漫才みたいなやり取り、からの……?

「よ~し、こたりょ~もようやくこのゲームに慣れてきたな! じゃあ、ここらでぼくがもっと楽しくなることを教えてやるよ! ピンを立てた場所までぼくを連れてけ~!」


「御意! 安全かつ迅速に姫を目的地までお連れするでござる!」


 ゾンビをなぎ倒し、取り残されたNPCを助け、ミッションを攻略してレベルを上げつつストーリーを進めていく最中、不意にガラシャからそんなことを言われた琥太郎は言われるがままに近くにあった車椅子に彼女を乗せると、地図上に着けられた印が刻まれた地点へと移動していった。


 いくら倒しても減らないゾンビを轢き殺しながらショッピングモールを駆ける最中も、ガラシャはとても楽しそうだ。


「いいぞいいぞ~! 何もせずとも目的地に移動できて、ゾンビたちの死に様を間近で見られる! こいつは最高だぜ~!」


「……姫、やっぱり慎みは大事だと思うので、もう少しだけでいいからその悪趣味を隠す努力をお願いするでござる」


【もう手遅れだぞ】

【同僚たちからもフリーダム過ぎると言われるガラシャを御すなんて無理だから諦めろ】

【後で折檻されるってわかってるのにそれでもしっかり意見を通す辺り、なんか姫のことを本当に大切に想ってる感があっててぇてぇ】


 既にガラシャの性格を熟知している抹茶兵たちからの様々な意見とがコメント欄にあふれる中、先の宣言通りに迷うことなく迅速に目的地に辿り着いた琥太郎がそのドアを開ける。

 そうすれば、工作室を思わせる灰色のデスクが置いてある小さな部屋の光景が目に飛び込んできた。


「ここは……どういった用途で使われる部屋でござるか?」


「へっへっへ~! ここはクリエイトルーム! そこの工作台で二つの武器を合体させて、強力な新武器を作るためにある部屋だぞ! まあ、百聞は一見に如かずっていうし、ぼくがお手本を見せてやるよ!」


「はっ! 姫のご活躍、しかとこの両目で刮目させていただくでござる!」


 車椅子から降りてきたガラシャが得意気にそう言いながら、近くの棚に置いてあった釘と木製バットを手に取る。

 言葉通りに琥太郎が床に膝をついてその傍で控える中、二つのアイテムを作業台に置いたガラシャはそれらを組み合わせ、合体武器とでも呼ぶべき新たなるアイテムを作成してみせた。


「じゃじゃ~ん! 釘バット~!! ほい、こたりょ~にあげる! これでゾンビ共の頭をホームランしてやって、ぼくを守れよな~!」


「ははっ、ありがたき幸せ! これは一目で強力な武器とわかる代物でござるな!」


「すごいだろ~? このゲームにはこんな合体武器がいっぱい用意されてるから、その組み合わせを探すのも醍醐味の一つなんだよ! ぼくも色々知ってるけど、まだコンプリートはしてないんだ!」


「なるほど、そういった要素もあるんでござるね! それで、他にはどのような武器があるんでござるか?」


 木製のバットを釘で強化した、シンプルだが一目で凶悪さがわかる武器をガラシャから受け取った琥太郎が感心しながらそんな質問を投げかければ、ふふんとドヤ顔を浮かべた彼女がこう答えていく。


