70てぇてぇ『休日ってぇ、ちょっと心地よい疲れがあった位のほうがいいんだってぇ』

 お昼。

 この時間からご飯を食べ動き出す組もいるので、サンドイッチとかが多い。

 今日のお昼は、さなぎちゃんが頑張って作ってくれたサンドイッチを頂く。

 さなぎちゃんは、そーだのように食べさせてくることはなかったが、ずーっとじーっと俺が食べるのを見てて、毎回「おいしいよ」って言うとにぱーっと笑ってくれた。


 悪い気分ではないが、緊張感が凄かった。


 そして、洗い物は相変わらずそーだがやってくれている。

 寄り添う姉さん。

 まあ、姉さんが喉を酷使せずあまり動かないのは俺としては心配が減って嬉しいのでそのまま寄り添わせておくことにする。


 ぼーっと配信切り抜きを見ていると、ちょこちょことさなぎちゃんが近づいてきて、もじもじしている。

 だが、言いたいことは持っているものと、その、恰好でまるわかりだ。


「えーっとさなぎちゃん?」

「あ、あの! すみません! 丁度良く高校時代の体操服がありまして! あまり使ってないものですから汚くないので!」


 そう、さなぎちゃんは体操服だった。

 ありがたいことに古に伝わるブルマではない。助かった。


 どうやらマジでコスプレで俺を楽しませようとしてくれているらしいが、何故こうなった?

 ちなみに言っておく。俺は別にコスプレ大好きっ子ではない。

 もちろん、Vtuberの新衣装とか、シチュエーション衣装には手を合わせる。

 だが、別にリアルでは、ふーんえっ……じゃん位の感じだったんだが、目覚めかけそうで怖い今日この頃。すげーや、コスプレって。


「あ、ああ……そうなんだ。かわいいね」

「わあっ……うれしいです!」


 さなぎちゃんは凄く幼く見える印象なので、というか、普通に若いので、似合う。

 違和感がない。

 そして、褒めるとまたにぱーっと笑い、急に元気になり始める。かわいすぎか。


「それでですね! あの! 外は雨なんですけど、折角だからちょっと身体動かした方が気分転換にもいいかなと思いまして! 一緒に、ゲームやりませんか?」


 さなぎちゃんが手に持っていたのは、スポーツ系ゲームコントローラー。

 俺もゲームは好きだ。Vtuber達がやってるゲームは面白さを共有したいからそれなりにやる。それに運動自体も嫌いじゃない。

 おじさんみたいだが健康の為に、散歩やジョギングはする。BGMは勿論Vtuberの配信だが。


「よし、やろっか」

「はい!」


 そして、始まったスポーツゲーム対決。

 結果は、惨敗だった。

 さなぎちゃんの驚くべき能力が明らかになった。この子運動メッチャできる。


「さ、さなぎちゃん……前に、反射神経鈍いとか言ってなかったっけ?」

「あ、そうなんです。私、FPSゲームで反応めっちゃ悪かったんですけど、反射神経っていうより単純に画面に慌ててたせいみたいで」

「じゃあ、運動は……」

「そうですね、球技とか団体競技は多分出来ないと思います。けど、考えたら私、それなりに田舎のところで小さい頃は野山走り回ってたし、転校してからまた田舎に戻ることになって、そしたらネットか山昇ったりするくらいしか娯楽なかったので、私結構体力とか筋力ある事に気付きました!」


 ちょっと息を切らしながら力こぶポーズをとるさなぎちゃん。かわいい。


「ふぅふぅ……でも、やっぱり湿度も高いし、ちょっと汗かいちゃいましたね」


 そう言って襟を持ってぱたぱたしながら肩で息をするさなぎちゃん。

 姉さん曰くVtuber専用神の耳を持つ男、天堂累児。

 すっごいさなぎちゃんの吐息? が良くない。

 ライン越えギリギリだ。だが、さなぎちゃんにえっ……な意志はない。

 悪いのは、俺の想像力だ。


 俺は、頭の中で股間及び身体がすくみ上げるようなホラゲ配信絶叫シーン切り抜きを頭の中で再生させる。よし、落ち着いてきた。動悸はすごいが。

 そして、ふと横を見やるとめっちゃ近くにさなぎちゃんがいた。


 そして、はぁはぁしてた。


「さ、さなぎちゃん……?」

「あ! 違うんです! その! 別に、汗をかいてて首筋に滴るの舐めたいなあとか、切らしてる息をジップロッ〇に詰めたいなあとか、事後、じゃなかった、運動後、いや、スポーツした後、あーと、あーと、全部ライン越えに聞こえちゃう! あの! とにかく、横顔がかっこいいから写真撮りたいなとかそういうの考えてたわけじゃないです!」


