第7話
並び始めて十五分、二十分位経過しただろうか。
列の長さ的に自分の番が来るまで時間が掛かると分かってはいたが、まさか二十分近く経っても回って来ないとは思いもしなかった。
時折、列の先から怒鳴り声が聞こえますし何かトラブルでも起きてるんですかね~。
機嫌が悪そうに文句を言いながら出ていく冒険者の人間が何人か居ましたし受けようとした依頼に何か問題でもあったんでしょうか?
まぁ、あの人間達の事は私には関係ないのでどうでも良いんですが。
にしても、早く私の番は来ないんでしょうか。
周りの視線が集まって居心地悪いので早く登録を終わらせて何か依頼を受けて建物から出たいです。
自分に集まる視線を出来る限り気にしない様にして後何人進めば自分の番になるのかヒョコっと前方を確認する。
一、二、三、四、五…五人ですか。
もう四、五分位の辛抱ですかね。
後数分もすれば自分の番も直に回ってくると分かったシャスティルは、ポケ~と周りを眺めながら黙って並んで待ち続けた。
そして、シャスティルの予想通り待つ事五分ちょっと。
「っ!お、お待たせしました。ご用件をお伺いします」
やっと、シャスティルの順番が回ってきた。
ようやく順番が回ってきたとシャスティルは内心「ハァ~~」と精神的な疲れでため息を吐きながら目の前の受付嬢へとギルドへ来た目的を話す。
「冒険者登録をしたいんですけど、出来ますか?」
「は、はい、出来ますよ。此方の紙に必要な事を書いて頂けますか」
「分かりました」
紙と筆記用具を受付嬢から受け取る。
書くのは名前と性別、年齢だけ?
え、これだけで良いの?
他は?
紙に書く内容が三つだけな事に少しビックリし、私は思わず紙を裏返したりして他に記入覧がないか確認するが、名前と性別、年齢以外に記入覧は無かった。
「書けました」
サラサラッと紙に名前と性別、年齢を書き込み受付嬢に紙と筆記用具を手渡す。
ちなみに、名前は普通にシャスティル。
性別は当然、女。
年齢は、流石に実年齢を書くのはマズイので二十歳にしておいた。
「はい、お受け取りします」
「あの、記入欄が少ないですけど、名前と性別、年齢だけで良いんですか?」
「はい、大丈夫ですよ。あまり大きな声で言う事ではないのですが、登録に来る人の中には色々と訳ありの方々も居ますので、名前と性別、年齢のみで登録出来る様になっているんです」
「なるほど、そういう理由で。納得です」
受付嬢の言う通り訳ありの者。
例をあげるなら、親をなくした子供、所謂孤児といった人間達等がそれに該当したりするのだろう。
そういった人間の子供達は普段から平穏に暮らしている人間達とは違い知識等が少ない。
なので、そういった人間が登録しにきても登録しやすい様に名前と性別、年齢の記入のみで登録出来る様にしたのだと思う。
あくまでこれは私の予想であって正しいとは限らないが、そこまで見当外れな予想ではないと思う。
「それでは、こちらの紙を持って彼方の窓口へお進み下さい。そちらで、先程渡しました紙を窓口担当の職員へと渡してもらえばギルドカードを発行致します。それと、此方は有料でご希望される方のみですが、銀貨一枚で鑑定を行えます。ステータスやスキル、職業適性等が調べられますので良ければご利用なさってみて下さい」
「分かりました。ありがとうございます」
受付嬢から登録の為の書類を受け取り、軽く有料の鑑定について説明してもらった私は、受付嬢へと軽く頭を下げてお礼を告げて教えて貰った窓口へと足を進めた。
「ここでしたね」
ギルドへと入った時に見渡した時は人が多くて見えなくて気付かなかったが、受付窓口のテーブルの端っこにちょこんと一つ通常の受付窓口とは別の窓口が設けられていた。
「すみません」
私は何か書類に書き込んで仕事している窓口の担当の男の人間に声を掛けた。
「いっ!いらっしゃいませ!登録の方でしょうか」
「??…はい、そうです。お願いします」
何故か私を見た瞬間、驚いてる様な、力んだ様な声を出して対応する職員の男の人間を不思議に思いながら私は受付嬢から貰った書類を手渡して登録をお願いする。
「了解しました。え~と、シャスティル様は鑑定はされますか?有料で銀貨一枚程掛かりますが」
「いえ、結構です。登録だけお願いします」
