第999話、ツアーの終わり

 領主殴りツアー、国内時計回り巡りは、数十日間に及んだ。

 殴り飛ばした領主は規模の大小合わせて100人弱。

 正直殆ど代わり映えのしない作業で、語る事もほぼ無かった。


 これを多いと取るか少ないと取るかは国の規模次第だ。

 それこそ領主の多い国だと、2000人とか居るしな。

 まあその場合は『村』クラスの領主も多いんだが。


 因みにこの国の場合、この数は全体の3割近い。

 3割と言うと少ないように感じるが、同じ方向性の3割と考えるそうでもない。

 そしてその3割の俺が殴り飛ばした連中は、最大限に国を利用していた。


 つまり金が有り、金が有るという事は発言力が有り、国の政治に首を突っ込める。

 更に一部には高位貴族も居るから、余計に大きな派閥になっていた。


 なので7割の領主貴族全員を相手取っても、強気に発言が出来る立場だった訳だ。

 まあ、それは俺が領主殴りを始める前までに話だがな。もう無意味だ。


「これで国の舵取りがしやすいだろう。精霊付きを軽く見る愚かも、精霊付きに手を出す愚かも良く浸透しただろうしな。お前達を利用する馬鹿は、周囲に袋叩きになる構図が生まれる」

『ぼっこぼこぼこぼこだぞ!』


 領主殴りツアーを終えて王都に戻り、城にて国王にそう告げた。

 精霊はしゅっしゅと口で喋りながらシャドーをしている。


「早過ぎない!? 私は最初に数を聞いた時、もっと時間がかかると思ってたんだけど!?」


 すると国王は自分の地位も俺が誰かも忘れた様に、そんな事を言って来た。

 精霊付きは彼の隣で、信じられなさそうなドン引き顔を見せている。

 お前だってやろうと思えば出来るだろうが。何だその顔は。


「結構時間はかかっただろう。100人も殴り飛ばしたんだからな。こんなに長居するつもりは無かったのに、想定以上にこの国に長居してしまった」

『毎回違う宿に泊まったのに、料理はあんまり代わり映えしなかったねー?』

「領主100人も襲撃してこの短期間で終われるのがおかしいんだよ!? 毎日毎日その対処に追われる日々だったし、あっという間に日々が過ぎたよ! むしろまだ終わらないよ!?」

「そうか、大変だな」

『大変だねー?』

「ああもう・・・!」


 何を言っても無駄だと悟ったのか、少年は頭を抱えた。

 こうなる事は事前に想定していたし、態々教えてやったのに。

 事前説明有だったのに、後手後手に回るやり方をするのが悪い。


 なので何を言われようとも俺は知らん。説明責任は果たしていた。

 そもそも初手の精霊付きの家は譲ってやった時点で、大分融通を効かせている。


 因みに精霊付きは、精霊の余りに脳みその無い発言に眉をひそめている。とても楽しい。


「けれど、感謝すべきなのかもしれないな。方向転換をした際に、一番面倒そうな家を叩き潰して貰っているし。自分達でそこまでやるには色々と理由が要る。感謝するよ」

「必要ない。俺は俺の殴りたい相手を殴っただけだ。それに助けたつもりも無い。解るな?」

『兄も殴りたい相手を殴るだけだぞ! 殴っちゃったぞ!』

「・・・勿論。解っている。自分の首を絞める政策を早めに出来る様にするさ」

「なら良い。俺から言う事は何も無い」

『ないないーい! ない? ないの? ほんとに? ほんとかなー?』


 今後この国は、以前の様に金が稼げなくなる。金は力だ。国力だ。

 例え精霊付きの戦力が有ろうとも、金が無ければ国民は困窮する。

 ならば今まで通りにやって行けない。少なくとも吐き出せる金は吐き出す必要が在る。


 面倒だろうよ。貴族との軋轢も増すだろうよ。胃が痛くなる思いを続けるだろうよ。

 だが眼の前の賢明な少年王は、それでも逃げない事を覚悟した。

 なら俺から指摘する事も、咎める事も、殴る理由も無い。


『るんたったー! たらりらーん! たー!』

「・・・」


 あと少女がくしゃっとした顔で、踊る精霊を視界に入れない様にしているのが面白い。


「たー!」

「っ・・・!」


 シオが止めを刺して噴き出した。うん、本当に面白い。

 やはり一人で苦しみを抱えずに済むのは良いな。

 何故か半眼で睨まれてるが俺は悪くないぞ。

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