メリバ原作主人公の姉になりました

枝野モズ

はじまっていた物語




 この世界には ≪神の力≫ という特別な力を持って生まれてくる者たちがいる。 ≪神の力≫ は神からの恩恵である。授けた神の逸話に由来しているその力は、人ならざる者の力である。


 その力をもつ者は崇められている一方で、人智を超越した力をもつが故に、時には災いをもたらし世界を破滅させるほどの脅威にもなり得ることから、恐れられていた。



 ──神から選ばれし者が神の力を授けられる。



 その特別な力を持つ者は時には讃えられ、時には恐怖の対象とされている。力を持っているとて、良いことばかりではないのだ。


 ──その一つに、≪神の力≫ をもつ者たちはある縛りを神から力と共に与えられていた。


 

 ≪神の力≫ を持つ者たちは皆プシュケーが神の理に囚われている。



 ――というのも、彼らの運命は神の逸話によって予め定められているからだ。このことを研究者は ≪エピソード≫ と名付け、時代が降るにつれて研究が盛んになり、このデメリットは浸透していった。



 近年の研究では、力を酷使しすぎると、 ≪呪い≫ が発現する確率が上昇してしまうこと。そして、身体が未熟でプシュケーも不安定な場合にも、力を扱いきれず ≪暴走≫ を起こしてしまう──。 という最大の問題も判明してきた。



 研究者たちはこれらの問題をどう対処するか、日々研究と実験に追われている。






 プシュケーはエピソードをなぞるように身体を行動させる。外部からの妨害等により、エピソードが崩れてしまい、達成しない場合には ≪呪い≫ となり、力が暴走して世界を破滅させてしまう。 ≪呪い≫ が生じたら最後、何かを犠牲にしなければならなかった。




 力とは引き換えに、神によって与えられた使命や運命を克服してはじめて真の力を手にできるとされている。








 ミィアス国では、まだ神と人間の境目が曖昧な神話時代から神と王家は近しい関係にあった。


 神話末期の古代のある神託以降、代々王が ≪神の子≫ となり神の代理として力を持つ者達を管理していた。


 そして、王と力を持つ者達の契約のために、神から授けられた聖遺物が三つ存在するとされている。これらは歴代の王の継承式で引き継がれ、全て揃っているからこそ、力を管理し平和を維持できているのだった。




 ミィアス国王は、神より授けられた力と権利で、 ≪神の力≫ をもつ者たち全てを管理している。しかし、この絶対的な力を持つ王にも弱点があった。


 ──それは、次世代の ≪神の子≫ が誕生すると弱体化すること。それによる弊害はこの国にとっては膨大な損失だ。例えば、 ≪神の力≫ をもつ者たちの管理が次第にできなくなり、交わした契約や力を押さえつける縛りも効き目が弱くなってしまう。



 維持するためには、 ≪神の子≫ミィアス国王 のもつ力を必要以上に使うしか他ならず、王の器とプシュケー身体と魂は次第に脆くなり、やがて ≪エピソード≫神から授けられた運命、理に飲み込まれ死に至ってしまう。力の由来である神の ≪エピソードの記憶≫ が発現すると身体を滅ぼしてしまうのだ。いくら力に神に由来していても、人間だから。彼らの死の訪れは、神から授けられたギフトだ。





 

 ある日、次世代の ≪神の子≫ が生まれた。この次の ≪神の子≫ミィアス国王 になる者は他の者よりも巨大な力を持つ代わりに プシュケー は清く美しく穢れに弱く、そしてその子の プシュケーは誰もが魅了される特徴を持っていた。さらに悪いことに、この子の誕生はこの世界の安寧に綻びが生じた瞬間でもあった。その子は、エピソードが欠けていたのだ。危機感を抱いた王らはある計画を実行する。





 ――小さな糸のほつれは、やがて大きな穴となり ≪呪い≫ が生じたこの世界は破滅への道を歩むこととなる。





  


 









 私は想像すらできなかった。この物語のタイトルが何を意味しているのか。誰がための希望なのか?



