まったりM&A現場閑話★セブン&ⅰに学ぼうPart.3(LBO)
世間を騒がせている『セブンアイ』の件をM&Aの視点から分析していくシリーズ第3段。始まるよー🎵
8.MBOでLBO? GTOじゃないよ?
創業家やメガバンク(+伊藤忠?)のコンソーシアムは、どのようにセブンアイHDをMBOするのでしょうか?
日経によると「伊藤興業を中心に設立した特別目的会社(SPC)」が買収すると書いてあります。また別記事では「創業家・伊藤忠が3兆円を準備するとのこと。これはそして、3メガバンクが6兆円」とのこと。
これらの記事から、おそらくLBOスキームが使われると類推されます。
……LBOって、なんだと思いますか?
9.LBOスキーム
LBOは、レバレッジド・バイアウトです。買収対象の事業収益を担保にお金を借りてM&Aする方法です。
創業家・伊藤忠が3兆円しか準備できなくても、3メガバンクが6兆円だす、つまり、元手の3倍のレバレッジ(てこの原理)を利かせて9兆円の買収を仕掛けるのです。
通常はPEファンドが使うことが多いのですが、今回のようなマネジメントが買収するMBOでも、マネジメントの元手が少ないのでLBOを使ってMBOすることはよくあります。
もちろん色々とメリットデメリットはあります。詳しく説明しましょう。LBOのスキームは大きく分けて3ステップとなります
①SPCを設立し、資本・貸し付けの形で9兆円を集める
レバレッジを利かせるためには、それだけのお金を借り入れる必要がありますが、銀行は担保も無しにそんなに大きなお金は借りられませんよね。
そこで、銀行は「買収する事業の事業資産・収益を担保」にして「買収のためだけに」お金を貸すのです。そのためには、親会社(今回の場合、伊藤興業)とお金を貸す会社(SPC)を分離しておく必要があります。相互に依存しないローン、すなわちノンリコースローンを提供することになります。
(でないと、貸したお金や事業収益を別のことに使われかねないですからね💦)
このために、特別目的会社(SPC)が作られ、そこが資金を集め買収を実行する受け皿として使われるのです。SPCは親会社とは切り離れ得ているので、銀行だけでなく共同出資者(今回でいうと伊藤忠)も資本を入れやすくなります。
②SPCがTOB・スクイーズアウトでセブンアイHDを100%買収
SPCは集まったお金を使って、セブンアイHDにTOBを仕掛け、成功すればセブンアイHDを傘下に入れることになります。9億円はセブンアイの元株主に対価として支払われ、残ったのはセブンアイHDの事業資産と膨大な借入金です。
③SPCとセブンアイHDが吸収合併
最後に合併します。厳密にはすぐに合併しない場合もあるようですが、対象会社の事業収益を直接返済に充てるためにもいずれは合併することが前提です。
LBOの主要条件
やはり銀行から「買収する事業の事業資産・収益を担保」にして「買収のためだけに」お金を借りることでレバレッジを利かせるため、銀行との取り決めではかなりの制約を受けます。代表的な制約とは……
事業資産は固定資産、無形資産から現預金・売掛金・在庫などの流動資産まで担保に取れるものは一切合切を担保に取られる(自由に処分できないので経営の自由度が大きく縛られる)
・事業収益は原則借入金の返済・金利支払いに充てられる(株主には還元されない)
・ノンリコースローンは、通常の企業への貸付(コーポレートローン:企業の与信をもとに貸し出している)に比べると金利が高い
・銀行に誓約(コベナンツ)を設定される
実は担保とコベナンツは相当厄介です。銀行への報告義務、許可を取らなければいけない、対象会社の収益や財務状況が悪化したら一括返済を要求される恐れがあり首根っこ掴まれている……銀行さん、こわいw(まあ、それだけ大きなリスクを背負って貸してもらうことが、レバレッジを利かせることの本質なんです)
さて、今回の話に戻しますと、銀行に6兆円も借りるということです。流石のセブンアイHDでもFCF2千億円。何十年かかるねん💦
なので、ヨークHD売却などの構造改革で早期にキャッシュを作って返済をどんどん減らしていく必要があるのです。
10.さらなるコングロマリットディスカウントの解消
さて、ヨークHDの中身をよーく見てみると、GSM事業であるイトーヨーカ堂、ヨークベニマル以外に、ロフトや赤ちゃん本舗も含まれています。
でも、おそらく一次入札の面々から「GSMだけがいい」と言われちゃったのではないでしょうか。直近の記事では、雑貨やベビー用品を切り売るという観測も出ています。まさに、第2段コングロマリットディスカウント解消ですね。
そして、GSMに応募した企業の狙いは何か。GAM事業を立て直してIPOするという流れが本筋ではあるのですが……イトーヨーカドーは駅前の良い立地が多く土地に価値があるはずとか……
そういえば今回参加者のうちの一社、フォートレスは、セブンアイHDからそごう西武を買収した直後に池袋本社の土地をヨドバシに転売して儲けていたとか。まあ、これも含み益を具現化する方法ということでしょうか。
11.創業家の意図
さて、MBOが成功したら創業家はとりあえずはセブンアイHDの実権を完全に把握することになるでしょう。ですが、伊藤忠商事の存在、銀行にがっつり掴まれている状態、祖業であるヨークHDやその他の事業を切り売りしなければいけない負担を背負ってまで、MBOを進める理由は何でしょうか。
創業100年、セブンイレブン爆誕50年を支えてきた伊藤家としての誇り、ということはわかるのですが、そもそも、つい先日まで4.5兆円だった時価総額に対して2倍の9兆円も支払って回収できるのでしょうか。それとも、企業価値を吊り上げることでACT社を離脱させる作戦?もしくは最終的にACT社に高値掴みさせて儲けるため?
いずれにしてもチキンレースですね。投資家や従業員泣かせにならないといいのですが。
創業家自ら買収額引き上げ合戦に持ち込んでしまったこの勝負、一体だれが勝利を得るのか、誰も得ないのか。従業員や顧客などのステークホルダーがカヤの外のまま、まだまだ波乱が起こりそうな予感。注目していきましょう。どちらにしても、投資は自己責任で。
今回のシリーズはここまでです。読んでくださりありがとうございました🎵
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