クビになったVtuberオタ、ライバル事務所の姉の家政夫に転職し気付けばざまぁ完了~人気爆上がりVtuber達に言い寄られてますがそういうのいいので元気にてぇてぇ配信してください~
29てぇてぇ『個人ってぇ、集団の中の個々の人って意味なんだってぇ』
29てぇてぇ『個人ってぇ、集団の中の個々の人って意味なんだってぇ』
【140日目・花咲しいど】
『みなさーん、今日もどうぞよろしーど、花咲しいどですっ!』
〈よろしーど〉
〈がんばれー〉
時間は23時。今夜もわたしは配信を始める。
登録者数は、ぶっちゃけ、めちゃくちゃ少ない。
さっき見た神の配信からすれば、ほんとうに髪の毛一本分程度だ。
わたしの神、高松うてめ様。
大手V事務所【ワルプルギス】のトップVで、大人気の配信者様だ。
わたしは、デビュー時からうてめ様を見てきた古参だ。
きっかけはお姉ちゃんがVtuberにハマっていて、わたしに見せてきた事だった。
でも、お姉ちゃんがびっくりするくらいに私はハマってしまった。
うてめ様は本当にわたしの女神だった。
わたしは元々二次元が大好きで漫画やアニメが大好きだった。
そんな中で出会ったVtuber高松うてめという存在は衝撃だった。
「二次元が……喋ってる!?」
美しい声で、わたしたちと同じ世界の事を話し、わたし達の声が届くその存在にハマった。
当時、うてめ様はオフコラボとかはされていなかったけど、企画とかで他のVと絡んだりすると、思った以上にポンコツな面が出たりして……それがまた身近に感じられて幸せだった。
西洋の神々が人間臭いのってこういう感じからかなあなんて考えたりした。
特に、うてめ様は、凄く正直に生きている感じで、何もかもがかっこよく美しかった。
てめーらに対しても言っちゃいけないことは怒ったり、注意したりして自分のスタンスを崩さなかった。
まあ、怒る半分は、ウテウト様に関してだったけど。
そう、ウテウト様。うてめ様の弟様だ。
ウテウト様のお話をされる時のうてめ様は、本当に幸せそうで、わたしはそれが大好きだった。
ぶっちゃけ、うてめ様の姉弟愛を知って、お姉ちゃんに優しくなった説まである。
そして、そんなお姉ちゃんが言ってくれたんだ。
『そんなに好きならやってみたら』って。
そして、単純なわたしはVtuberになった。
事務所のオーディションとかも受けてみたけど、箸にも棒にも掛からなくて、結局自分で始めた。
何もかも手探りで、時間もお金もない中でなんとか作り上げたわたしの分身。
ぶっちゃけ、うてめ様と比べればショボい。
でも、わたしの大切な分身で、わたしはうてめ様と同じVtuberになれただけでも幸せだった。
わたしの分身、花咲しいどになって、今日もゲームをしながら、その前にあったうてめ様の配信の感想を喋る。これがわたしの配信スタイルだ。
『いやあ、今日もうてめ様がお美しかったよね』
〈またうてめ様の話www〉
〈わかる〉
最初の頃は特に、初見で興味持って来た人に、うてめ様の話ばっかりするから、めっちゃ暴言吐かれたりした。
けれど、今は、もうわたしの配信スタイルを理解してくれた人がほとんどだから、そこまで言われたりはしない。
そもそもわたしのキャラクターのコンセプトは、緑の女神のようになりたい種の精霊だ。
もう分かる人にはこれでてめーらだって事はバレてる。
自分で一生懸命デザインしたこの子がわたしは大好きだ。
仕事が終わり、ご飯食べたりなんだったりして、ようやく自分の時間にしいどに変身する。
この時間がわたしは大好きだ。
息苦しい会社とは違って、ここでは思いっきり話せるし笑えるんだ。
そして、わたしと同じように息苦しさを感じている人たちと一緒に愚痴言いあったり、共感しあったり出来る。
時には、お礼だって言われたりする。
