剣聖



「一体誰がこの展開を予想できたでしょうかー‼ 今‼ この場に立っているのが‼ ウィグ・レンスリー選手だということを‼ 『業火のエド』の熾烈な攻撃に耐え、最後の最後に逆転の一撃をぶちかましましたー‼ 場内騒然会場興奮‼ 私も司会の身でありながら、マイクを捨てて叫び出してしまいそうです‼ すごいぞ『流星団』‼ すごいぞウィグ・レンスリー‼」


 地鳴りのような大歓声が響く。

 その中には僕を称えてくれているものもあるだろうが、残念なことに少しも聞き取れない……意識が飛ぶまで三、二、一。


「よくやった、ウィグ。お主は間違いなく『流星団』の代表じゃ」


 力なく倒れる僕の身体をアウレアが支える。

 文字通り客席から飛んできてくれたらしい……全く、メンバー想いのマスターである。


「じゃが、無茶をし過ぎじゃ。お主は大事な家族じゃからな、死ぬことは許さんぞ」

「身体は丈夫な方ですから……さすがに少し疲れましたけど」

「疲れたどころの騒ぎではなかろうに……とにかく、今はゆっくり休むがよい」


 そう言うアウレアの声は、とても優しく。

 素直に、心に染み渡ってきた。


「……みっともない戦いっぷりだったんで、『流星団』の評判は落ちちゃったかもしれないですね。すみません」

「そんなことを気にするな……お主は立派に戦った。誇りに思うぞ」

「僕には勿体ない言葉ですよ」

「謙遜するな、嘘偽りない事実じゃ……ついでに言うと、儂は別の意味でもお主に感謝せねばなるまい」

「別の意味というと?」

「もしお主が死んでいたら、儂はガウスを殺しておったじゃろう……そうなれば『流星団』は解散に追い込まれる。お主が必死に耐えたことで、儂らも命拾いしたということじゃ」


 僕の忍耐のお陰で血生臭い事態は避けられたらしい。

 一応胸を撫で下ろしておこう。


「ずるずると五百年ほど生きてはおるが、儂も人格者ではないしの。一時の激情に身を任せて周りを破滅させることもある……今回は大丈夫じゃったがな」

「そいつは何よりですね」

「かと言って、このまま手放しに大団円というのも落ち着かん。腐った鷹どもに灸を添える必要があるの」


 物騒な笑みを浮かべるアウレア。

 今にも「明星の鷹」相手に喧嘩を吹っ掛けそうだ。


「まあまあ、せっかくいい感じに勝てたんですし穏便にいきましょうよ。ここでトラブルを起こしたら軍にしょっ引かれますし」

「お主はそれでいいのか? あやつらに制裁を加えんでもいいと?」

「エルネが生きていれば充分ですよ。ついでに僕も生きてるんで二重に最高ですね」

「カハハッ、相変わらずわけのわからん奴じゃ……そこが面白いんじゃがの」


 一転して、アウレアは無邪気に笑う。


「お主が争いを望まぬと言うなら是非もない。非公認ギルドに二つ名持ちを倒されたというだけで、あやつらのプライドはズタボロじゃろうしな。これ以上イジメるのは勘弁してやるとするか……が、一つだけやることがある」

「やることですか」

「そうじゃ。公認ギルド序列四位『明星の鷹』、その代表である『業火のエド』を降した剣士……今まさに、この国の誰もがお主に注目しておる。じゃったら、大々的に大手を振って、これ見よがしに目立ってやろうではないか」


 言うが早いか、アウレアは僕に肩を貸しながら立ち上がり、空中目掛けて雷を放った。

 騒がしく揺れていた場内が静まり、一様に注目が集まる。

 その視線の中心で、アウレアは威勢よく口を開いた。


「いいかよく聞け! ここにいる男こそ、『無才』でありながら強くなることを諦めなかった本物の剣士! 『剣聖のウィグ』じゃ!」


 目立つのは嫌いだと言っていたのに……これじゃあまるで、僕がスターみたいじゃないか。

 薄れゆく意識の中で悪態をつきながら、僕は目を閉じた。


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