第7話 クロエ様は転生者という方だそうです
貴族学院3年になってから、1ヶ月が過ぎた。相変わらず私に冷たいブライン様。でもなぜか、ほぼ毎日の様に王宮に呼ばれるのだ。特に話をする事もなく、話しかけてもあいまいな返事しかしないブライン様。この人は一体何を考えているのかしら?全く理解できない。
ただブライン様とのティータイムの後は、陛下や王妃様たちも一緒に夕食を頂く。この時間は楽しいのだけれどね。
今日も放課後、ブライン様の従者から飛び留められた。
「オニキス様、本日も殿下が王宮でお待ちとの事です。それでは私はこれで、失礼いたします」
律儀にお辞儀をすると、足早に去っていくブライン様の従者。別に待っていてくれなくてもいいのだが。きっと私が婚約破棄を言い出したから、ブライン様なりに気を使っているのだろう。
本当に、無駄に律儀なのだから。あぁ~、今日もなんとも言えない苦痛の時間を過ごすのね。
重い足取りで歩いていると、目に涙を浮かべ私の元にやって来る女性が。クロエ様だ。一体どうしたのかしら?もしかして誰かに虐められたとか?これは一大事だわ。
「オニキス様、どうして私にそんな酷い事を…」
「クロエ様、目に涙を浮かべてどうされたのですか?まさか誰かに虐められたのですか?お可哀そうに。私でよければ相談に乗りますので、テラスでゆっくりお話しをしましょう。そうだわ、今日は急用が出来たから、王宮にはいけないと連絡をしないと。ちょっとそこのあなた、悪いのだけれど、ブライン様の従者に“王宮にはいけなくなった”と伝えてくれるかしら?」
「え…はい、かしこまりました」
近くにいた護衛を捕まえ、伝言を頼む。
「さあ、参りましょう。それにしても、こんなにもお可愛らしいクロエ様を虐めるだなんて、どんな悪党でしょう。本当にお可哀そうに」
クロエ様の腕を引っ張り、そのままテラスに向かう。それにしてもクロエ様って、とても華奢なお体をしていらっしゃるのね。お顔もお可愛らしいし、羨ましい限りだわ。あれほどまでにブライン様と仲睦まじいのだから、この際婚約者を変わってくれないかしら?
ついそんな事を考えてしまう。その時だった。
「ちょっとあなた、放してくださいます?」
人気の無い場所に着いた瞬間、急に振り払われてしまったのだ。一体何が起こったのか分からず、びっくりして固まる。
「あの…クロエ様。どうされたのですか?」
訳が分からず、コテンと首をかしげる。
「どうもこうもありませんわ。あなた、もしかして前世の記憶があるのではなくって?もしかしてあなたも日本人?」
前世の記憶?日本人?一体何を言っていらっしゃるのかしら?
「あの…クロエ様?何をおっしゃっているのですか?」
「とぼけないで頂戴。おかしいと思ったのよ、悪名高い悪役令嬢、オニキスがこんなにいい子だなんて。絶対あなた、私と同じ転生者でしょう」
「転生者?あの…なんのことでしょうか?」
「何が何でもとぼけるつもりでいるのね。あなたも読んでいたのでしょう?大人気恋愛小説“愛するあなたの為に”を。私はね、その話のヒロイン、クロエなのよ。あなたは私とヒーローでもあるブライン様の婚約者、悪役令嬢のオニキス。私とブライン様は、初めて学院で出会うの。そして2人は恋に落ちる。でも、ブライン様には既にあなたという婚約者がいた。ブライン様と仲睦まじいクロエに嫉妬したオニキスは、クロエにありとあらゆる嫌がらせをするのよ。そして最後は、クロエを殺そうとした罪で、あなたは処刑される。前世の記憶があるあなたは、処刑されるのが嫌で、必死にいい子を演じているのでしょう?」
一気に話を進めるクロエ様。えっ、ヒロイン?ヒーロー?それに悪役令嬢?一体何を言っているのかしら?ただ1つわかった事は、クロエ様とブライン様は愛し合っていて、私が処刑されるという事だ。
「あの…クロエ様、私は処刑されるのですか?そんなに悪い事をするのですか?私、クロエ様とブライン様の恋を邪魔するつもりはありませんわ。それにクロエ様を殺そうとするなんて。そんな恐ろしい事は絶対にしません。ですからどうか、命だけは助けて頂けないでしょうか?」
私、死にたくないわ。そんな思いから、必死にクロエ様に泣いて訴えた。
「ちょっと…別に泣く事はないでしょう?それであなた、前世の記憶があるのでしょう?」
「あの…前世の記憶というのがよくわからなくて…その様なものはございませんわ」
「前世の記憶がない?それならどうしてあなた、そんなにいい子ちゃんなのよ!そのせいで、全然ブライン様が私の方を向いてくれないじゃない!記憶がないなら、ちゃんと悪役令嬢らしく動きなさいよ!」
急に怖い顔をして怒り出したクロエ様。どうしよう、クロエ様を怒らせてしまったわ。私ったら何をしているのかしら?
「ごめんなさい、ごめんなさい。あの…悪役令嬢とはどうすればいいのですか?」
必死に謝りながら、クロエ様に伺う。すると…
「あなた、本当に前世の記憶がないの?本当に?」
怪訝そうな顔をして、私に聞いてくる。
「はい…申し訳ございません。私は前世と言うものの記憶はございません」
再び頭を下げた。
「そう…もしかして神様が間違えていい子ちゃんの魂を、オニキスにいれてしまったのかしら?」
不思議そうにクロエ様が首をかしげている。
「あの、クロエ様。イマイチよく状況が呑み込めなくて…あなた様はこの世界の未来が見えるのですか?」
さっき私が処刑されると言っていた。そんな恐ろしい未来は御免だ。そんな思いで、クロエ様に話し掛けてみた。
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