クラスの誰にも靡かない美少女と擬似カップル配信者をやっているんだが、最近彼女の様子がどうもおかしい。 美夜さん、なんでくっついてくるの? 俺たちビジネスカップルだよな? 今カメラ回ってないですよ!
第1話 陰口を叩かれまくる日陰者の俺ですが、実は……。
クラスの誰にも靡かない美少女と擬似カップル配信者をやっているんだが、最近彼女の様子がどうもおかしい。 美夜さん、なんでくっついてくるの? 俺たちビジネスカップルだよな? 今カメラ回ってないですよ!
たかた ちひろ
1章 秘密のビジネスカップル
第1話 陰口を叩かれまくる日陰者の俺ですが、実は……。
山名日向(やまなひなた)という人間は、暗い奴だと思われているに違いなかった。
まず見た目からして、要素満点だ。
長く伸ばした前髪に目を隠し、身長は並だが、若干猫背で常に首は正面よりやや下向き。しかも制服は若干よれていて、なんとなく疲れ切った中年サラリーマンかのような疲労感のある印象を与える。
そのうえ、クラスメイトと口を聞くこともせず、授業は真面目腐った顔で受けて、部活などには参加していないので終業のチャイムが鳴ったらまっすぐに帰る。
これが暗い奴じゃなくて、なんだろうか。
「おい、また山名のやつ、一人で帰ってるみたいだぜ。ほんと、なに考えてるか分からねー。あんなんじゃ人生絶対つまんねーだろ」
だから、これも仕方がない。
クラスメイトにこんな風な陰口をたたかれても、俺には返す言葉がないのだ。
遠くの会話でもついつい聞き取ってしまう自分の地獄耳を恨みながらも、より早くと足を前へと進める。
「だって可哀想すぎね、山名? 俺たちが女子と遊んだり、仲間で集まって青春してる間に、一人で地面見つめてるだけだぜ?」
「俺、生まれ変わっても山名にだけはなりたくねー。まじで、つまらなさそう。アリとかの方がマシだな」
「ま、掃除とか押し付けられるからいいけどよ」
……が、自分の地獄耳が恨めしい。
逃げても、陰口の方から追いかけてくるから困ったものだった。
とくにうるさいのは、5人集団の真ん中で、ちゃらちゃらとチェーンを揺らしながらふんぞり返って歩く男、赤松憲人だ。
赤松は、とにかく人の中心に立っていたいタイプらしい。
そのために、ああやって平気で人を馬鹿にし見下した発言を繰り返し、常に自分の位置が上であることを確認する。
そうして選別したうえで、人付き合いをしているわけだ。
そして、彼に「下」だと見られた俺は、こうして悪口のネタにされている。
……まあ、どうでもいいことなんだけどね?
それで気が済むなら、存分にけなしくれても俺はなんの文句を言うつもりもない。
ただただ、今みたく聞き流すだけだ。
「ほんと、なんか山名見てたら俺までみじめな気分になってきたわー。あいつ、どうせ一生彼女もできねーよ?」
余計なお世話きわまりない赤松の一言に、取り巻きAくんがこう返す。
「ま、そう言う赤松も、愛しの細川さんには相手にされてないけどな」
「な……。あれは、格が違うだろ、格が。あんな美人、このあたりじゃどこ探してもいないだろ……」
「しかも、ほどよく大人な雰囲気を持ってて社交性もある。赤松が相手にされないわけだな」
「あ、相手にされてねぇのは、お前らも変わらねぇだろうが!」
これにより、俺の背中ではどっと一笑いが起きた。
それとともに彼らが歩くスピードも遅くなったようで、ここで振り切ることができた。
そこからはわざと遠回りをしつつ、目的地へ向かって歩く。
クラスメイト達に己の人生を「つまらなさそう」と一刀両断されるような地味な男である俺だが、放課後にすることくらいはある。
途中、お気に入りのケーキ屋に寄ってクッキーシューを2つ買うなど、しっかり時間をかけてから到着したのは、とあるアパートだ。
かなり年季が入っているのは、誰の目から見ても明らかだった。
錆び切って茶色に変色した鉄階段をのぼり、二階の角まで足を運ぶ。
いまどき珍しいくらい、簡素な作りのチャイムを鳴らすと出てきたのは、
「お。お疲れさま~、待ってた待ってた。連絡こないから心配してたとこ。お、差し入れまでありがと~」
赤松が言うところの、別格である美人、細川美夜(ほそかわみや)だった。
はっきり言ってボロ屋のこのアパートから出てくるには、その美貌や存在感はあまりに華やかだった。
洋風の煌びやかな豪邸から出てきても、なんらおかしくはない。
そりゃ人気が出るわけだ、と彼女を間近にして改めて思う。
少し青みがかったミディアムヘアは、きちんと手入れをしているのだろう艶があるし、くるんと軽く外へ跳ねた毛先には遊び心も感じる。
肌は綺麗な乳白色で、軽くマスカラの乗ったまつ毛の中の黒目がちな瞳は、凛とすずやかな雰囲気を思わせる。
もちろん鼻筋も綺麗に通っており、輪郭にもいっさいの崩れがないのだから、驚きだ。最初見た時には、この世の奇跡みたいな人だと思ったっけ。
そんな彼女が、薄手の部屋着姿で、しかも笑顔で、こうして玄関先まで出迎えてくれる。
「とりあえず、さっと上がってよ。見られたら遠回りしてくれた意味なくなっちゃうし。二人だけの秘密にしたいでしょ」
にっと軽く笑って、中へと俺を招き入れてくれる。
たぶん男なら、誰でも一度は体験したいようなシーンだろう。といって、俺にとってはなにげないワンシーンだけど。
「山名ってばメッセージ送ったのに、見てないでしょ」
「あぁ、ごめん。見てなかった」
「ふふ、まあそんなことだと思った。もうさすがにこれくらいは分かるんだよね~、もう付き合いも長いし」
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