第6話 夕莉と美織さん


「ただいまー」


「おかえり〜夕莉」



 今日は料理当番ではないので夕莉の家に一緒について行った。

 既に姉の美織さんは帰宅していた様で俺を視認するなり満面の笑みになる。



「雪兎もおかえり〜」


「おかえりって何か…」



 おかえりは分かるけど、それにただいまで返すのは何か違う気が…。



「なに?もう雪兎の家みたいなもんじゃない?かなりの頻度で来てるしさぁ?」



「すみません…」



「えっ? いやっ違うよ!? 別に悪く言うつもりなんてこれっぽっちもないって言うか…」



「そりゃねぇ?雪兎が来ない日は雪兎の料理が食べたいってうるさいもんねぇ?お姉ちゃん?」




 そんなこと言ってるのか…。




 夕莉の家にお邪魔した日は晩御飯を作れと言われている。


 夕莉も普通に作れるんだけど俺の方が美味しいというのと単純に楽をしたいからという理由で任される様になった。


 でも俺は家に帰ってから食べるからこっちでは食べない。 



 ちなみに美織さんの料理は壊滅的だ…。



「雪兎?毎日来てくれてもいいのよ??」



 ご飯目当てでもそんな事を言ってくれるのは嬉しいけどそういう訳にもいかない。



「本当に来る様になったらどうするんですか」



「え? それはそれで嬉しいけど…。でもまぁ、雪兎はそんな事しないでしょ?」



「馴れ馴れしくしないでとは言われましたけど、流石に毎日こっちに来るのはまずいですから」



 3人で料理担当を回す事はもう決定した事だしそれをほっぽり出すなんて絶対に出来ないからな。


 適度な距離感は大事だけど、決定的に距離を置くのは流石に違うと思うし。




「そうだね。でも、美少女姉妹と同居するなんて大変でしょ?何かあったら頼ってくれて良いんだからね?」



「ありがとうございます」

「でもここに来る様になって無かったらもっと大変だったと思いますよ」



 美織さんの大学進学と夕莉の高校入学が重なった時期に、家事のできない美織さんの要望で、夕莉との二人暮らしが決まった。


 この家から大学と高校は通いやすい距離にある。


 2人がここに引っ越して来て1年と少し、俺の親が再婚する前から偶に遊びに来ていた。



 遠い親戚でもある夕莉とは中学から一緒だったけど、その頃から2人と仲良くなるスピードが加速したと思う。



「どういうこと?」



「少しは美少女慣れできた状態から同居がスタート出来たので。そうじゃ無かったらもっと大変なことになってましたよ」



 たいして仲良くない美少女2人と同居するなんてどれだけの緊張が生まれるか…。

 それを少しでも和らげてくれたのは言うまでもなくこの家の存在だ。



「び、美少女慣れ……。えっと、私も?」



「美織さんは大人の色気もあるので美人寄りかもしれないですけどね?」



 艶のある黒のストレートヘアが、柔らかな雰囲気で肌の白い美織さんに凄く合っていて、1年前初めてここに来た時よりも、より大人っぽく感じてしまう。



「そ、そう…。ありがとう?」



 今のは話の流れ的に言ってしまったけど、少しもじもじとしながらそんな風に言われるとこちらも照れてしまう。



「もしもーし、私の存在忘れてませんかぁー?」



 夕莉がジトーっと俺たちに視線を送ってくる。



「そんな訳ないだろ?夕莉の家なんだから」



「ふんっ、まぁいいけどね。今日課題多かったしさっさとやっちゃお?」



「そうだな…。数学と…現代文だっけ?」



 そう言いながら夕莉は鞄から教科書などを取り出し始める。




 夕莉の家では宿題をしたりゲームをしたり料理を作ったり、娯楽も多い家だから退屈する事はない。


 喋ってるだけでもあっという間に時間が過ぎるしな…。

 2人とは気の置けない仲だから、それくらい居心地が良い。




「あ。今日の貸し、忘れてないわよね?」



 そう言うと夕莉は、ニヤァと嫌な笑みを浮かべてこちらに微笑んできた。









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