ロベリアの冷血

如月 椎名

夜明けの探偵

序章

 ある者はこう言った。

「犯人は、人の姿をしていない化け物だ」と。

 

 ある者はこう言った。

「犯人は、悪魔に取り憑かれているのだ」と。


 光をうけて七色に瞬く、宝石の海ユウェールに囲まれた街、ヴィエトル。

 潮風によって独特の気候が生み出されるそこは、風凪かざなぎの街と呼ばれている。

 そんな街に降り立った殺人鬼の噂は、潮風と共に一瞬にして広がっていった。


 数多の被害者を出しながら、今だ目撃情報ひとつ無いと言う異様な事件。


 悲鳴を上げる間も、苦悶の表情を浮かべる間もなく、首元を切り裂かれ死んだ人の数々に、人々は戦慄した。


 そして、何よりも。人々の記憶に植え付けられたものは、現場に残される血の華。 死体の山に鮮やかに咲く、狂気的な赤は、犯人が異常であることを雄弁に語っていて。


 後に20人以上の死者を出し、ヴィエトルの歴史に名を残すこととなる殺人鬼。


 人々は、畏怖を念をこめ、その殺人鬼をこう呼んだ。


 悪意の華、ロベリアと。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る