鉄鉱石の右腕と魔法樹の左腕の天下無双~善と悪が崩壊してしまったら誕生する~

MIZAWA

第1話 異種族家族

 父親はドワーフ、母親はエルフ、俺はその間に生まれたハーフという事になる。

 俺の体は父親譲りに頑丈で、俺の耳と魔力は母譲りだった。

 俺は生まれた時から右肩から先の手、左肩から先の手がなかった。

 

 赤子の頃は義手のようなものを両親は作ってくれた。

 それは動かす練習のようなものだった。

 赤子の時から練習を続け、少年になり15歳の青年になった。

 

 義手の動かし方は大体慣れてきた。

 魔力で結合するイメージ、それは両腕そのものだった。


 15歳の誕生日、父から鉄鉱石の右腕を貰った。母から魔法樹の左腕を貰った。

 それは普通の義手とは違い、特別な義手だった。

 

 普通の義手より遥かに動かしやすかった。

 鉄鉱石の右手は力仕事の為、魔法樹の左手は器用に動かしたり魔法を発動する為だと教わった。


 誕生日の翌日から父親と母親に使い方を教えてもらう予定だった。


 次の朝になる前、夜中の0時くらいだろうか、突如とやってきた殺気の塊。

 父親と母親は俺を地下に隠れさせた。


 意味が分からず、地下で隠れていると殺気の塊のようなものがやってきた。

 

「やぁ、デリーとベルよ」


 父親がデリーで母親がベルだった。

 その謎の男の声はくぐもっていた。


「どうだろう、我が魔王軍に君達2人を勧誘しにきたんだが……」


「それはお断りじゃ」


「まったくあんたもしつこね」


「そうか、我はとても慈悲深い、従わねば殺すぞ」


「「やれるもんならね」」


 俺は隙間からその光景を見ていた。

 父親と母親が相手に向かって走り出す。

 眩しい光が続いたら。その男は笑っていた。


「魔王であるこの我に勝てる訳がないだろうが」


 そういって男は立ち去り、しばらくしてから地下から這い上った。

 ドワーフの父親は胸に巨大な穴をあけてこと切れていた。

 母親は首が両断されて床に転がっていた。


 心臓が早鐘のように鳴った。

 父親と母親の記憶が走馬灯のように流れた。

 息が苦しくなり、過呼吸が始まった。

 それでも胸をかきむしって、立ち上がると。


「はぁはぁはぁ、ぶっ殺してやる」


 頭の中には魔王への恨みしかなかった。

 どこにでもある家族じゃなかったかもしれない。

 よく街に住むことが出来なくてごめんねと母は謝ってくれたりした。

 それでも俺はこの森深くの山の麓が好きだった。


 瞳から水滴のようなものがぽろりぽろりと流れてくる。

 手でこすってもこすってもそれが涙だとようやく気付いた。


 その日、俺は父親と母親を埋葬した。

 その後、2人の師匠だった人が近くの街にいる事を思い出した。

 両親は何かあったらその爺に合いに行けと言ってくれていた。


 ごく普通の木材の家。そこは2階建ての立派な家だった。 

 その日から俺は旅に出た。


====ルビー街====


 巨大な城壁、巨大な門、大勢の人々や商人達、ちらほらと見える冒険者と傭兵。

 それぞれが行き交っていた。

 そこはルビー街と呼ばれている。遥か昔地下からルビーが取れたそうだ。今では枯れてしまっているらしい。


「そこのもの止まれ」


 門兵の人が2名こちらを見た。

 俺はフードをかぶって草色のマントを羽織っている。

 右腕と左腕には黒い手袋をはめて、どこにでもある人間を装う。

 しかし俺はドワーフの血を受け継いでるため背丈が微妙に小さい。


「はい」


「見た所、初めてルビー街に来るようだが? 何をしにきた」


「はい、師匠を探しに来ました。この街にいると聞きました」


「その師匠の名前は?」


「シャカザツ師匠です」


「ぎゃはははははは、あの酔いどれ爺がか? どこにでもいるくそ爺だろ、お前担がれてんじゃねーのか?」


「そうなんでしょうか、父と母が御世話になったそうで」


「ぎゃはははははは、面白すぎるぜ、その酔いどれ爺によろしくな、通ってよし」


 門から通され、中に入る。

 街は巨大で多種多様な建物がある。

 巨大な宿屋や酒場、街の真ん中には決闘場まで完備し、冒険者ギルドというものもあったり、商人ギルド、傭兵ギルド、魔術師ギルド等が完備されている。


 人は数えきれないほどいて皆和気あいあいしている。

 

