エスプレッソが冷める前に
@nd__cy0
第1話 いつも
大学3年の5月も終わりかけている日のことだった。
私は、大学1年の頃から付き合っていた彼氏に突然別れを告げられた。
その日、私は早起きをして、彼のために作ったお弁当を片手に彼氏の大学へ会いに行っていた。
いつもと同じように、駅で待ち合わせをして、いつもと同じように、教室まで歩いて、
いつもと同じように、1番後ろの席に座る。
自分の大学と同じくらい行き慣れた彼の大学。
いつもと変わらない景色、いつもと変わらない空気の中、一緒に授業を受けて、お弁当を食べた。
いつもと同じように過ごしていたはずだった。
だけど何故か、少しの違和感を感じていた。
いつもは感じることのない違和感。
友達の頃から数えて、付き合いも9年目になる彼のことだから、いつもと違うだけですぐに気づ
く。
優しい眼差しの奥にある本当の心、笑顔の奥にある不安、怒りを我慢している唇、悲しげな視線。何年も彼を見てきた私だから。
お互いの色々な恋愛だって、大学受験だって、浪人時代だって、何もかも一緒に乗り越えてきた。
彼の気持ちは私が1番に分かってるし、気持ちの変化には1番に気づく。そう思っていた。確信していた。
だけど、何故かその日だけ、私には違和感の正体が分からなかった。分かってあげられなかった。
別れ際、何度も振り返って笑顔で手を振ってくれる彼は、その日一度も振り返らずに行ってしまった。
いつもと同じように去っていく彼の猫背で大きな背中は、何故か丸く縮こまっているように見えた。
まるで大きな責任と、寂しさが彼にのしかかっているかのように。
いつもと同じように彼の口から出た"じゃあね"は、何故かいつもの"じゃあね"とは違うように聞こえた。
まるで二度と会うことが出来ないかのように。
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