私は鑑定については断った。
自分の能力は既に理解しているのでお金が全くないのにわざわざ知ってる事を調べる必要はない。
それに、前提として今進められた鑑定はあくまで人間達が利用する道具で調べる。
人間が使用する前提で作られてる道具で女神である自分を鑑定出来るとは思えないし、万が一鑑定出来てしまった場合、どの様な鑑定結果が出るのか知らないが女神である事がバレるかもしれないし、種族を表示しないとしてもステータスや使用出来る能力で騒ぎになる可能性が非常に高い。
そんな万が一の理由から私は鑑定を断った。
まぁ、そもそもお金が全く無い、と言うか、現在ほぼお金が0なので万が一を心配する必要自体ないのだが。
切実にお金が欲しい。
これじゃ、買い食いが出来ない。
「了解致しました。鑑定は今回は無しという事で。ですが、今回でなくとも何時でも此方の窓口に訪ねてもらいましたら有料ですが鑑定は出来ますので気が向かれましたらお越し下さい。それでは、登録してきますので少々お待ち下さい」
そう言って、職員の男は私に一礼して席を立つと建物の奥へと消えていった。
そして、建物の奥へと姿を消して五分位だろうか?
「お待たせしました。無事登録手続きが終了致しました。こちらが、シャスティル様のギルドカードになります。お受け取り下さい」
「おお~~」
職員の男からギルドカードを受け取り私は、まじまじとギルドカードを眺める。
ギルドカードは金属で出来てるのか、結構頑丈な作りをしていて表面は私の名前と性別、年齢。
「E?」
そして、Eの文字が記されていた。
「Eは現在のシャスティル様のランクです。説明しますと、ランクはEから始まりD、C、B、A、Sと上がっていきます。つまり、Eは一番下のランクになります。ランクを上げるには依頼を受けてギルドへの貢献度を稼ぐ。分かりやすく言えば、ポイントを必要数貯めればランクを上げられます。その依頼ですが、あちらの掲示板に貼られているものが依頼書になります。依頼は自身のランクと同じランクの依頼のみ受けられて、受けたい依頼書を剥がして受付に渡して手続きすれば依頼を受けられます。達成すれば報酬のお金と貢献度を稼げます。しかし、失敗した場合は報酬も貢献度も0。余程酷い失敗をして何らかの被害を出した場合は賠償金を支払う責任を負わされる、貢献度がマイナスされる事もあるので注意して下さい」
「なるほど」
どうやら、現在の私は一番下のEランクらしい。
となると、受けられるのはEランクの依頼になるのだが、一番下のランクの依頼に稼ぎの良いものはあるだろうか?
出来る限り沢山稼げる依頼が貼られてたら良いのだが。
「要するに、兎に角ランクを上げたかったら依頼を失敗せず沢山依頼を達成してポイントを貯めれば良いって事ですね」
「はい、そうです。また、こちらのカードは身分証としても使えますので紛失しない様にお気をつけ下さい。それと、依頼等で稼がれたお金はギルドに預ける事が出来ます。それらのお金はギルドカードに預金額が記録されて受付に頼めば預けてるお金を引き出せますので良ければご利用下さい。主な説明はこれ位でしょうか。何かご質問等はありますか」
何か今聞いておきたい事があるか考えるが、特には思い浮かばない。
強いて言えば、Eランクでも稼げる依頼があるのかどうかが先程少し気になったが、それは掲示板を見れば直ぐに分かるだろう。
「いえ、特に質問は……あ、やっぱり一つ良いですか」
「はい、何でしょうか」
特に質問する気は無かったが、チラッと掲示板を見たら今だに多くの冒険者が集まってるのが見えたので稼ぎの良いオススメの依頼を聞く事にした。
「Eランクでも稼げるオススメの依頼ってありますか?」
「Eランクでも稼げるオススメの依頼ですか。そうですね」
私の質問に職員の男は腕を組んで考え込む。
記憶に覚えてる依頼と報酬金を思い出してるのだろう。
一分程して職員の男は組んでいた腕を解くと私の質問に対して答えてくれた。
「Eランクでは、正直に言いますと稼ぎになる依頼はありません。殆んどの依頼が町での清掃や荷運びの手伝い。また、薬草等の採取といった採取依頼ばかりです」
「なッ!?」
私は職員の男の言葉に驚愕した。
そ、そんな!
