ちょっと性格の悪い秀才魔術師が「記憶消去魔術」を使うとこうなります~最短最速最高の結果で魔王討伐を終える為に俺はパーティメンバーを思い通りにマネジメントする事にした~

ジョク・カノサ

第1話 勇者一行

「王よ、良き眺めですな」


「うむ」


 聖王国首都。その中央に位置する絢爛な宮殿内の謁見の間にて、王にひざまく四人の姿があった。


 その周囲には統率された兵達が並び、煌びやかな貴族達が物珍しそうに四人を見つめている。


「勇壮なる御身の血を引くヘレン様を勇者として、騎士団の精鋭リスティア!今代の医療協会会長、ヘーゲル氏の才気溢れる実子ミカエル!そして魔術学園の今期首席卒業生ウィンザー!若き才能達がこうして魔王を討ち滅ぼす為に立ち上がったのです!……正しくはもう一人居ますが、それは置いておきましょう」


「うむ、うむ」


 わざとらしい大臣の言葉に王は満足げに頷き、ゆったりとした口調でそれを告げた。


「此度の魔王討伐、お前達のような前途有望な若人が名乗りを上げた事を余は嬉しく思う。しかし、余が何よりも尊ぶのは結果だ。結果こそがお前達の真の価値を示す事が出来る」


 未だ顔を伏せる四人の表情はそれぞれだった。


 緊張、期待、微笑――そして最後に名を呼ばれた男、ウィンザーは掻き上げられた黒髪の下に高揚を浮かべていた。


「面を上げよ。……おお、良い顔をしておる」


 しかし王の命によって顔を上げた時には全員が一様に決意の表情を浮かべていた。そして王はゆったりとした表情を静かな怒りのそれに変え、告げる。


「お前達にはここより北の地に蔓延る聖敵――すなわち魔王の討伐に向かってもらう。方法は問わん!魔王と魔王に与する者は最早我が聖王国の民ではない!構わず粛清せよ!魔王を殺し、その証を持ってきた暁には!最高の名誉と褒賞をお前達に授けようではないか!」





 ☆




 勇者ってのは要はだ。度々自国内に現れる魔王と指定された、聖王国にとって都合の悪い存在をぶち殺す為の。


 じゃあそもそも暗殺なんて面倒な事をせず軍を使えば良いじゃないかとは思うだろう。だが軍を動かすには金に人手に時間、その他にも制約がモリモリ。といっても国の危機ともなれば普通は動かすだろう。


 つまり魔王とは、という絶妙な個人や勢力が指定される。


 だから超少数人数での解決を目指し経費を削減、ついでに成功した暁には一大行事として国内を盛り上げるのに利用するという訳だ。


 そして肝心の勇者一行は立候補制。自国内で秘密裏に話を通し、立候補した者達を様々な観点から選別した数名を国が用意した勇者に随伴させて送り出す。


 この中に選ばれるだけでも名誉ではあるが、実際に魔王討伐が成功したと認められれば選ばれた者達が得られるモノは莫大だ。金や名誉はもちろん有力者とのコネが大きい。


 そう、コネだ。俺が欲しいのはコネ。俺が勤める事になるだろう魔術研究院における確かな立ち位置が欲しい。これはその為の足がかりだ。


 危険はある。相手は現在も着実に勢力を拡大しているであろう。対するこっちは俺を含めて五人の少数。


 だがしかし。この魔術学園第五十二期卒業生ウィンザー・ブレスコットが。勇者達を必ずしも勝利へと導くだろう。






 ☆





 とか思ってたんだが。


「その、という事はヘレン様はお妾様の子なのですか……?」


「は、はい。私の存在を父は隠したかったようで、表沙汰にはなっていないようですが、……あの、リスティアさん。私に対しては――」


「なんという事だ!」


 現在地は王国から少し離れた場所にある宿場町の宿内。王の計らいによって馬車でここに到着した後、まずは自己紹介をという事で集まった。


 目の前では俺達が守るべき勇者様が衝撃の事実を告げ、一行の一人である女、騎士リスティアが頭を抱えている。


「いくら王族とはいえ公表されてない隠し子じゃあ権力なんて無いに等しいじゃないですか!わっ、私の人生設計がっ!王族に気に入られて御付きの騎士になるという目標がああ!」


