4話 "開業準備" (2)
領主の館に到着した3人。
白い大きいソファに大きい太った男が座っていた。
座っているだけなのに何故かおでこに汗が滲み出ていて唇から少しだけ唾液が垂れていた。
大きい部屋には名前も聞いたことない絵画や趣味の悪い女体の石像や本棚は三つもあるのに本は半分以上も入っていないのでその隙間に腕時計や高そうなワインなどがあった。
大きなソファの前には大きなガラス製の机がありそこには食べかけのフライドチキンや飲みかけの
「ブホッ、おぬしらよく来たな!」
大きな男はアゲハを見て目を細くして唇を舌で濡らした。
アゲハはそれを見て鳥肌がたち帰ろうとする。
帰ろうとするアゲハの肩を掴んだ久蛾が笑顔で答えた。
「最初にご挨拶しようと思いまして
「あ、ビックね。ピックじゃなくて」
「あ、すいません」
ピック……ビックスは少しわざとらしく咳をして蚊神の方を顎でしゃくった。
「おぬしは?」
「私は蚊神空木と言います。異世界転移者です」
「おお!ブホッブホッそれは珍しい!クガくんは転生者の方だよね!お友達だったのかい!?」
ビックスは手を叩き身体を揺さぶりながら尋ねた。
「ええ。蚊神とは前世の方で同じ事業をやってました」
「おお!ブホッ!じゃあ問題ないね!そちらのお嬢さんは?」
蚊神と久蛾は一斉にアゲハの方を見た。
いきなり殴りかかってもおかしくない。
しかしアゲハは何も気にせずに淡々と答えた。
「……アゲハ…です」
蚊神と久蛾はほっと息をついた。
「アゲハちゃんか!いいねいいね。何か食べる?ほらフライドチキンあるよ?食べかけだけど」
鳥肌で全身が鳥になる前に急いで帰ろうとするアゲハを蚊神と久蛾が両方から肩を抑えて引き戻す。
「すいません。アゲハ今さっき食べてきたばっかで」
久蛾がアゲハの肩を抑えながらビックスに言った。
「あーそうなんた。残念だな。じゃあ2人ともブホッ!ようこそ!13区の平和な街 サロンティラへ!」
「はい。どうも」
蚊神はズボンについてる砂を払いながら答えた。
「………え?はい」
アゲハは聞いていなかったがとりあえず言った。
「あ、えーと!それとクガくん!ちゃんと20%ね払ってよ!」
久蛾は笑顔を保っていたが頬がピクピクと動いていた。
「わかってますよ。
久蛾はアゲハの肩を離した。
アゲハは押さえつけられてたバネのように早く部屋を後にした。
「ありがとうございましたー」
ドアを閉める時にかろうじてそれだけ言った。
「あ、なんか用事があるのかな?それとクガくん、ピックじゃないよビックね?」
「ああ、すいません」
久蛾と蚊神も部屋を後にした。
「失礼しました」
久蛾が言った。
「今後、よろしくお願いします。ピックさん」
そう言って蚊神は扉を閉めた。
「ピックじゃなくてビックね!それとスぐらいはつけようよ!」
扉の外から大きな声が聞こえた。
2階にあるビックスの部屋を後にして1階に下がった。
1階のカウンターにはビックスとは対照的に痩せぎすで小柄な女性が立っていた。
ビックスの秘書兼財務整理担当責任者のロモースであった。
彼女は足早に外に出ようとするアゲハと後ろから歩いてくる久蛾と蚊神に笑顔でお辞儀をした。
「またのご来館を楽しみしております」
ロモースは仕事用の笑顔を貼り付けていたが目には余計な蝿が入り込んできた事を警戒しているのがすぐに分かった。
「ええ。また近いうちにお邪魔すると思いますよ」
久蛾も笑顔で返したが目は相手を値踏みするかのようだった。
「それはそれは楽しみです。売上の20%の入金は※
※
世界財政機関
「もちろん分かっていますよ」
領主の館を出た時に久蛾は舌打ちをした。
今度はアゲハは前ではなく蚊神の隣にいた。
「あの馬鹿の豚野郎は問題じゃない。問題なのは財務整理のあの女だ」
「ここの領主を上手く利用してますねあの感じ」
「あいつは警戒だな」
「それにしても
嫌なことが終わったアゲハは見るからに上機嫌だった。
「嫌がらせじゃねえか?」
アゲハとは違い不機嫌な久蛾は吐き出すように言った。
「嫌がらせ?」
「
久蛾の代わりにアゲハが蚊神に教えた。
「銀行狩り?」
「金を引き落としたり──まあ入金する前でもいいんですけどそうゆうまとまった金を奪う為に入口とか近くで見張ってる奴らがいるんですよ。最悪、殺しても奪う奴らもいますからね!」
人差し指を立ててアゲハは蚊神に教えた。
領主の館に行く前とはまるで違った。
蚊神はそんなアゲハに少し戸惑いながらも怒らせないように慎重に言葉を選んだ。
「あ、ああ。ありがとう」
クソッ!なんか上手くいかないな!
こんなキャラが読めない奴、そんなにいないぞ!
蚊神は何故か嬉しそうにしてるアゲハを見ながら思った。
「おそらくだがあのガリガリ女、銀行狩りと繋がってる。殺されてる奴は大体ロモースと何か問題があったり入金を渋ったりした奴らばっかだ」
「……じゃああいつが領主の館じゃなくてわざわざ2区も離れてる
「理由は分からないけど恐らく意味のわからない奴らは野放しにするより殺した方が早いって考えたのかもな」
蚊神はあの痩せ細った女を思い出した。
「あんな一見、大人しそうな女が?人は見かけによらないですね」
「あの女、ノクターンでなんて言われてるか知ってるか?」
久蛾はアゲハと蚊神に問いかけるように顔を向けた。
蚊神とアゲハは2人とも首を傾けた。
「……吸血鬼だよ」
その時、音がない13区 サロンティラの街に似合わない怒鳴り声が聞こえた。
「テメェらか!?」
スキンヘッドでタンクトップの男が久蛾達に声をかけてきた。赤いタンクトップは筋肉ではち切れそうだった。
「コラァ!?なんか言わんかい」
金髪の坊主の男がアゲハを睨む。
黒いタンクトップははち切れてベロンベロンになっていた。
「誰です?」
睨まれてるアゲハは久蛾に聞いた。
「こいつらは喧嘩請負人のドッコイ兄弟だ」
「2人足しても毛量が俺より少ないっすね」
「それはそうですよー。だって1人は何も髪ないんですから」
蚊神とアゲハはスキンヘッドの兄を指さして笑い合った。
「確かに0+1だもんな」
「2人合わせるって言うか実質、1人ですもん」
スキンヘッドの兄は顔を真っ赤になる。
「コラァ!?兄じゃはあえてスキンヘッドなんじゃ!本来はめっちゃ髪あるんだぞ?」
坊主の弟がフォローする。
「そんな事はどうでもいいが誰が依頼者だ?」
「あーあの老人っすよ。アゲハがボコボコにした奴!ほらあそこで隠れてる」
老人は薬屋の商品棚から顔だけ出していた。
「3人足しても蚊神さんの毛量に勝てないですねー」
「まああの老人もスキンヘッドみたいなもんだからな。逆にマイナスだろ。髪なんか汚いし」
「こ、コラァ!!!テメェらさっきから言わせておけばスクラップの刑に決定!!」
スキンヘッドの兄が顔を真っ赤にして吠えた。
アゲハがまた指差しながら笑い出した。
「真っ赤すぎ!トマトみたい!」
ドッコイ兄弟の堪忍袋の緒が完全に切れた。
「まずはテメェからだ!!クソ女!!!」
トマトな兄が拳を振り上げた。
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