第17話 華さんと心奈ちゃんとの日常① ホラー回

 

 晩ご飯を食べ終え、俺はリビングのソファに座る華さんに話しかける。



「ありがとう華さん。お陰で点数も順位も上がったよ」


「良かったです。力になれて……」



 週が明けて採点されたテストが返却された。


 テストを受け取って自分の席に戻る度に、華さんが気になる、といった視線を向けて来た。


 自分が一緒に勉強をした結果が気になったんだと思う。



「華さんの教え方が上手で分かりやすかったからな」


「ありがとうございます……」


 ペース良く勉強を進められると、それに比例してモチベーションも上がるんだよな。


 そういう意味でも華さんとの勉強会はかなり助かった。

 結局夕莉には負けてしまったけどな……。



 夕莉は姉の美織さんに勉強を見てもらったらしく、美織さんは数学以外はいける様で、1週間前から付きっきりで勉強を教えてもらってたんだとか。


 目にクマまで作って、俺に何をさせたいのかと思っていたが、考えとくと言われた。


 ということで即席で作らされた、なんでも言うことを聞く券はまだ使ってくれなかった。


 有効期限を決めておくんだったと、俺はものすごく後悔した……。









 この家にテレビはリビングと夫婦の寝室に一台ずつしかない。


 華さん達が引っ越して来てから晩御飯を食べ終わった後、お互いが遠慮してリビングでテレビを見ない日が続いていた。


 俺はSNS派だから元々あまりテレビを見ないのもあったが。



 だけど今、俺と華さんと心奈ちゃんは一緒にテレビを見ている。


 晩ご飯を食べている時に心奈ちゃんが一緒にテレビを見ようと言ってきたからだ。


 観たいのがホラー番組だそうで、二人で見るよりも三人で見る方が心強いそうだ。


 リビングには三人が引っ越して来てから新調した、L字の大きめのソファが、小さめのテーブルを囲う様に配置されている。

 そのソファに、姉妹二人が隣に座り俺は離れた場所に座っている。




 「私もお姉ちゃんも、怖いもの見たさで見るんですけど、怖がりなんで雪兎さんが一緒に見てくれて助かります…」


 「俺も怖いのは苦手だけど見たくなるのは分かるよ」



 自分の身には起こらないと思っている割合の方が大きいから、あくまでも映像作品として観れるけど怖いものは怖い。


 今から観るのは『本当にあったらしい怖い話』だし……。



 恐怖を煽るBGMと共に怖い話が始まっていく。



 膝を抱えてソファに座る華さんは、吸い込まれる様にテレビに目を向けている。


 テレビの音のみがこの場に響く時間が続く。


「っ……!いまっ……女の人、居たよね……?お姉ちゃん……?」



「う…うん……」




 誰かに見られている気配に、物語の主人公は振り返るが誰もいない。

 そんな事が何日も続き、自分の家に帰った彼は部屋に置いてある物の位置が勝手に変わっていることに気づく。

 直しては変わり、何度も何度も……。

 馬鹿馬鹿しい、そう前を向いた彼の肩に覆い被さる様に、

長い黒髪で顔を覆った色白の女がカメラに映されていた。

 


「………」


「………」


「………」



 誰も喋らないリビングにテレビの中からの叫び声のみが流れている。


「こ、怖かったね…お姉ちゃん……」


「そ、そう……?」


「お姉ちゃん怖くなかったの?」


「まあまあだったかなって……」


「ふーん……」


 そういう心奈ちゃんは何故か華さんの少し後ろ側に視線を向ける。


 視線に気づいた華さんは不思議そうに首を傾げる。


「心奈?どうしたの?」


 そう問いかけるが、心奈ちゃんに返事はない。


 ずっと華さんの後ろに視線を向けている……。

 

 これって…。


「ねぇ…心奈……?」


「おねえ…ちゃん……」


「な…なによ……」


 顔を険しくする心奈ちゃんにつられて、華さんの様子も変わっていく。


「振り返ったらダメ…だから……ゼッタイっ」


「……っ!」


 華さんは咄嗟に振り向くが誰もいない。


「もうっ!心奈っ!?」


「ご、ごめんなさいっ。お姉ちゃんっ!」


 笑いながら謝る心奈ちゃんから距離を取って俺の方に距離を近づけて座り直す華さん。


 「心奈ったらっ……。偶に悪戯とかしてくるんですよ……酷いですよね……?」


 弛緩し始める空気の中、心奈ちゃんはまた華さんの後ろ側に視線を向け続ける。


 「もうっ……!心奈っ!2度もそんなことに騙されるわけ……」


 言いながら振り返った彼女の後ろには……


 長い髪で顔を覆った女が立っていた……。





「ひぃぃっっ……!」





 口をパクパクさせた華さんは、助けを求める様な目をこちらに向けて来た。


 帰ってきてこっそり近づいてきたんだろうけど……。


「母さん…やり過ぎ……」



 そう言うと、涙目になっていた華さんは「ふぇ……?」と声を漏らす。


「ごっごめんねっ!華ちゃんっ!まさかそんなに怖がられるとは思ってなくて……」


髪を整えて謝る母さんから、逃げる様にこちらに来ようとする華さんだったが……。



「ゆ…雪兎さん……腰…抜けちゃったかも……知れないです……」



そのあと母さんは何とか謝り倒して、許してもらったとかもらわなかったとか……。

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