ぶっちゃけ、収益とか度外視だ。
でも、それでいい。いや、勿論人気になれるもんならなりたいけど。
わたしは、わたしに夢や元気を与えてくれたうてめ様を夢見たいんだ。
だから、わたしはうてめ様のようにわたしを好きになってくれる人の話を聞き、一緒に考える。もっと明日が楽しくなる方法を。
『そっかあ、大変だよねえ。しいどもね、同じような体験があったけどさ……』
配信時間は一時まで。それを超えると流石に次の日の仕事に支障が出る。
それでも、待ってくれてる人が居るから出来るだけ配信を続ける。
いつまで続けられるかは分からない。
それでも、頑張る。
『いつだったかね、うてめ様が言ってたんだよね。』
『うてめはね、弟みたいになりたいの。弟みたいに、魂の声を聞いて、誰かを助けることの出来る、誰かの力になれる人に。だから、この世界にやってきたの』
『って、それかっこいいなあって。でもさ、それってさ、きっと誰でも始められることだと思うの。耳を澄まして、相手を思いやって、何かを本気で伝えて……。わたし、それに気付いて、まずね、姉種、あ、初見さんもいたね。ごめん、しいどのお姉ちゃんに優しくしようと思ったの。そしたらね、今までと全然違って見えたんだよね。色んなことが。で、あねたねもさ、なんか優しくなっちゃたりして……ふふ、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ関係が良くなっただけで、なんか、自分が好きになれたんだよね』
そう、うてめ様の教えがあったから、わたしはお姉ちゃんに、背中を押してもらえたんだと思う。Vtuberになることを。
『その時思ったのね。ああ、うてめ様ってすごいなあって、何十万人のこういう力になれてるのもすごいけどさ。実は、誰だって、誰かの力になれるんだってことを教えてくれてるんだって。だからさ、あなたも、勿論わたしの配信見てるくらいだからさ、やさしいんだけど、へへ……まわりの人誰かの声に耳を傾けてみて、一生懸命考えて、大切に言葉を投げかけてみて。もしかしたらさ、見当違いな事言って、うまくいかないかもしれないけど。そしたら、わたしの所に来て、話して。わたし、聞くからさ。それで、わたしなりあなたに言葉贈るから』
〈ありがとう〉
〈流石てめーら〉
〈高松うてめ:そんな風に思っててくれて嬉しいわ〉
わたしの言葉で元気を貰える人がいる。
それだけで、わたしはうれし
は?
は?
は?
は?
『ピぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!』
え? 待って待ってまってまってまってまってまって。
やばい。
呼吸がやばい。
ひゅーひゅー言ってるんだが!?
え?
嘘だろ?
『え? 今、ちょっと、ねえ、見た?』
〈うてめ様いなかった?〉
〈いた。確認した本物〉
『ピぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!』
あ、ヤバい。
死ぬかも。
色んな意味で死ぬかも。
え? なんで?
『え? あの、マジで? え? うてめ様、ですか? え、えあ、う、あ、あの……てめーらで、でう、です! わたし! あの! てめーらです!』
〈うてめ様―!〉
〈この子本物のてめーらですよろしくおねがあしまう〉
ヤバい。言葉が出て来ん。何の為に普段配信で喋ってるんや。
〈高松うてめ:最近、色んな配信者さんの配信見てるんだけど、たまたま見てたら私の話してくれてたから、つい〉
は?
死ぬんだが?
今日、多分死ぬんだが?
あと、10分くらいしか今日ないけど。
そんな事あるのか?
いや、色んな配信者の見てるって言ってたからもう行っちゃうかも!
何か、何か伝えたい!
『あ、あの……!』
なんで言葉が出てこないんだよう……!
