22てぇてぇ『夢ってぇ、見ていいもんなんだってぇ』

【さなぎ視点】




「うきゃああああああああああああああ……!」


 やった。やってしまった!

 なんだ昨日のあの発言は、調子こいてんじゃねえよお、このばぁかが! ばぁかさなぎが!


『天堂さんが私の特別じゃなくてよくても、私は天堂さんの特別になりたいから。一番好きなVtuberになって欲しいから。私、頑張りますから。見ててくださいね。そして、手伝ってくださいね』


 はあああああああああああああ!?


 はあああああああああああああ!?


 はあああああああああああああ!?


 一回目大事故起こして泣いてたばぁか配信者が、二回目ちょっとうまくいっただけで、何言ってんの何言ってんの何言ってんの!?


 ばぁかばぁかばぁか!



 十川さなぎは、ばぁかだ。



 ばぁかでうまく学校で立ちまわれなくて、いじめられて引きこもった。

 ばぁかだから、Vtuberに憧れて自分もそうなりたいと思ってしまった。

 ばぁかだから、大手の【ワルプルギス】に応募した。

 ばぁかなのに、合格して調子こいて大事故配信を起こした。

 ばぁかの癖に二回目がうまくいってそれを助けてくれた王子様に漫画の台詞を言ってしまった。


「うきゃああああああああああああああああああああ!」


 でも、


「すてきだった、な」


 天堂さん。

 【ワルプルギス】の新入社員と言ってたけど、すごい落ち着いてたし、すごく優しかったし、すごく理解してくれてたし、すてきだった。


 素朴な顔で笑うとくしゃっとなって、Vの話になると目がキマってた。


「ふふふふ」


 同じうてめ様ファンのてめーらだったし、絶対気が合う。


「って、何考えてんの!? ちょーしに乗るな! ばぁか!!!」


 でも、きっと、もっともっと頑張って注目浴びたら、もっとあの人が見てくれるんだろうな。


「~~~~~!」


 熱い! 熱いぞ! 熱いな都会って! 気温高いな都会って! 都会だもんな!


『君は見つけた。君のファンのコメントを。『俺達』の声を。大丈夫、君は愛されているし、君は出来る、出来るんだよ』


 天堂さんはそう言ってくれた。

 そう、頑張らなくちゃ。

 私は、みんなと友達になって一緒に笑って泣いて喜んで、一緒に幸せになる。

 そんなVtuberになりたいから。


「いよっし! がんばる、ぞ!」


 わたしは、気合を入れて、【ワルプルギス】の事務所へ向かった。

 すると、


「紹介するね、さなぎちゃん。高松うてめ」


 ほんぎゃあああああああああああああああああああああああああ!


 めめめめめめめめめめ目の前にうてめ様が降臨されていらっしゃるでござります!


 え? 美人じゃない? 美しすぎない? Vの姿もリアルの姿も美しすぎるんだが?


 いやいやいやいや、わたし如きの紹介など0.3秒くらいにしてもろて。

 うてめ様のお時間を奪うわけには。


「ぉ川さなぎでっ……!」

「いや、さなぎちゃん、F1カーみたいな挨拶じゃん」


 社長が笑っている。

 いやいやいや、じゃなくて、こんなゴミ虫の挨拶など秒でいいので!

 目の前のうてめ様が近づいてこられる。いい匂い。え? 主食、薔薇?


「あなたが、十川さなぎ……ふ~ん、なるほど……」


 え!? え!? みられてる!? 私が、見えてる? うてめ様の視界に入っている!?

 本当に!? そんなことある!? むしろ、目の中に入っては罪なのでは!? ヤバイ、吐きそう。ゴミの吐しゃ物なんてマジ最悪だ。耐えろ、わたし。そうだ! じいちゃんのあっちょれ音頭でも思い出して落ち着こう。あっちょれあっちょれ~♪  

 よし、落ち着いたぜ。


「あっ、あのー、ここここれはどういう状況でしょうか?」

「うん、さなぎちゃん。あなた自分で気づいてないかもしれないけど、今、うてめの目の前で跪いてるから、一旦立とうか」


 本当だ! 道理で、がっつり見下ろされているかと、見下す目も最高でしたが。


「あと、目と鼻からいっぱいお水出てるから、とりあえず拭こうか」


 本当だ! 道理で、途中からお顔もぼやけていたし、薔薇の香りも薄まっていたわけだ。

 一瞬わたしの夢だからかと思ってた。


「えーと、まず、話すとややこしいんだけど、天堂君って子がいて、ちょっと前からさなぎのサポートしてくれていたじゃない?」

「あ、はははい」


 天堂さんの名前が出てきて熱くなる。流石都会(?)