 全部言うやんこの子。


 最近の配信では言わない。

 というか、多分キャラになりきれば、俺に関してとかはお漏らし(情報漏洩)をしないさなぎちゃんだが、さなぎちゃんの心の中駄々洩れなのに別に考えてなかったんですよ、通称、さな漏れは、ファンの間では定番になっている。

 特に最近のゲーム配信では、


『いや、違うんですよ! 別に、このエンディングのあと主人公たちはあのラストダンジョンに時々帰ってきて二人きりで肩寄せ合って思い出を語って帰り際にそっとさっきみたいなキスをするのかなっていうのでヨダレ垂らしていたわけじゃないんですよ!』


 という激甘恋愛脳妄想から、


『いや、違うんですよ! 別に、この鬼畜ゲー作った人絶対ここで相当4んでようやく抜けた先でいきなり真逆の方法で56すっていう本当に意地悪なきちくさんだなあと思って台パンしそうになってなんとか留まっていたわけじゃないんですよ!』


 というストレス吐き出しまで、お家芸と化し始めていた。

 そんなさなぎちゃんのさな漏れを聞き、俺が曖昧に笑うと、さなぎちゃんは、更に顔真っ赤ではぁはぁさせながら何故かスマホで一枚俺の写真を撮って部屋へ駆けていき出てきて、お風呂場へ駆けて行った。

 俺はずっと曖昧に笑っていた。


「ちなみに、私は全部やりたいと思っているわ」


 背中越しの姉の声。

 姉は満足そうにスマホのフォルダを整理していた。何の写真かな?

 ずっとパシャパシャ鳴ってたけど。


 とはいえ、俺も流石に汗をかいたので、二階の風呂場でシャワーを浴びる。

 社長が手配してくれた二重の鍵をしっかりかけるとドアの向こうで舌打ちが聞こえた。

 良いですよ、舌打ちして。配信ではしないのなら。


 そして、シャワーを浴びた後は、運動後ということもあり、眠気が襲う。

 昼寝をすることにした。

 とはいえ、昼寝は毎日の日課だ。

 夜そこそこ遅くまで起きて朝早起きな分、昼寝をしっかりめにとる。

 俺の身体はVtuber特化型に作り替えられているのだ。


 俺が自分の部屋に向かおうとすると姉さんがやってくる。


「累児、お願い……姉さんの膝枕で寝て。本当に本当に何もしないから」


 必死。


 何度も言うが俺の耳はVtuber専用神の耳だ。多分、姉さんは嘘を言ってない。

 というか、本当に本当に、という時はちゃんと約束を守ってくれる。

 昔、姉さんが約束を破って、三時間口をきかなかった時は、大号泣された。

 なので、姉さんはちゃんと約束したことは破らない。


「で、でも、俺、いつも通り昼寝は結構寝るよ?」

「大丈夫よ、こんな時の為に出来るだけ痺れたり疲れたりしないセットを準備してきたから。累児に心配かけたりさせないわ」


 こんな時とは?


 だが、気にしても負けだし。こういう安全? な時に姉さんのガス抜きをしておくのが一番だ。

 俺は大人しく、姉さんの膝枕で眠ることにした。

 むちゃくちゃいい匂いでどきどきしていたが、姉さんに頭を撫でられ髪を梳かれていくうちに気付けば眠りについていた。


 そして、本当に何もされていなかった。

 逆に驚くのも失礼だが、されていないことの確認をしたが大丈夫だった。


「ありがとう、姉さん」

「こちらこそありがとう、累児」


 深くは考えないようにした。

 そして、


「累児、お願いがあるんだけど」

「ん?」

「今日、姉さんも休日よね? 10分でいいから膝枕してくれない? 足疲れない痺れないセット貸すから」


 姉さんは姉さんだった。

 だけど、まあ、いいだろう。10分くらいの仮眠は脳に良い影響与えるって言うし、姉さんには本当に休んで欲しいし。


 俺がその謎のセットを借りて準備を整えると、うきうきした姉さんが俺の膝に頭を置く。


「うふふ」

「どうしたの?」

「心地よい疲れが幸せな睡眠を促すって何かで言ってたけど本当ね。とっても幸せだわ」


 そして、姉さんは言葉通り幸せそうに目を閉じると、あっという間に眠ってしまった。

 働かせすぎなくらい負担をかけている姉さんの頭をそっと撫で、今はゆっくり休ませることが出来ている閉じた瞳を見て、やさしい寝息となっている姉さんの声を聞きながら、俺は今だけでもゆっくりと幸せに休んでくださいと心の中で囁いた。

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