 どうやら思い違いがあったようだ。王族本人の目の前で言っていけない事を言ってしまっている。


 それに対して我らが勇者は申し訳なさそうにおろおろとするだけ。王族の特徴である薄い青の瞳はあれど態度に威厳がまるで無い。


「これは中々、大変な旅になりそうですね」


 医療協会会長の実子らしいミカエルは何が面白いのか不敵に笑っている。男らしいが微妙に長い銀髪と中性的な声で女にも見える。イケメンってのはこういうヤツの事を言うんだろうか。


「……」


 そしてもう一人、あの場には居なかった黒ずくめの人物。俺達の中で一番の背の高さから恐らく男だとは思うが、一言も喋らずに佇んでいる。


 俺達が事実上の暗殺部隊だとすればコイツは恐らく本業だ。王の間に居なかったのもそれが原因だろう。


「これが勇者一行ね……」


 喚き続けるリスティアの声を聞きながら、俺は小さく溜息を吐いた。そして即座にリスティアを動き出す。


「どこまで無礼を重ねる気だ、騎士リスティア」


 これ以上コイツに喚かせる訳にはいかない。声は低く形式ばった話し方でリスティアを糾弾する。


「今の発言を王族へ向けた意味が分からないのか?貴殿の発言、今であれば即座に王都へと戻り然るべき対応をする事も可能だ」


「っ……」


 今更それに気づいたのか、取り乱していたリスティアが我に帰り同時に顔色が青くなっていく。おせーよ。


「待ってください!」


 俺自身の保身の為に今からでも戻ってマジでチクるべきかどうかを思案していると、無礼ナメめられた側の王族が割り込んできた。


「私は気にしてませんから!このまま、このまま行きましょう。お、お願いします」


 そう言っておどおどと頭を下げるヘレン。それを見て俺は唖然としてしまう。


 王族ってのは少なくとも王国内じゃそれだけで全てを覆せるぐらいのステータスだ。金も人も権力も好き放題の立場の筈。なのにコイツにはそういう王族っぽさが欠片も無い。


 世間に全くと言って良いほど知られていない隠し子の時点で嫌な予感はしていたが、ここまでとは。


「……承知しました。ヘレン様がそう仰るのであれば私は従いましょう」


「あっ、ありがとうございます」


「しかしそこの騎士が頭を冷やす時間は必要であると考えます。そこで提案なのですが、自己紹介を中断して一度解散するというのはどうでしょう」


 これは建前でどっちかというと俺が色々と考える時間が欲しいだけだったが、結果これは了承され一同は解散する事になった。


 再集合は一時間後。ミカエルは薄笑いを崩す事なく町を見てくると言い残し、黒ずくめはいつの間にか既にこの場から消えていた。


 ちなみにリスティアは青白い顔のまま自分の部屋へと戻っていった。こっちにも対応が必要だな。


「……」


「ヘレン様?」


 三人が去った後も何故かヘレンはこの場に残っていた。下を向き俯いた状態。俺は僅かに警戒を強めながら近づく。


「そうだよねそうだよねやっぱり私は誰にも――」


 何やらクソ小さい声でぶつぶつと呟いている。内容はほとんど聞こえない。


 これはアレか?リスティアの発言による精神的な負担でこうなったのか?マジか?隠し子ってのはあの程度でこうなる程に冷遇されてるのか?


「……」


 問題だ。複数の同じ人間と長時間行動を共にする際に大事なのは何か。議論の余地も無く人間関係だろう。


 そしてヘレンは一応ではあるが勇者、俺達の中心だ。コイツのメンタルに負担がかかる事も他の人間との関係が悪化するのも避けたい。


 そういう意味もあってリスティアを早々に排除しようとしたのだが……本人がそれを望まないなら


 周囲には誰も居ない。加えて視線や気配も無い事を確認した後、ヘレンへと接近する。


 手を頭の裏に。魔力を練り式を構築し――その魔術を発動した。


「私は――っ」


「っと」


 声が途切れ意識を失い机へと突っ伏しそうになったヘレンを受け止める。頭を打った衝撃で今起きられても困るからな。


「嫌な事は忘れたら良い」

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