それじゃ、今日の宿代が稼げない!!
ご飯も食べれないし、温かいお風呂も入れないし、ふわふわのベッドで寝れない。
そんなのダメです!
どうにかしなきゃ!
でも、一体どうしたら。
どうしたら良いのか戸惑う私。
「安心して下さい。全く稼ぐ方法が無い訳ではありません」
「え?」
どうやら私は早合点していたみたいだ。
「確かにEランクには稼ぎの良い依頼はありません。しかし、依頼には種類があるんです」
「種類ですか?」
「はい。依頼には主に、通常依頼と常設依頼と呼ばれる二種類が存在します。この二種類以外にも依頼の種類はあるのですが、現在のシャスティル様には関係ありませんので説明は省かせてもらいます。それで、先程言いました通常依頼と常設依頼ですが、通常依頼が様々な人や機関からギルドに解決を依頼されたもの。常設依頼が人や機関から依頼されたものではなく、ギルドが常に掲示板に依頼を出してるものです」
「えっと、つまり通常依頼はギルドが仲介人になって出されてる依頼。常設依頼はギルドが毎日出してる同じ依頼って事ですか?」
「はい。その認識で正しいです」
私の認識であってたみたいだ。
しかし、その依頼の種類が、どう私のお金稼ぎの問題解決に繋がるというのだろうか?
「あの、それがお金稼ぎにどう関係があるんです?」
「すみません。前話が少し長かったですね。ここでお金稼ぎに関係するのが、常設依頼です」
「常設依頼ですか」
よく分からないが、常設依頼が私のお金稼ぎの助けになってくれるらしい。
一体どう私のお金稼ぎの助けになってくれるのだろうか?
「先程も言いましたが、Eランクの通常依頼は全く稼ぎになりません。依頼にある必要数の素材を長時間掛けて採取して納品しても依頼された報酬のみ。同じく長時間掛けて清掃や荷運びをしても多くて1日、2日の食事代程度の報酬しか得られない。しかも、Eランクの通常依頼は一般の方々が依頼を出される事が多いので報酬額にばらつきがあるんです。報酬が多い時もあれば極端に少ない時もある。ギルド職員の私が言うのも何ですが、正直言って労働に対して報酬額が割に合いません」
「が、ガッツリ言いますね」
「ハハハ、まぁ、事実ですから」
私の言葉に職員の男は苦笑いしながらそう返すと話を再開した。
「話の続きですが、逆に常設依頼は報酬額は一定です。変わる事がありません。例えば、常設依頼に薬草採取の依頼がありますが、薬草十本の一束で銅貨五枚になります。この報酬額は、余程酷い素材状態でなければ絶対変わりません。そして、一束で銅貨五枚なので更に二束、三束と多く納品すれば報酬の銅貨も十枚、十五枚と増えます。一つの依頼を受けて決まった数の素材を納品して少ない報酬を受け取るよりも、納品した素材の数だけ報酬を多く貰える常設依頼の方が稼ぎ易いと思われます」
「確かに、仮に薬草一束分欲しいと通常依頼であっても一般の人が出してたんじゃ報酬額が常設依頼よりも少ない可能性もありますもんね。それなら逆に初めから常設依頼の方で納品した方が稼ぎになります」
「そういう事です。それに、Eランクの報酬が高い依頼は、その、訳ありな子供の冒険者が朝早くから直ぐに受けてしまわれるので殆んど残ってる事はないんです」
「そうですか」
私は職員の男が少し言い辛そうに言った言葉に納得した。
力も弱く、日々を生きるのに苦労する様なまだ若い子供達だ。
自分でも達成出来て僅かでも稼ぎの良い依頼を受ける為に朝早くから張り込んで依頼を確認してるのは至極当然と言える。
「そう言う訳ですので、少しでも多くお金を稼ぎたいのでしたら常設依頼をお薦めします。それに、常設依頼でしたら通常依頼の様に依頼書を剥いで受付窓口で受注の手続きをしなくても済みますから時間の短縮にもなりますから」
「え?常設依頼なら手続きしなくても良いんですか?」
「はい。常設依頼はギルドが出してる依頼です。なので、受注の手続きをしなくても納品する素材や討伐証明部位を受付窓口に持っていき常設依頼の達成報告をすれば完了手続きと素材の受け取り、報酬の受け渡しをしてもらえます」
