第15話 Aランク2体までです
3人が持ってきた大鹿の肉を焼き、野菜と果実汁、それと果実酒を揃えて夕食が始まった。
「新しい食器をもらったおかげで人数分以上の数ができたので助かるよ」
食べながら礼を言うと、
「ジェシカが食器を多めに持って行った方がいいってアドバイスしてくれてね」
キースの言葉にジェシカの方を向いてお礼を言う。
「本当は自分達用にって意味もあるのよ。だからお礼を言われる程の事じゃないから」
照れているのかぶっきらぼうな言い方だがジェシカの誠意はしっかりと伝わってきた。
「ところでさ、最近リンドはここでランクAを倒してるのかい?」
話が途切れたタイミングでコリーが話しかけてきた。
「うん。ランクBは4体位まではリンクしても倒せる様になったから、今は森の奥でランクAを討伐してる。まだ2体くらいまでのリンクにしか対応できないから毎日ビクビクしながら鍛錬してるよ」
あっさりと言うリンドだが、その言葉を聞いて食事をしていた5人の顔色が変わる。ランクAの魔獣を俺達ランクAのパーティが倒すのならまだしもソロで倒している、しかも2体までのリンクなら倒せるとか言っている。
一方リンドは冒険者とはそう言うものだと勝手に思い込んでいて自分が決して人よりも強いとは思っていなかった。というか生きていくためにランクAを倒してるだけだと思っている。
「でもあれだけランクAの魔獣を倒しているのならミディーノの街でもランクAの冒険者になれるんじゃないか?」
コリーが再びリンドに聞くが、
「前も言ったけどランクは興味ないんだ。今のランクBだと半年に1度ギルドに顔を出せばいい。これくらいの間隔がちょうどいいかなと思ってる。ランクAになると1年に1度だろう?そうなると面倒くさくなって森から出たくなくなって冒険者の資格を失うかもしれない。トムの武器屋にも顔を出す必要があるし、今くらいがちょうどいいかな」
「なるほど。それがリンドの生き方なんだ」
「そんな大層なものじゃないけど。まぁマイペースが信条だから」
「そういえばこの家の周囲の結界も以前よりずっと強力になってるわ」
ジェシカが食後の果物を食べていた手を止めて言うと、
「うん。前はランクBクラスまで耐えられる結界だったけど、今のならランクAも大丈夫だろうと思う」
淡々というリンドだが聞いているジェシカをはじめメンバーは内心ではランクAの攻撃を防ぐ結界をこんな広範囲に張れる奴は聞いたことがないと思っていた。
ミーはリンドが居間に作った猫階段の一番上に座って横になっているがおそらくこの会話を聞いているのだろう。時おり耳がピクピクと動いている。
「明日からランクAを倒しに森の奥に行ってくるよ、夕方頃ここに戻ってくる感じでいいかな?」
「全然問題ないね。夕食をつくりかけておくよ」
キースの言葉に答えるリンド。食事が終わって新しく作られた部屋に戻った5人はとりあえず男性の部屋に全員集まって明日からの予定の確認をした。その打ち合わせが終わったあとでキースが、
「それにしてもリンドって奴。想像以上に実力がありそうだよな」
その言葉をきっかけにリンドについて話しをする5人。ショーンが床下にあったランクAの魔石の話するとジェシカがびっくりして、
「普通なら魔力欠乏症にならない?」
「なるな。それにソロでランクAを倒しまくってるんだぜ?」
ショーンが言うとそこなんだよなとコリー。
「俺達はまぁミディーノじゃあNo.1パーティだと言われてるし正直俺たちもそういう自負がある。その俺達が5人でランクAの魔獣を討伐できるのはせいぜい同時に2体までだ。無理したら3体いけるかもしれない。リスクはでかいけどな。それに対してリンドはソロで2体なら倒せる様になったと言ってる」
リーダーのキースが後を続けて、
「リンドの言葉に嘘はないだろう。自慢する様な性格じゃない。それに虚栄心が強かったらこんな森の奥に一人で住まないしな。おそらくリンドは冒険者のレベルというのをわかってなくてただ自分がここで生きていくために必要なことをしているだけだ。淡々と話しているけどその内容、やっていることは全てが規格外だ」
「あの杖にしてもあれだけ強力な魔力を均一化して注ぎ込んで封じ込めるなんてそう簡単にできる技じゃないしな」
「本当に世間は広いのね」
ショーンの後にクリスティがこぼした言葉に頷く他の4人。
翌朝、キースのパーティは森の奥に出かけていった。
「リンドはどうする予定?」
パーティがいなくなってケット・シーの姿になったミーが聞いてくる。
「そうだな。彼らが森の奥に行ったから今日は家の周辺のランクBを相手に体術の鍛錬でもしようかな」
「体術の鍛錬って?」
「うん、ひたすら避ける訓練。どこまでできるか」
「なるほど、相変わらず向学心が旺盛ね」
「生きていくためにやってるだけだよ」
私は遊んでくると家の外に出るや消えたミーを見送ると自分に強化魔法をかけてから家の周辺に出てみる。しばらくするとランクBのオーガーがリンドを見つけて遅いかかってきた。
リンドはローブと杖の姿だが自分からは攻撃せず、突っかかってくるオークを右に左にとかわしていく。パンチを繰り出してくればしゃがんだり後ろにバックステップしたり。最初は大きく左右に動いていたが動きに慣れてくると最小限の体の動きで相手の攻撃を避けられる様になっていた。
そうして疲れて動きが鈍くなったオークを精霊魔法で倒す。
その後棍棒を持っているオークやトロルを見つけると同じ様に避ける訓練をする。時折相手に殴られるが強化魔法が効いているのでほとんど痛みを感じない。
「この訓練は定期的にやった方がいいな。身体の使い方、避け方を覚えたら2体相手にやってみよう」
ランクBの魔獣相手に何度も避ける訓練をするリンド。途中からは避けながらパンチを相手にぶつける訓練も始める。倒すのは考えず避けながら拳をぶつける訓練だ。そうして訓練を続けている時、
「拳に魔力を注ぎ込んでぶつけたらどうなるんだろう?」
そう思ってランクBのオークを釣ると、避けながら拳を繰り出し、拳がオークに当たる瞬間に軽く魔力を拳に注いでみる。すると今までよりも大きくダメージを与えられることがわかった。リンドの拳を喰らったオークはその場から1メートルほど弾き飛ばされる。
「なるほど」
その後もランクB相手に魔力を注いだ拳をぶつけて魔力と威力とを自分のものにしていくリンド。途中で戻ってきたミーがリンドウの訓練を見て
「たいしたものよ。身体能力も随分と上がっていたのね」
「ありがとう。師匠のミーのおかげだな。しばらく続けるよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます