第35話 クロエ様と本当の友達になれた気がします

「ブライン様…」


愛おしそうにブライン様を見つめるクロエ様。ブライン様の腕に身を寄せた。でも、次の瞬間。ブライン様がクロエ様を突き放したのだ。そして


「ミレィシャル伯爵令嬢、はっきり言うよ。僕は君を愛していない。これっぽっちもね。僕が愛しているのは、オニキスただ1人だ。それなのに、ヒロインとかいう訳の分からない事を言って、オニキスを騙し、僕とオニキスを引き裂こうとした。はっきり言って君には、嫌悪感しか抱いていないよ。それから、どうして僕が君を愛していると思ったんだい?僕は一度も、君を愛しているなんて言っていないが?」


怖い顔をしたブライン様が、クロエ様に物凄い剣幕で迫っている。


「だって私たちは…ヒーローとヒロインなのですもの…それに原作でも…」


「君が好き勝手に妄想するのは君の自由だ。でもその妄想に、周りの皆を巻き込まないでくれ。僕は君を絶対に許さないからな!僕の可愛いオニキスに暴言を吐いただけでなく、彼女を陥れようとした事。さらに変な薬を飲ませて、僕からオニキスを奪おうとした事を!ヒロインとか訳の分からない事を言っていないで、是非現実を見てくれ!さあ、この女を地下牢に連れていけ」


「そんな…どうかご慈悲を!」


そう叫ぶクロエ様を護衛騎士たちが連れて行こうとしている。そんな…クロエ様は私の為に、色々としてくれたのに。それに何よりも、クロエ様は私の大切なお友達だ。


「お待ちください!陛下、ブライン様、どうかクロエ様をお許しください。彼女は私の為に行動してくださったのです。確かに言葉遣いは、あまり令嬢としては好ましくありませんですが…それでも彼女は私の事を考えて下さいました。私の意見を取り入れ、必死に動いて下さったのです。もしクロエ様を地下牢に入れると言うのでしたら、私もクロエ様と一緒に、地下牢に参りますわ」


そう伝え、クロエ様の腕にしがみついた。


「オニキス…あなたって人は…」


「クロエ様、私のせいでごめんなさい。あなた様が裁かれるのでしたら、その時は私も一緒に裁かれます。あなた様1人では、絶対に逝かせませんので。私、クロエ様が大好きです。だから、これからあなた様と一緒に運命を共にしますわ」


「オニキス…」


私をギュッと抱きしめてくれたクロエ様。その美しい瞳から、涙が溢れていた。


「オニキス嬢、君の気持ちは分かった。一番の被害者でもある君がそういうなら、今回の件は不問という事でどうだろうか?」


「父上!」


すかさず不満の声をあげるブライン様。


「私も陛下の意見に賛成です。クロエ嬢、娘と仲良くしてくれてありがとう。この子は心優しい反面、必要以上に人に気を遣うところがあってね。本音で話せる友人が、今までいなかったんだ。公爵令嬢という身分の娘に対し、他の令嬢も遠慮していた節もあったしね。そんな中、君が現れた。正直最初は私も君に腹が立った。でも…君のお陰で殿下も色々と思う事があったようだし。君には今では感謝している。どうかこれからも、娘と仲良くしてくれたらと思っている」


優しい眼差しで、お父様がクロエ様を見つめている。


「公爵様…ありがとうございます。私、これからもオニキスに言いたい事をドンドン言いますわ」


「クロエ、頼むからオニキス様に暴言を吐くのは止めてくれ。私の命がいくらあっても足りん」


「あら、お父様はもう少し心臓を強くした方がよろしいのではありませんか?それから陛下、公爵様、寛大なご対応ありがとうございます。オニキスも、ありがとう。まさか悪役令嬢のあなたに助けられるなんて…これからも、よろしくね」


そう言って恥ずかしそうに笑ったクロエ様。その笑顔は本当に可愛いかった。


「私の方こそ、これからもよろしくお願いしますわ。これからは堂々と会えますわね」


もう今までみたいに、コソコソと会うつもりはない。卒業まで後半年と少ししかないけれど、目いっぱいクロエ様と思い出を作りたい。


そんな和やかな空気をぶった切ったのは、ブライン様だ。


「ちょっと待って下さい!この女はオニキスに酷い事をしたのですよ。それなのに、お咎めなしだなんて。オニキスは優しすぎるんだ!」


いつもほとんど話さないブライン様が、今日は珍しく興奮している。あの人、あんな姿もあるのね。


「いい加減にしないか!そもそもお前がオニキス嬢に冷たい態度を取るから、こんな事になったのだろう。反省しているのか?」


「その件に関しては本当に反省しております。ですが…」


「ブライン様、私にとってクロエ様は、かけがえのない大切な友人なのです。ですから、どうかこれ以上酷い事を言わないで下さい。クロエ様が悪く言われると、私も悲しくなりますわ」


ブライン様の方を見て、はっきりと告げた。相変わらず私の方を見ないブライン様。


「分かったよ…君がそう言うなら、僕はこれ以上何も言わない。ただ、君と婚約破棄をするつもりはない。どんな事があっても」


そう言うと、珍しく私の顔を真っすぐ見つめるブライン様。

その瞳は、真剣そのものだった。

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