「なるほど」
これは良いシステムだ。
列を並んでいたので身にしみて実感したが、列の待ち時間が非常に長い。
依頼の受注手続き一つではあるものの手間を省けるのであれば越した事はない。
達成報告の際は並ぶ必要はあるものの依頼の受注手続きが無くなるのは純粋に嬉しいものだ。
「分かりました。常設依頼を受けてみようと思います」
折角なので、今日は説明してもらった常設依頼を受けてみる事にしてみた。
この選択が、私のお金稼ぎにどんな結果をもたらすのか分からないが説明を聞いた感じ上手くいけば沢山お金を稼げそうなので恐らく大丈夫だろう。
「そうですか。頑張って下さい。常設依頼は通常依頼が貼られている掲示板の左横の小さな掲示板に貼られています。先程説明で言いました薬草採取以外にも依頼書が貼られていますので一度確認されてみて下さい」
「はい。分かりました。登録手続きありがとうございました。お仕事引き続き頑張って下さいね」
「はい。シャスティル様も依頼頑張って下さい」
職員の男に一礼した私は、外に出る前に言われた通り一度常設依頼を確認するべく掲示板の前へとやって来た。
私がお金稼ぎの方法を聞いてる間に依頼の確認は一通り終わったのか幸い掲示板前は人が少なくなっており掲示板の前まで楽に移動出来た。
「確か掲示板の左横でしたね。え~と、あ、あれでしょうか?」
職員の男が言ってた通り掲示板の左横にはポツ~ンと四枚だけ依頼書が貼られている小さな掲示板があった。
何十枚もの通常依頼の依頼書が貼られている大きな掲示板に比べたらとても小さな掲示板だが、私にとっては今日のご飯と宿泊の宿代が掛かっている大事な依頼が貼られている掲示板だ。
私は自分以外誰も常設依頼の掲示板の前に居ないので、掲示板の前に陣取り依頼を一つずつ見ていく。
「薬草の採取に毒消し草の採取、ゴブリンの討伐、角ウサギの討伐か」
この四つの依頼なら町の外の森に行けば薬草も毒消し草も生えてるだろうし、ゴブリンも角ウサギも生息しているだろう。
上手く動けば同時進行で四つとも進めれそうだ。
これは何としても四つの依頼を同時に行い沢山お金を稼がなければ。
「よし!」
私は、「よし!」と意気込み早速町の外へと向かおうと身を翻しギルドの入り口へと歩いていく。
「おいおいあんた、もしかして一人で森に行くつもりかよ」
その時、横から声が聞こえてきた。
声の聞こえ方的に自分に声を掛けてきたっぽいので声が聞こえた方へと顔を向ける。
顔を向けた先には、三人の男がギルドのホールに設置されてるテーブル席の椅子に座ってるのが見えた。
見た感じ手前側の椅子に座ってる男が私の方を向いてにやついてるので、恐らくこの男が私に声を掛けてきたのだと思われる。
「何ですか?私に何か用でも?」
正直言って男の対応をするのは面倒くさいし、私にとっては依頼の成果が文字通り今日の生活を左右するので出来る事なら無視して通り過ぎたかった。
だが、自分は現在フリーの野良女神とはいえ女神なのだ。
話し掛けられて無視する様な行動は出来ない。
まぁ、流石に初めから救い様のない極悪な存在なら話し掛けられても無視したりするが。
「おいおい俺の話聞いてなかったのかよ。一人で森に入ろうとするし、マジで呑気な女だなぁ。お前らもそう思うだろ」
「ああ、そうだな」
「見た目の割に頭は残念なのかもな」
何の用なのか聞いたが、私の質問に男は答えず何故か私の事を呑気な女とニヤケた表情で馬鹿にし、他の二人も男に続いて馬鹿にしてくる。
「用がないのなら失礼しますね」
今のやり取りで理解した。
あの男達を相手にしても時間の無駄でしかない。
私は頭は下げず一言告げて入り口へと足を進めようとする。
「おい待てよ。俺らが話し掛けてやってんだぜ。さっさと離れなくても良いじゃねえか。そんな急がずにこっちに来て話そうぜ」
「そうだそうだ。折角話したんだし仲良くしようぜ」
「顔はタイプだからよ。俺らの話しに付き合ってくれよ」