「これが人間」


 ルビー街は人間が支配する街だ。

 だからといって異種族を差別する風習みたいなものはなく、ちらほらとノーム族のものやドワーフ族、エルフ族、ダークエルフ族、等々が歩いている。


 決闘場で円を描くように無数の商店が並んでいる。

 もちろんスリ師のような子供達が無数にいる。

 ちらっと見ると路地裏があり、そこにはぼろぼろの衣服を着用している人達もいる。


「それぞれの富との差がひどいのだろうか」


 ただ呟いてみて、シャカザツ師匠を探し始める。

 ドワーフの父がよく言っていたのは、シャカザツ師匠は酒場にずっといるそうだ。

 もちろん家がないわけではないらしいが。


「とりあえず酒場に向かうか」


 大きな酒場を見つけ中に入ると、大勢の男と女たちがげらげら笑ってお酒を飲んでいた。彼等からしたら俺みたいな少年は用なしのようだ。


「すみません、シャカザツ師匠はどこにいますか?」


「まじか、あいつを師匠って呼ぶのか、ぎゃははははは、お前ばかじゃねーのか」


「ここにいませんか?」


「シャカザツ馬鹿は路地裏でぶっ倒れてるんじゃねーか」


「ありがとうございます」


「悪い事はいわねーあの飲んだくれは放って置け、娘が死んでからダメだありゃ」


「そうでしたか」


 辺りを見回して路地裏に入る。  

 酒場の路地裏に1人の老人が座って瓶からお酒をちびちびと飲んでいた。

 顔は真っ赤になっており、頭はつるつるに剥げていた。

 それでも眼光だけは鋭かった。


「シャカザツ師匠ですね?」

「なんじゃ、わしを師匠と呼ぶ奴は、ヒック」


「父と母が殺されました。あなたを頼れと」


「どこの父と母だ、ヒック」


「ドワーフの父とエルフの母と言えば分かりますか」

「おい、坊主、こっちこい」


 突如として酔っ払いモードが解除されたシャカザツ師匠。

 彼はふらふらと歩くのではなく、背筋をピンとして歩き始めた。

 それを追いかけて行くと、1軒の大きな家に辿り着いた。


「ここは娘と暮らしていたところじゃ、娘は可愛くてな、嫁の忘れ形見じゃった。じゃが娘は突然何ものかに殺された。あいつは冒険者をやっていたんだが、帰ってきたのは死体だった。パーティメンバーを追求したが何も得られない、ただ分かるのはパーティーメンバーの1人が貴族だったって事だ」


「はい」


「まぁそんな話はどうでもいい、椅子に座れ、長旅ご苦労じゃったエルドーよデリーとベルは残念じゃった」


 そこにいたシャカザツ師匠の瞳は優しい瞳だった。

 彼の両目から涙がぽつりぽつりと流れている。

 もうそこには酔いどれの爺さんはいなかった。


「魔王バデスに殺されました」


「はぁ、そう言う事か、あいつそろそろ動くとは思っておったがのう、動き出したか、実はなわしは勇者じゃったんだよ遥か昔の話だ」


「はい、よく父が言っていました」


「まったく、わしの血にはドルイド族、つまり賢者の血が入っておる、じゃから他の奴等と寿命が違う、もちろんドワーフもエルフもじゃ、それはどういう事かというと勇者であるわしの事を覚えてるのはごく一部という事じゃ」


「なんとなく分かります」


「でじゃ、右腕と左腕接合しておるな」


「はい、とても動かしやすく」


「もういいだろう泣け、苦しいのじゃろうお前、顔に出てるぞ」


 俺は右腕と左腕を何度も握りしめる。


「俺は家で沢山泣きました。あとは魔王バデスを殺してからにします」


「なるほどのう、おそらくお主はバデスを殺しても泣けなくなっておるなぁ、まぁそれもいいか、さて、鉄鉱石の右腕と魔法樹の左腕、これの設計図を渡したのはわしじゃ」


「そうでしたか」


「じゃがドワーフの父とエルフの母がいなければ出来なかった事じゃ、おぬしはあいつらに感謝せねばなるまい」


「はい」


「お主がここに来たという事は、ふむ、お主を化物クラスに調教してやろう、覚悟は出来てるな」


「もう覚悟は出来ています」


「まずはわしの空間に入ってもらう、その前に空間について説明する。人=星という事じゃ、つまり空にある星々は人間や生命の1つ1つにリンクしている。お主にも1つの星がリンクしている。いつか自分の星に行けるようになったり、他の人の星にいけるようになったりする。まぁ今回はわしの星で修行じゃ」


「お願いします。俺は強くならないといけないんです」


「まぁ、やってみないと分からんちゅうことや」


 シャカザツ師匠は指をぱっちんした。

 次の瞬間空間そのものがパズルのように解け始める。

 次に空間そのものが再構築されて、俺が立っている場所はどこかの空の上だった。

 体は落下し続ける。

 それがシャカザツ師匠の星だった。


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