第1952話、お互いに変われない

「ところで、迎えの為に起きていたは解ったが、別にもう眠っても構わんぞ。お前は起きているだけで負担になるだろう」

『ぐっすりと眠るが良い!』

「ふふ、ありがとう。でも大丈夫。今は起きていられるし、無理はしないから。ここ最近は回復の為に眠っている事が多かったけど、本来は偶に起きていたんだしね」


 確かに言われてみれば、初対面の時も牛は起きていた。

 いや、寝ていたが起きたのかもしれんが、ともあれ起きる事が出来た。

 ただその後に色々とあったせいで、回復に勤めなくてはならなくなった訳だが。


「それに前の様に、君達がいる間ずっと起きている様な事はしないよ。眠たくなったらちゃんと眠るつもりだから。無理をして心配をかけては意味が無いからね」

「心配という訳じゃないが・・・まあ、問題無いなら構わん」

『妹ってば素直じゃないんだからー』

「シオは、ちょっと、しんぱい」


 牛が問題無いと告げても、本当なのか少し伺う様に告げるシオ。

 だが牛は優し気に目を細めると、嬉しそうに小さく笑う。


「君はお姉さんと一緒で、優しい子だね。大丈夫。本当に無理はしてないよ」


 牛も時折節穴になるな。俺とシオの何処が似ているというのか。

 それに心配はしてないと言っただろう。俺の為に無理をされるのが嫌なだけだ。

 別にそこまでされる理由も無いし、そもそもお前の力は別の事の為の物だ。


 大事な墓守の為だけに力を使えば良い。俺達の事なぞ気にするな。


「そっか、よかったー。あ、そうだ。うしさんも、いっしょにたべる?」

「ふふっ、じゃあ少しだけ貰おうかな」

「うっ! ヨイチー、おねーちゃんもてつだうよー」

「きゅっ」


 俺達が話している間に、ヨイチが竈に鍋を設置していた。

 ここで一晩明かすと告げているので、何時も通りの野営の準備だ。

 アイツ率先して下働きみたいな事やってるな。最近は特に。


 色々と物覚えも良いから、大体の事は出来る様になったからだろう。

 シオの為の準備は特に素早い。基本先回りして動いている。

 ただしシオがやりたい時は邪魔しない辺り、保護者が逆ではと感じるが。


「きょうはシオがやるから、みーちゃはやすんでてね!」

「好きにしろ」

『妹の妹の手料理、楽しみだなぁ!』


 楽しみも何も、野営の時は何時も食ってるだろうが。

 とりあえず言われた通りに手を出さず、牛の傍に座る。

 精霊はシオの傍をわちゃわちゃ動き、どう見ても邪魔をしている。


『ぐえー! ボンガボン貴様ー!』

「きゅっ?」


 ヨイチに踏まれた。アイツもしかしてわざと踏まれてないか?


「・・・楽しそうだね」

「そうだな。アイツ等は何時も楽しそうな気もするが」

「違うよ。君の事だよ」

「俺が?」

「うん。最初に会った時の張りつめた感じが、今は随分と穏やかに見えるよ。きっとあの二人のおかげなんじゃないかな。それに他にも良い出会いがあったのかな」


 まるで何もかも見透かすかの様に、穏やかに笑いながら問いかける牛。

 やけに嬉しそうだな。コイツの事だから、揶揄う意図は無いと思うが。


「楽しんではいる。お前と初めて会った時からそれは変わらん。俺は俺が生きたいように生きている。自由に、望む様に、我が儘に。となればむしろ、気が抜けているのは問題が有るな」


 気が抜けている所に不意打ちを喰らえば、俺でも死ぬ可能性はある。

 脳がやられたら、流石の化け物の体でも生きてはいられんだろう。

 内臓に関しては意識さえ失わなければ良いが、頭は恐らく無理だ。


 それでも意識を失わないなら、その時はもう化け物ですら無いかもな。


「ふふっ、そういう所は変わらないね。でも、それで良いのかもしれないね。変われと言われて変われるなら、僕はきっと此処に居ないだろうし」

「そうだな。お互い望むままに生きた結果が今だ。だが幸せなんだろう?」

「うん。幸せだよ。とても」

「なら俺もこれで良いさ。少なくとも、今はまだな」


 牛の現状は滅私奉公の果てに近いが、ある意味我が儘の結果だ。

 土地を守る代わりに、領主一族に墓守を強制した様なものだからな。

 それでも残したかったし、残らなかったら仕方ないとも考えている。


 ある意味停滞であり、だがその決断を牛は一切後悔していない。

 たとえ死ぬまでここに縛り付けられ、死なない存在になったとしても。


「全てを受け入れた我が儘だ。俺もお前の様に生きて死ぬのが目標だ」

「生き急ぎ過ぎだと思うけどね。もうすこしのんびりしても良いと思うよ?」

「残念ながら、周りが煩いんでな」

「それは困ったねぇ・・・力になれる事が有れば言ってね」

「気持ちだけ受け取っておく」


 牛に負担をかける真似はしたくない。お前は、もう休んで良いんだ。

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