〈うてめ様!〉
〈花咲しいどはうてめ信者として凄く頑張ってる良い子です!〉
〈いつも私達に元気くれてる良い子です〉
〈よろしうおねがいします!〉
〈花咲しいどよろしくお願いします!〉
『み、みんなあ……!』
泣いちゃう。色んなもんが全部ぶわあして泣いちゃう。
でも、駄目だ。
わたしは配信者だから、うてめ様が大好きだから、うてめ様みたいになりたいから、伝えなきゃ自分の言葉で。
『あ、の……わたし、これからもがんばります! うてめ様めざして! がんばります!』
〈よく言ったしいど!〉
〈こう言うとります!〉
〈うてめ様!〉
コメントが流れていく。今まで一番の盛り上がりかも。
そりゃそうか。うてめ様だぞ。
そして、嵐のように流れていくコメント。
でも、わたしは見逃さなかった。見逃すはずがない。
神の言葉を。
〈高松うてめ:がんばってね。応援してる〉
うあ
『うあああああああああああああああ……。がんばりますぅ。も、もっと、もっとがんばりますぅうう。ありがとうございます、うてめ様。ありがとう、みんなぁああ』
〈うてめ様ありがとうございます!〉
〈やったな、しいどちゃん〉
〈泣ける〉
〈てぇてぇ〉
この日の配信は呼吸がヤバいし、涙もヤバいし、めちゃくちゃだった。
めちゃくちゃしあわせだった。
ファンのみんなも一緒になって喜んでくれて。
お姉ちゃんからもおめでとうってきた。見てたのかよ。
後日、うてめ様の切り抜きを漁っていると、本当にうてめ様は色んな配信者の所に行ってるみたいで、切り抜きでその様子が動画になっていた。
そのワンシーンにわたしもいて、てめーらのみんなが良く来てくれるようになった。
今日もわたしは23時に最大2時間だけの配信をする。
少しでもわたしの、姿が、声が、言葉が力になるように。
女神の声を背中に受けて、わたしも誰かの背中を押してあげるんだ。
【累児視点】
「あは。めっちゃ喜んでたね。さっきの子」
俺は、自分の事のように嬉しくなって、ついつい笑顔になってしまう。
「うん、よかった」
その日、うてめ様の配信後に、俺は姉さんと一緒に他のVの配信を見てた。
時々、姉さんに聞かれる。最近のお勧めは誰かと。
今日は、花咲しいどを薦めた。
てめーらな上に、なんというかすっごく優しい声のVtuber。
― 女なのね ―
そう言った時の姉さんはマジで震えたが、彼女の配信を見てるときの姉さんは本当に嬉しそうだった。
「どうしよう、累児。あんなに喜んでもらえると思ってなかったから。どうしよう」
オロオロ照れる姉さん。かわいすぎか。さっきの修羅は別人格かな?
「俺も、うてめ様が褒められて嬉しかったよ。姉さんは本当にみんなの力になってるんだよ。俺の誇りだよ」
そう言うと、姉さんは、急にぷいとどっかに行こうとした。
「姉さん?」
「そ、そういうのを、さらっと言うなんてるいじはずるい……! あの、また、お勧めがあったら教えて。じゃ、じゃあ、おやすみ」
姉さんは背中を向けながらそう言うが、耳が真っ赤なので、きっと顔も真っ赤だろう。
「うん、また教えるね」
「ありがと。……ああ、そうそう。ツノの100万人突破のお祝いはツノの家で豪華な料理を作ってあげることって聞いたけど、どんな事して、どんな話したか、どんな気持ちになったか、全部教えてね。あと、門限は守らないと、行くから……」
修羅がいた。っていうか、誰から聞いた?
姉さんがこうなるの分かってるから二人して黙っていようと決めたんだけど。
てか、門限初耳なんだが?
これは、本格的に盗聴器発見器を検討しようか。
修羅は、修羅笑みを浮かべながら消えていった。夢に出そうだ。
と、寝れなくなった俺は、再びパソコンに向かって、色んなVtuberを見漁る。
姉さんの力になれればいいし、シンプルに他事務所のカラーを見るのも楽しいし、個人Vを応援するのも楽しい。
ぶっちゃけ、今、【ワルプルギス】の相談役みたいなポジションで、給料貰ってしまってるし、しっかり意見言えるように、色々見ないと。
そして、
「あいつ、大丈夫かな……?」
アラームが鳴る。時間だ。
今、一番話題になりがちなVtuberの配信を見始める。
清楚だった姿は、闇堕ちというストーリーを経て、小悪魔で煽情的な姿になり、確かに、その澄んだ声が逆に興奮するという人間もいるだろう。
『っはあ……ごめんね、ちょっとイロイロしてて……その余韻が。こんばんは、闇に堕ちた楚々原そーだ。今夜もアナタと刺激的な夜すごしたいな』
今一番アブナイ【モラル無き闇のVtuber】、楚々原そーだが今日も危険な配信を、危険な声で始めていた。
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