか、介入すべきか。
難しいわね。
それこそ私達神にも心は有るんだもの、当然、2人には上手くいって欲しいのだけれど。
『ねぇ、アナタ。他の国の神々は、どう耐えているのかしら?』
『それはもう歯嚙みしながら見守るだけだよ。介入しない、と言う事はそれだけ大きな対価、代償を支払う事でも有るのだから』
『でも、治世の為の制約なのでしょう?』
『神々へも苦渋の決断を迫らせ、苦しめた対価は、いずれは人々が支払う事になる。それが嫌ならもっと成熟させるべきだった、進歩すべきだった、進化すべきだったんだよ』
『私達、他の神々から嫌われてしまわないかしら』
『そこを考えるのも我々の役目なのかも知れない、制限が無いからと言って、好き勝手をすればどうなるか』
『碌な事にはならないのは分かってるわ、けど、でもよ』
『後は如何に責任を取るか。僕らは外部の神々や精霊とは連携が取れない、それによるガラパゴス化が吉と出るか凶と出るか。その正解が出るのは何百年も後か、答えが出ないままに滅びるか』
『知っているからと言っても、活用出来るか、するかは別』
『それを考えさせるのも、僕らの役目なのかも知れないね』
私達が介入に制限を設けない事に、どの国の神々も、誰も反対はしなかった。
それが良い事なのか、悪い事なのか。
『私達の選択が、もしかしたら民を苦しめる事になるかも知れない』
『介入の有無に関係無く、僕らを悩ます共通課題。だからこそ、外部の神々も精霊も、きっと理解してくれる筈だよ』
『そうだと良いのだけれど』
昼寝から目覚め、最新情報は何かって話から。
聖女の話になって、情報についての話し合いになり。
それがどうして、口説く事に繋がる。
さては。
「性欲でも溜まってらっしゃる?」
《口説くとその結論に至る可能性が有る、そう既に想定済みですが、実際に言われると響くモノが有りますね》
「で」
《先ずは性欲と好意を分ける方法、それからメリットとデメリットのすり合わせから行わせて下さい》
クーちゃんが絡んでるか、コレ。
あの子にも分からせるべきか。
いや、もう少し様子見をするか、頑張ってくれてたんだし。
「では、どうぞ」
《アナタの中に好意と性欲を分ける方法は存在していますか?》
「机上の空論でなら」
《アナタにだけ、性欲が湧くと、そう証明する事でしょうか》
「はい」
《では、メリットとデメリットについても》
「考えはあります」
《では、試しても構いませんか》
えー、何をだ?
どう、何を試す気なのよ。
性行為を?
ワシと?
他の人と?
コレ、下手に他の人と試すかどうかをコッチが聞いたら、じゃあ先にワシとヤらせろってなる可能性は無くは無い。
となると、先ずは了承だけで様子見だな。
「どうぞ」
《分かりました》
お、引き下がった。
と言う事は先ずは他の人と試すのか。
そうか。
ちょっと残念だけど、ルツの幸せの為には正しい。
コレで他とヤれても、ワシには害は無いんだし。
今まで無関心過ぎただけで、それこそ冷静に、客観的に仕事仲間としての立場になるかもだし。
そう、それを望んでいたのだし。
ココで生かして貰うのだから。
私利私欲、我欲は慎み、程々に尽くす。
そう、程々に。
胸の辺りがヒリヒリするけど、コレは今吸い込んだ煙のせい。
執着のせい。
イケメンが好きなだけのせい。
だから惜しいだけ。
相手の為を思うなら、弁えるべき、控えるべき。
ココで生かして貰えるのだから。
役割を与えて貰い、無能にも程々の生活をさせて貰えるんだから。
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