「いっぱいあるぞ~! 水鉄砲とオイルタンクを合体させると、汚物を消毒できる火炎放射器が完成するし――」


「ああ、定番でござるね。他のゲームとかでもよく見る組み合わせでござる」


「ボクシンググローブと包丁で敵を切り裂く猫の手グローブも作れるし――」


「現代版の鍵爪でござるな。それなら拙者の得意とする武器でござるよ!」


「宝石と懐中電灯の組み合わせでライトセイバーも作れる」


「なんで? どうしてそうなるでござるか? どう考えても武器にならない組み合わせな上に、どうして一気にオーバーテクノロジーが誕生することに?」


【こたりょ~のリアクション良過ぎで草www】

【まあ確かにおかしいよなwww】

【ガラシャも完全にツッコミ待ちだったろwww】


 漫才を思わせる二人のやり取りを楽しむリスナーたちが、草を生やしたコメントを打ち込んでいく。

 そんな楽しい雰囲気の中、先ほど酒店で確保したビール瓶を取り出したガラシャがこれまた得意気にその活用法を語り始めた。


「ちなみにだけど、このビールも合体武器にできるんだぞ! どんな武器になるかわかりゅ?」


「えっ? うぅん……ライターと組み合わせて火炎瓶にするとかでござるか?」


「ぶっぶ~! こたりょ~は発想力が貧相だな~! 正解は……こう使うんだ!」


 問題を外した琥太郎を煽りながら、懐からもう一つのアイテムとしてヘルメットを取り出したガラシャがそれをビール瓶と共に作業台に置く。

 ガチャガチャとそれらを組み合わせる作業音を響かせた後で彼女が披露したのは、これまた琥太郎の想像を超えたアイテムであった。


「完成! ビール帽! これを装備し続ければ、アルコール中毒待ったなし!」


「の、飲んだくれ御用達みたいな防具でござるな……」


 被ったヘルメットの上から鬼の角のように設置されているビール瓶と、そこから口元まで伸びるチューブというあまりにも奇抜なデザインかつろくでもない使用法が見て取れるそのアイテムを目にした琥太郎が口の端を引き攣らせながら笑う。

 対してガラシャはと言うと、ゴクゴクと音を響かせながらその狂ったアイテムを活用し、ビールを飲み続けていた。


「でもこれ結構便利なんだよ? ビールがなくなるまでは使い続けられるし、装備している限りはダメージを受けても即座に回復できるからな!」


「な、なるほど、思ったより有用な道具ということでござるな……おや?」


 それでも飲んだくれとしか思えないそのアイテムはどうかと思っていた琥太郎であったが、そのタイミングでゲーム内通知が届いたことに気が付くと、その内容を確認する。

 どうやら新たにサブミッションが解放されたようだと、そう報せを読んだ彼は、ガラシャへとそのことを伝えていった。


「姫、どうやら新しい任務が届いたようです。まだ物語の主軸となる任務は解放されておりませんし、今はこれを進めていくのが得策かと存じますが……いかがなさいますか?」


「ん~? どれどれ? ……あっ!」


 他のミッションは解放されていないし、今はゾンビを倒す以外にやることもない。

 どうせなら経験値稼ぎも兼ねてこのサブミッションを攻略しようと提案する琥太郎であったが、ガラシャはその内容を確認すると即座に首を横に振って彼の意見を却下し始めた。


「だめ! このミッションはやらない! 無視するぞ、こたりょ~!」


「えっ!? ど、どうしてでござるか? 他にやることもないでござるし、どうせならこれをやった方がいいのでは……?」


「む~っ……! やることはなくてもこのミッションはだめなの! こたりょ~はぼくの言うことに従ってればいいんだから、口出ししないでよ!」


「……もちろん、拙者は姫の言うことに従う身。姫がそうせよと仰るのならば、逆らうことはいたしませぬ。しかし、どうしてそこまでこの任務を引き受けるのを嫌がるのか、その部分に関しては教えてくださらないでしょうか? 今後の護衛任務にも差し支えるかもしれませぬし、この琥太郎を信じてくださるというのならば、どうか姫の口からその理由をお聞かせください」


「うぅ……わ、わかったよぉ。えっと、その、さ……」


 単純な我がままのようにも思えるが、Vtuberとして活動する人間が配信がぐだぐだになる危険を冒してまでミッションを無視するという行為を不審に思った琥太郎がガラシャへとその理由を問い質せば、真面目なその雰囲気に圧されたのか、以外にも彼女は素直にその質問に答えてくれた。


「あのさ、その……今出たのって、ゾンビが出現したことでおかしくなっちゃったって呼ばれる人間と戦うミッションなんだよね。で、このミッションで戦う相手がその……なんだ」


「はあ、道化師でござるか? それで?」


「だ、だからぁ……ぼくはピエロが苦手なの! あの甲高い声も! 面白いようで滅茶苦茶怖い顔も! 不気味な動きも! 全部が苦手なんだよ!! だからぼくはピエロを視界に入れたくもないの! たとえそれがゲームであろうとも、ピエロを見てると心臓が痛くなるくらいにストレスなの! だからぼくはこのミッションをやらない! 文句あっか!?」

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