第30話 クロエ様が新たな作戦を持ってきました

クロエ様からしばらく考えさせてほしいと言われてから、1ヶ月過ぎた。この1ヶ月、私がクロエ様に話しかけても


「今考えを練っているから、しばらく待って。こちらから連絡するまで、話しかけてこないで頂戴!」


と言われている。


私もクロエ様のお役に立ちたいのだが、どうしたらいいのか分からない。そして相変わらず、王宮へはほぼ毎日呼び出されるし…


「はぁ~」


つい大きなため息が漏れる。


「お嬢様、そんな大きなため息を付いて、どうしたのですか?」


カモミールティを入れながら、私に問いかけてくるのはマリンだ。


「最近クロエ様がとても冷たいの。話しかけても“今は話しかけてこないで”と言われるし。私、本当にブライン様と婚約破棄が出来るのかしら?やっぱり私は、王宮でブライン様に相手にされず、寂しい新婚生活を送る事になるのかしら?そんなのイヤよ…」


陛下や王妃様はお優しいし、私を気に掛けてくれている。でも、当のブライン様があんなんじゃあ、きっと私は寂しい時間を過ごすんだわ。そう思ったら、涙が溢れて来た。


「お嬢様、泣かないで下さい。お嬢様が泣かれると、私も悲しくなりますわ」


そう言って抱きしめてくれるマリン。


「私がいけないのよね。私が悪役令嬢という物を、しっかり演じきれなかったから。どうして私は悪役令嬢をきちんとできなかったのかしら…本当に駄目な人間だわ」


「お嬢様、令嬢を階段から突き落としたり、扇子で頬を叩くなど、なさらなくてもいいのです。そんな事が平気で出来る令嬢なんて、ろくでもない令嬢ではありませんか。いいですか、お嬢様。あなた様は少し考えがずれているのです。あなた様はあなた様でいいのです。私は誰にでも優しい心で接する事が出来るお嬢様が大好きですわ。もし悪役令嬢なんてものになったら、きっとお嬢様を嫌いになってしまうかもしれませんね」


「えっ、マリンに嫌われるなんて嫌よ。私、今のままがいいわ」


「そうでしょう?さあ、そろそろ寝る時間です。ゆっくりお休みください」


カモミールティを飲み切った私を、ベッドまで誘導してくれる。


「ねえ、マリン。クロエ様も私の事、嫌いになっていないかしら?」


「ええ、もちろんですわ。クロエ様はきっと、お嬢様にはどんな作戦がいいのか、今必死に考えてくれているのでしょう。ただ、今までの様なふざけた作戦を提示してきたら、今度こそ断ってくださいよ!本当にお嬢様は、何でも引き受けてくるのですから」


そう言って怒っている。今までの作戦も何一つふざけていない。真剣そのものだったのだが…


「ええ…わかったわ。それじゃあ、おやすみ」


「はい、お休みなさい」


とりあえず話をそらしておいた。マリンったら、けっこう言いたい事をはっきり言うのよね。でも、マリンのお陰で少し心が軽くなったわ。きっとクロエ様は、私の為に色々な作戦を考えてくれているのだろう。


私の為に頑張ってくれているクロエ様には、感謝しかない。次回クロエ様が提案してくれた作戦は、素直に受け入れよう。そう思い、眠りについたのだった。


その後も何の進展もないまま2週間が過ぎた頃、急にクロエ様から呼び出しがあったのだ。きっと素敵な作戦が思い浮かんだのだわ。嬉しくてつい頬が緩む。


そして放課後、クロエ様との待ち合わせ場所、校舎裏へとやって来た。今日はブライン様の従者、ヴァン様にも王宮には行けないとはっきり伝えておいた。


“用事が終わってからでもいいので、来て欲しい”と言われたが、丁重に断っておいた。本当にブライン様は何を考えているのだろう。私とお茶をしても、つまらないだろうに…


その時だった。


「オニキス、久しぶりね」


「クロエ様、会いたかったです!」


久しぶりに会うクロエ様、嬉しくてつい抱き着いてしまった。


「ちょっと、抱き着かないでよ!私は女には興味がないのよ」


すかさず私を引き離すクロエ様。私はクロエ様が大好きなのだが…でも、相変わらずクールなクロエ様も素敵ね。


「それで、何かいい方法でも思いつきましたか?」


「ええ、もちろんよ」


クロエ様が自信満々で話をする。


「それで、どういう作戦なのですか?」


「オニキス、あなたには原因不明の難病に侵されてもらうわ」


「原因不明の難病?」


なんだか恐ろしい言葉が、クロエ様の口から飛び出る。


「そんな怯えた顔をしないで頂戴。これを毎日2回飲んでくれたらいいから」


そう言うと、白い錠剤を私に渡してきたのだ。これは一体なにかしら?

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