 そして、うてめ様が何故かわたしを覗き込んでいてさらに熱くなる。流石大都会(?)


「うてめ、下がってー。あの、実はね、あの天堂君って、ウチの社員じゃないの」

「え……そう、なんですか?」


 どういうこと? と考えるより先にショックが大きかった。

 え? じゃあ、もう天堂さんには会えない?


「あの子ね、うてめの弟君で、元々別のVtuber事務所で働いてて、そ」

「ほぎゃああああああああああああああああああああ!」


 うて、うて、ウテウトォオオオオオオオ!?


 うて、うて、ウテウトォオオオオオオオオオオオオ!?


 うて、うて、ウテウトォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!?


 うてめ様のウテウト様が、天堂さんで、天堂さんがウテウト様ならうてめ様はお姉さまで、であれば、神は存在したって事!? いや、何言ってんだわたし! 落ち着け!

 あっちょれあっちょれ! 落ち着いたぜ! って、全然おちつけねーよぉお! じいちゃんがんばれ!


「だ、大丈夫? さなぎちゃん?」

「だだだだだだだだ大丈夫です」

「大丈夫じゃないわね」

「え、あ、で、でも、なんで、じゃあ、天堂さんが、私を」

「ああ、それはね、私が頼んだのよ。天堂君はね、お姉ちゃんであるうてめが『だーいすきな』Vtuberファンで」


 あ、うてめ様がにんまりしてるかわいすぎりゅ……!


「それで、とにかくVtuberが好きなの。で、うてめの他にも色んな子が天堂くんにお世話になってて……」


 それは知っている。こっちきて研修中にウテウト実在説が流れ、うてめ様がいきなりオフコラボ連続でし始めた時には驚いたし、正直ちょっと歓喜した。わたしもオフコラボさせてもらえるかもって。

 それはさておき。オフコラボしたVの皆さんは、どんどん登録者伸ばしているから、オフコラボの聖地とまで言われ始めていた。

 で、ウテウトの力なのでは。流石、うてめ様の弟と、わたしの周りのてめーらは騒いでいた。


「……で、ほら、さなぎちゃんが一回目の配信で大変になっちゃったから、ちょっとね、ダメもとで当たってみたら引き受けてくれて」

「そう、なんですね……じゃあ、皆さんが頼んでくれなかったら……」

「……弟はね、言ってたわ。この子のこんなに澄んだ声と心を潰してしまうのは絶対にもったいないって」

「え……」


 うてめ様のお声が耳に入ってくる。ありがたや。じゃない!

 今、なんて……


「あの子はね、Vtuberの良い所を見つける天才なの。その弟があれだけ言ってるんだから、貴方は絶対良いVtuberになれるわ。がんばって」


 う、う、ううわああああああああああああああああああああ。


 うてめ様、やさしぃいいいいいいいい。


「が、が、がんばります。がんばりますぅうううう!」


 頑張ろう。頑張るぞ。うてめ様みたいになるんだ。

 天堂さんの言葉を信じるんだ。


「わわわわわたし、ぜっぜった絶対良いVtuberになります!」

「それは期待してるわ。弟は良いVtuberが多ければ多いほど幸せだから」


 うてめ様の笑顔にしぬ。やばい。

 こう言ったら失礼だけど、うてめ様と天堂さんは顔の美形っぷりでは似てない。

 けど、笑った時のくしゃっとなるその感じは似てて、とってもあたたかい。

 本当にご姉弟なんだな……。



 ん?



 待てよ?



 良く考えればこれは……もし、私が天堂さんとそそそそその、けけけけけ結婚などした日にゃあ、当然天堂さんはだだだだだ旦那様で、うてめ様がおねおねおねおねお義姉様になるってことじゃないか! 天才か! わたし!


「ねえ? 今、何考えてる……?」

「ひぎゃああああああああああああ!」


 うてめ様の顔がいつの間にか目の前に! そして、すんごい冷たい目! ありがとうございます! ありがとうございます!


「言っておくけど、あの子の一番は私だから」


 うてめ様が真っ直ぐこちらを見ておっしゃる。

 おっしゃりたいことは分かる。

 あの人のいちばんはうれしい。


 だから、だけど、いくらうてめ様でも、


「わわわわわわたし、がががんばります。うてめ様に、ん、ままま負けないくらいがんばります」

「……ふ。がんばってね」


 うてめ様の笑ったお顔はやっぱり天堂さんに似てて、そのやさしい声や気持ちも似てて、わたしはがんばってがんばってがんばってがんばってもっと良い配信者になって、オフコラボをさせてもらうんだと心に誓い、十川さなぎの未来の話を社長やマネージャーさんと一生懸命語り合った。

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