第14話 結局王宮に呼び出されました

クロエ様という強力な見方を見つけた私は、ルンルン気分で馬車に乗り込もうとしたのだが、なぜか王宮の護衛たちが待っていた。


「オニキス様、殿下がお待ちです。すぐに王宮へ」


「え…でも、今日は断りを入れたはずですわ。それに、もう遅いし…」


今日はブライン様の顔を見なくてもいいと思ったのに。それにやっぱり、ブライン様とクロエ様は愛し合っていた様だし。そうだわ、もう一度婚約破棄の話をしてみようかしら?でも、またお説教をくらうのは嫌だし…


「さあ、どうぞこちらへ」


考え事をしている間に、王家の馬車に乗せられてしまった。辺りは既に薄暗い。きっと王宮に着いたら、すぐに夕食だろう。夕食時は、陛下や王妃様もいるし、まあいいか。


いつもの様に、王宮の門で馬車が停まり、ゆっくりと降りる。すると、ブライン様の従者が待っていた。


「オニキス様、遅くにお呼びだてして申し訳ございません。殿下がお待ちです。どうぞこちらへ」


あら?このまま夕食ではないのかしら?そう思いつつ、従者に付いて行く。向った先は、食堂だ。なんだ、やっぱり夕食だったのね。


いつもの様に席に付くが、陛下と王妃様の姿がない。お2人はこないのかしら?


「オニキス、キョロキョロして何をしているんだい?父上と母上なら来ないよ」


相変わらず私の方を見ずに、そう言ったブライン様。


「そうなのですね…」


残念だわ。そう思っていると


「そんなに両親が一緒がいいかい?オニキス、君は僕の婚約者だ、これからはなるべく2人で過ごすようにしよう」


相変わらず俯き加減でそう呟くブライン様。確かに私たちは婚約者だけれど、ブライン様は愛するクロエ様と結婚して、私とは婚約破棄する予定なのだ。あえて2人で過ごす必要もないのだが…でも、今は内緒だものね。


「はい、分かりましたわ」


笑顔でそう伝えておいた。すると、なぜか急に席を立ったブライン様。


「ちょっと失礼する…」


そう言うと、どこかへ行ってしまった。一体どうしたのかしら?しばらくするとブライン様が戻って来て、食事スタートだ。


「今日は急用があると聞いたが、何があったのだい?」


珍しく今日はよくしゃべるわね。


「はい、実は今日…えっと…ちょっと友人の相談に乗っておりまして…それで」


私とクロエ様が仲良しだなんてバレたら、私たちの計画は水の泡だものね。ここは濁しておかないと。


「友達とは誰だい?」


今日は珍しく突っ込んでくるわね。一体どうしたのかしら?


「えっと…その…後輩ですわ。そう、後輩…」


ついシドロモドロになってしまう。私ってどうも嘘が下手なのよね。ふとブライン様の方を見ると、バッチリ目が合った。とっさに愛想笑いを浮かべる。すると、急に顔を抑え、席を立つブライン様。


「す…すまない。少し体調が優れない様だ。申し訳ないが、失礼する」


そう言うと、去って行ってしまったのだ。一体どうしたのかしら?でも、とりあえずごまかせた様だしよかったわ。


中々ブライン様が戻ってこないので、1人で食事を済ませ王宮を後にする。すると、なぜかブライン様の従者がやって来た。


「オニキス様、先ほどは殿下が失礼いたしました。殿下は別に、あなた様が嫌で退室した訳ではございませんので、その事だけはどうかご理解ください!」


なぜか従者が、私に向かって力強くそう言った。


「…ええ、大丈夫ですわ。わざわざありがとうございます。それでは、失礼いたします」


そう伝え、馬車に乗り込んだ。今日のブライン様、なんだか少し変だったわね。急に色々と話しかけてきたり、席を外したりと。もしかして、私とクロエ様の事、何か勘ぐっているのかしら?まさかね。


屋敷に着くと、早速今日の事をマリンに話した。


「お嬢様、そんなバカげた話にまさか乗ったのですか?」


私の説明が終わると同時に、ジト目で私を見つめながらそう呟いたマリン。


「ええ、もちろんよ。だってクロエ様、私達しか知らない事を知っていたのよ。それに、私とブライン様を婚約破棄させてくれると言っていたし。あっ、でも安心して頂戴。家族やあなた達には迷惑を掛けないから。大船に乗ったつもりでいてもらって大丈夫よ」


胸をポンと叩いて、アピールする。


「…泥船に乗ったようなものですわ…本当にお嬢様は、普段は非常に優秀でいらっしゃるのに、どうしてこう抜けているところがあるのでしょうか…そもそも、殿下とはどう転んでも婚約破棄なんて出来ないのに…とにかく、旦那様に報告をしないと…」


ボソボソと何かを呟くマリン。


「ちょっとマリン、小声でよくわからない事を呟かないでよ」


「それは申し訳ございませんでした。でも、心優しいお嬢様が、悪役?だなんて信じられませんわ。とにかく、無茶だけはしないで下さい。それから、私にも進捗情報をきちんと報告してくださいね」


「ええ、分かっているわ。ブライン様もこれで私から解放してあげられるのよ。私、何が何でもうまくやって見せるからね」


皆の幸せの為、もちろん私自身も幸せになる為、頑張らないとね。でもブライン様と婚約破棄したら、嫁の貰い手はもうないかもしれないわ。まあ、そうなったら公爵家の領地を一部頂いて、そこでのんびりと暮らせばいいか。


あきれ顔で私を見ているマリンの視線など全く気付かず、まだ見ぬ未来を妄想し続けるのであった。

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