第41話 教えることがなくなりそうです
キースらが部屋に荷物を置いてリンドがいる棟にやってきた。ジェシカとクリスティは水浴びをしてから来るという。
「夜通し歩いたから疲れてるんじゃない? ゆっくり休んでから活動してくれよ、ここには居たいだけ居てくれて構わないからさ」
「いつも悪いな」
「平気だよ。キースらだと気を使わなくても良いからね」
キース、コリー、ショーンが座ってジュースを飲んでいると女性二人もやってきた。
「あの増築はリンド一人でやったんでしょ?」
ジュースを飲みながらジェシカが聞いてきた。そうだよと頷くリンド。ミーは猫階段の上に座ってピンと耳を立てている。
「床板なんかの合わせも完璧だし仕上げも綺麗ね。全部魔法を使って?」
「そう。家の増築は風魔法を中心に使ってやった。これも魔法の鍛錬になるからね。時間はたっぷりとあるからスピードよりも丁寧さに重点を置いて鍛錬したんだよ」
聞かれると隠すこともなく話しをするリンド。
「魔力のコントロールが難しいだろう?」
「魔力のコントロールは杖を作って扱いに慣れてたからそう難しくはなかった。それにハミルトンで建築の本を買ってきてね。それを見ながら同じ様にやっただけだよ」
仮に建築の本があってその絵を見ながらだとしても俺には無理だろうとショーンは思っていた。まるで本職の大工、いやそれ以上の仕上がりになっている。こいつはもうどう見てもSランクの技量を持っているなと。
翌日からキースのパーティは朝からリンドの住んでいる家の奥の森に出向いてはSランクの魔獣を相手に鍛錬をし、夕刻前に家に戻ってくるというローテーションでリンドの家をベースに活動を始めた。
リンドは何度か彼らに付き合って森の奥でSランクの魔獣の討伐に参加したがそれ以外の時は相変わらずのマイペースで森の中を走って身体を鍛え、畑や果樹園に水をやりそして杖を作ってはストックしている。
ミーはキースらがいない時にはケット・シーになってリンドと一緒に畑の水やりをしたり杖を作っているリンドの後ろから覗いてはアドバイスをしたりしていたがミーが見てももうリンドに教えることはほとんどなくなっていた。
彼が作る魔法士の杖はデザインを変えても皆同じ性能、それも極めて高い性能で仕上がりも文句のつけようがない程だ。
「もう私から教えることがなくなっちゃったわよ」
リンドとミーの二人だけの時、杖を作っているリンドを見ながらミーが言う。
「いやいや、ミーの指導はまだまだ必要だよ」
「どうして?」
「森の奥でランクSを倒すときにさ、10体に1体は一度の魔法で倒せないんだよ。これはやっぱり魔力の使い方を完璧にマスターしていないからだと思うんだ」
ランクSを相手に10体のうち9体を魔法で一撃できる人はまずいないわよとミーは思ったが口には出さずに、
「じゃあこれからは杖を使わずに手から出る魔力だけで杖を作ってみたら?これって結構難しいわよ」
「なるほど。そりゃいいな。訓練になりそうだ」
ミーの提案に乗ってきたリンド。
「ただ杖を使わない分手の平、特に指先に集中するから疲れるし、杖作りも今までより効率が落ちるわよ」
「それは問題ないね。時間はたっぷりとあるし杖のストックもある。トムには迷惑かけいないと思うよ」
夕刻になってリンドは貯めている肉を取り出して料理の準備をしているところにキースらのパーティが森の奥から戻ってきた。女性陣が素早く水浴びを済ませると料理の手伝いをする。これももういつもの事だ。メンバーはリンドの家のキッチンに何があるか知っている。というかほとんどの食器は彼らが持ち込んでくれたものだ。
コリーとキースは果実酒を、他のメンバーとリンドや果実汁を飲みながらの夕食が始まった。
「相変わらずいい場所だよな。ランクBからランクSまでそう遠くないエリアに固まっているしやばくなったらこの家に戻って来られる。そして夜もぐっすり眠れるし」
キースが焼いた野鹿の肉を口に運びながら言った。
「ここでの鍛錬で相当数のランクSの魔石が取れそうだよ」
「となるとキースのパーティもいよいよランクSに昇格かい?」
話を聞いていたリンドが言った。
「どうだろう。まぁ俺達はここで鍛錬して強くなるのが目的だからな。ランクはとりあえずは気にはしてないんだよ」
キースが言うと精霊士のショーンがリンドに顔を向けて、
「今キースが言った通りでね。まずは鍛錬。ここで鍛錬をしっかりとしてミディーノの郊外のダンジョンに潜ると殲滅速度が上がっているのがわかるんだよ。つまり鍛錬で強くなっているってのが実感できる。リンドはダンジョンを知らないだろうけどダンジョンは深く潜ると当然敵も強くなるが一方で宝箱があったりしてレアアイテムを手に入れる事があるんだよ。だから強くなってダンジョンを深くまで潜れる様になるといいアイテムを手に入れる事ができる様になるんだ」
聞いていたリンドはなるほどと納得する。当人はマイペースが身上でレアアイテムには興味がないし、レア中のレアアイテムであると言われているアイテムボックスは既に持っている。アイテムに固執していないリンドは彼らの話を聞いていても羨ましいとは全然思ってはいなかった。
「ここで鍛錬することがパーティとして強くなるのならいつでも来てくれよ。キースのパーティなら全然問題ないから、居たいだけ居てくれて構わないよ」
全員がありがとうと言ってから
「リンドは相変わらずソロでランクSを倒しているの?」
狩人のクリスティが聞いてきた。
「そうだよ。だいたい午前中は森の奥でランクSを相手にして鍛錬をして昼からは杖を作ったり、あとは畑や果樹園を見て回ったりという日々だよ」
「そしてたまに家を増築したり?」
これは僧侶のジェシカが聞いていた。そうなんだよと答えるリンド。
「今は理想に近い生活ができてるかなと思ってる。家の周りの結界もランクSまでは耐えられる強さだしね。街に出るにも不自由しないし」
キースらは10日間リンドの離れに泊まっては森の奥でランクSを相手にし、時々狩りもしてくれて魚や野生動物を捕まえては持ち帰ってくれた。リンドがお礼を言うと、
「礼を言うのはこっちだよ。毎晩屋根のある安全な場所に泊めさせてもらって食事や酒まである。こんなのって普通じゃないからな」
「そりゃそうだけどさ。でも狩りや魚は正直助かるんだよ。氷漬けしたら日持ちもするしね」
リンドの床下倉庫にはランクSの魔石が詰まっていてそれらの魔石全てに強い魔力が込められているおかげで数ヶ月は生でも持つほどだ。
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