足を進めようとした私の前に、初めに話し掛けてきた男が立ち塞がって通行の妨害をしてきた。
横を通り抜けようとするが、手を広げて妨害し私を通そうとしてくれない。
「退いて下さい。私今から森に薬草採取に行くんです」
妨害してきて全く退いてくれる気配の無い男に私はハッキリと退くように告げる。
しかし、男は私の言葉に退くどころかニヤケ面を更に愉快そうに歪める。
「やっぱり、森に入ろうとしてんじゃねえか。お前新人だろ。俺らがついていって冒険者の事を手取り足取り教えてやるよ」
男はそう言うと、私の左腕をいきなり掴もうとしてきた。
「結構です。では」
当然、軽く手をかわしたが。
そして、いい加減採取に向かいたかったので少しだけ素早く動いて男の横を通り抜けた。
「な!?て、てめえ待ちやがれ!」
かわされた男が、トコトコと入り口へと歩いていく私に対して怒鳴り声をあげるが、律儀に待ってあげる必要はないので無視。
「待てって言ってんだろ!!」
怒鳴っても足を止めない私に男はズンズンと早足に近付き私へと手を伸ばしてくる。
恐らく肩でも掴んで無理やり止めるつもりなんだと思う。
男の近付く足音と気配で目で見なくても把握出来ている。
それと、中々止めに入ろうとしなかった周りの冒険者やギルドの職員達が男が私を無理やり止めようと手を出してきた時になって漸く男を止めようと動き出してくれた。
私が通行の邪魔をされてた辺りで止めるべきかと何人か動こうとしてたので、どうせならその時に直ぐに男を止めて欲しかったが、軽い揉め事程度で一々止めに入るのも躊躇ってしまったのだろう。
列の待ち時間の間、軽くギルドの様子を眺めてたが何度か冒険者同士で言い争いもしていたので軽い揉め事は日常茶飯事なんだと思われる。
だから、ギルド職員も周りの冒険者も私が絡まれても直ぐに止めに入らなくて今男が私の肩を掴もうと手を出した所で流石に止めるべく動き出した。
まぁ、周りが男を止める為に漸く動き出したとしても、もう意味はないのだが。
「ヒッ!!?」
後十cm手を伸ばせば私の肩に触れていた所で、男はビクリと大きく身体を震わせ短い悲鳴をあげると手を止めた。
先程までの威勢は何処に消えたのやら。
男はまるで化物にでも遭遇してしまったかの様に、顔色が悪くなり、ガクガクと震えだす。
「全く」
「ヒィ!」
私は小さくそう呟きながらゆっくりと振り向きガクガクと震えている男を見る。
男は私の呟きが聞こえたのか、更に恐怖からか震えが酷くなり、震えるあまり歯をガチガチと鳴らして怯えていた。
「お、おい!急にどうした!!」
「しっかりしろ!一体どうしたんだよ!」
「あ、ぁ"あ"、ぅあ"あ"あ"あ"ッ"ッ"」
震えてるのは唯一人。
他の二人の男はなんともなく、突然恐怖に震えだした仲間の男に駆け寄り声を掛けるが、怯えている男は恐怖に呻き震え続けるのみ。
話し等、微塵も出来る精神状態ではなかった。
「嫌がる相手に対して無理やり触れようとするから罰でも当たったんですかね。次からは、話す相手には優しく接する事をお進めします。それでは、私はもう行きますね。そろそろ採取に行かないと流石にマズイので」
「な!待て!!」
「待ちやがれ!」
私は男達にそう告げると、怒鳴り声をあげる残る二人の男を無視してギルドの入り口から出ていく。
そして、シャスティルがギルドから出ていった後。
「ぁ"ッ」
「お、おい!起きろ!!」
「な!?しっかりしろ!」
恐怖に震えていた男は、シャスティルが居なくなった途端、白目を剥いて気絶した。
「な、なんだったんだ、一体」
「分からねぇ。あの綺麗の嬢ちゃんが何かやったのか?」
「そうとしか思えないが、何をしたんだよ。威圧でもしたってのか?」
「仮にそうだとしたら、冒険者を気絶させる様な威圧を放つあの女は何者だよ一体」
そして、シャスティルと男達の揉め事を見ていた者達は気絶した男を見て軽い恐怖を感じるのだった。
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