2てぇてぇ『待ってぇ! 姉に拾われたんだけど謎だらけなんだってぇ』

 俺はVtuber事務所【フロンタニクス】を追放された。

 そして、俺はライバル事務所【ワルプルギス】所属の姉の家にいる。


 何故?


「ここがあんたの部屋ね。実家にあったあんたの家具は全部あるから」


 何故?


「はい、とりあえずお小遣い。私もまだまだだから無駄遣いしちゃだめよ」


 何故?


「ああ、ごめんね。お風呂にする? ごはんにする? それともお姉ちゃんにする?」


 何故?


「何故ぇええええええええええ!?」

「累児、うるさい。防音だから大丈夫だけど、大声出すなら、『お姉ちゃん、大好き』になさい」

「お姉ちゃん、大好きぃいいいいいい! って、なんでだよぉおおおおお!」


 ド下手なノリツッコミをかますと、姉は後半部分を聞いていなかったのか、『おねえちゃんだいしゅきって、累児が……!』と、はぁはぁしてる。こわいよう。


 あ、俺の名前が累児です。天堂累児。小学校の頃のあだ名は【緑の弟】

 そして、悶えている姉が、天堂真莉愛。赤が良く似合う。


 艶やかな黒髪を振り乱し、ちょっと目のやり場に困るステキバデーの長身が、色気溢れる声を漏れさせながらゴロゴロしている。


 姉はVtuberだ。


 高松うてめ。登録者数的にはトップクラスよりちょい下といったところか。


 歌、ゲーム、雑談、オールラウンドにこなす配信者だが、なんといってもその魅力は声だ。

 元々声優学校にも通っていて将来を嘱望されるほどだったらしいのだが、突然俺達家族の前でVtuberになると宣言した時は、驚いたし、学校の先生がわざわざ家まで来たくらいだった。


 両親はさすおやといったところか、全然驚かず受け入れていた。

 まあ、その前に俺がVtuberに異常にハマっていたし、姉弟だからという感覚もあったのかもしれない。



 そして、事務所オーディションを一発合格し、Vtuberとなる姉を誇りに思っていたし、応援していた。

 が、流石に、同じ事務所で働くのは駄目だろうなと俺は【フロンタニクス】を希望し、就職した。


 話を戻そう。


「あのね、姉さん。聞いて」

「なんでもいう事聞くわ」


 ニュアンスが変わる。


「質問良いですか?」

「累児が私に興味を……?」


 もう無視する。


「なんで、俺はここに連れて来られたの?」

「累児がクビになったから」


 何故、それをリアルタイムレベルの速度で知っている?


 盗聴の疑いがあるんだが?


 だが、まあ、もうそれを今気にしても仕方ない気がしてきた。

 というか、深堀したら余罪が出てきそうで怖い。


 【フロンタニクス】を出てすぐのところにタクシーに乗って俺を待つ姉がいたしね。


 謎。


 そして、姉の家に連れて行かれる途中で、俺の住んでた部屋の荷物の梱包作業が終わったと姉に連絡が入る。


 謎。


 謎が謎を呼ぶミステリー展開をまさか、姉で味わうとは。

 そう、まだ謎は続く。


 事態は、謎過ぎるのだ。何が謎過ぎるかって、


「なんで、俺の実家の家具が俺の実家の部屋と寸分たがわぬ配置で並べられてる部屋があるの?」

「必要だったから」


 こわいよう。姉は俺を溺愛している。理由は分からない。

 だが、上京の際に、弟離れしてくれて良かったなと思っていたのだが、そうではなかったみたいだ。


 うてめのブラコン雑談は異常なまでに人気だ。

 その狂気っぷりから架空の弟だと思われている感もあるくらいだ。

 その異常さがまたウケている。

 正直、その実在の弟でなければ、俺も『うてめおもしれー』で投げ銭しまくる位だが当事者なので引いている。


 特に学生時代俺の知らない所でとんでもねー事やってたのを知り、ドン引いた記憶がある。

 流石にと思い、連絡したら、『もう学生時代の話は言わないから』と返ってきた。

 言わないとはいったがしてないとは言ってないので怖かった。

 あと、調子乗ってるとき普通に言ってますが、姉。


 さて、俺の実家の部屋が完全再現された部屋に足を一歩踏み入れる。

 その部屋で人が生活していた気配がする。そして、この家には姉一人。こわいよう。

 真実はいつも一つかもしれないが、辿り着きたくない真実もあるよな、ばーろー。


「姉さん、やっぱり俺ちょっと……」

「行くとこないでしょ。あんた必要なお金以外全部スパチャとグッズに消えてるし」


 そう、なのだ。俺はV狂い。差し出せるお金は全てVtuberに捧げている。


「ここにいればあたしが養ってあげるわよ」

「う……!」

「あんた料理美味いし、家事得意だし、それしてるだけであとは配信好きなだけ見てていいから」

「う……!」

「Vtuberを応援し続ける人生が送れるのよ」

「暫くお世話になります!」


 おちた。おちました。わたしはかんぜんに。

 そうして、俺はVtuberである姉の家に家政夫として雇われ、家事をしながら配信を見続ける夢の生活を送り続ける道を選んだ。

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