 そしてこの本との出会いが全ての出来事のきっかけになるなんて全く思いもしなかった。「これはただの夢」だなんて、最初はそう思っていた。




 私は、忘却していた。嫌、違う。誰かよってソレは深い記憶の奥底の箱に仕舞われていた。箱を開けない方が良かったのかもしれない。


 ―― ≪運命≫ という名の幾つもの糸に雁字搦めにされていることを。巡り巡って今に至る。






 ――ここでは皆、理に囚われて生きていた。















 『オルフェリアの希望』

 

 一見ファンタジー系のシミュレーションゲームと見間違えるほど可憐なタイトル。妖精たちが出てきそうな雰囲気。第一印象は児童文学。



 だが中身は全くの別物で、戦乱で王が死に第一王子は行方不明の中、 ≪呪い≫ の影響で国が乗っ取られてしまう。破滅が着々と近づく世界で主人公のユディが国の安寧や家族の絆を取り戻そうと≪呪い≫ によって破滅を迎えつつある世界で奮闘する物語。


 だが結末は、メリーバッドエンド。誰かにとっては幸せなエンディングを迎えるけれど、実態はどう見ても悲しい結末らしい。






 ――私がこの本を読んだのは全くの偶然だった。


 図書館で目当ての本を探している時、同じ分類に目をひく背表紙があって、なんとなく手に取った。


 表紙は深い青に刺繍のようにされた煌びやかな金の箔押し加工、小口は銀色に染色されていて、装丁がとびきり綺麗だったから、一目惚れして借りてみようと思った。


 いつもなら時間がなくて貸出期間内に読了できず、惜しみつつ返却した作品多数……。たまたま時間がとれたので腰を据えて読みはじめた。

 



 美しい装丁を堪能したあとに、目次でだいたいの物語を把握する。次のページに登場人物紹介がある場合は、ネタバレが怖いので見ないようにする。頭の整理がつかなかった時用の休憩所として取っておく。傍に登場人物の名前と性格・特徴がメモできるように紙とペンも忘れずに。


 ――これが文学作品を読むときのマイルール。




 

 気がついたら読み始めてから何時間もたっていたようで、空は綺麗なオレンジ色の夕暮れ。夕食は軽食にしよう。今朝焼いたベーグルにクリームチーズと生ハムでも挟もうか。


 こんなに時間を忘れて本を読む機会も最近なかったので、思いがけず良作に出会えてよかったと登場人物のメモを片付ける。まだ、明かされていない性格とか裏の顔もあったりするのかな……伏線も回収したい。


 最初に読んだ目次から戦記もので血みどろの物語と予想はしていたけれど主人公の青年は幼い頃からのトラウマがあるみたい。まだ出てこない兄弟のことも、この後語られるのかなと登場人物の関係性を整理していく。

 

 


 お気に入りの栞を挟み、一旦休憩。ふいに思い出した読書好きな友人が好きそうな本だからとお薦めするのも忘れずに。

 

 



 その後この本はシリーズものと判明した。偶然、全巻先に読んでいた原作ファンの友人に猛プッシュされ、思いがけず一晩で一巻目を読破した。私にしては珍しく考察したくなる作品だった。

 

(まあ、結末はメリバと有名だけど……私はそこに至るまでの過程を読むのが好きなのだ )



 原作ファンの彼女曰く、スピンオフのゲームが発売されたり、原作が過去に舞台にもなっていたそうで今度一緒に舞台の円盤の鑑賞会をすることになった。



 原作本は三冊あるそうだ。今日は一冊しか借りてこなかった。メモを見返してこの時点でわかっていることを整理する。




① 主人公ユディのトラウマの原因は姉 


② この世界の王族は ≪神の力≫ を持って生まれてくる子どもが多い。しかし、その力は人によって色々な制約がある


③ この世界は ≪呪い≫ によって破滅する運命を辿っている

 




 続きを明日探してみよう。まずは原作本を読み終えよう。その次は、スピンオフ作品、そしてゲーム。そのゲームは、主人公の姉がヒロインの恋愛シュミレーションモノらしい。


 こんなに何かに取り憑かれたように夢中になるのは久しぶりだ。この本は年代物らしいので図書館が確実か、と思い明日の予定に図書館へ行くことを追加する。




 期待でドキドキする心と疲れてクタクタの身体でチグハグなまま、シリーズを読破するまでの道筋をたてつつ眠りについた。

 


 ――やっぱり読書はやめられない!!



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