第79話 愛の言葉

「「「「 ド ~~~~ンッ!! 」」」」


 そして一拍後、物凄い音と共に突風が吹きギルドの壁が吹っ飛んだ。


 今まで受付にいたはずのライトアーマーを着た男が、反対側の悪口を言っていた

4人組の男達の目の前に立っていた。


 ば、馬鹿な。

 この距離をどうやって。


 冒険者ギルド入り口の壁側にある待機所に、4人組の男達は座っている。

 ギルドの受付から15人が、並んでもそこまでは届かない距離なのに。


 座った4人組の男達の頭の上と同じ高さから、上の壁が吹き飛び外が見えていた。


「誰が醜女しこめだ?おら」


 少年の様な顔をした男が、顔とは似合わない喋り方をする。


「ひっ!」


「「「 ドカッ!! 」」」


 女3人を醜女しこめを言った男は、男の蹴りを顎にくらい吹っ飛んでいた。

 初めて見た。人て、こんなに高く飛ぶんだ。

 

「彼女達は醜女しこめじゃない!俺の可愛い奥さんだ」

 あぁ、そうか。やっぱり。


「こ、この野郎!」

 残った3人の男達が剣を抜く。


 馬鹿、やめろ!俺はそう言いたかった。

 剣を抜けば命がけ。

 殺されても文句は言えない。


 ライトアーマーを着た男が左手を横に軽く動かず。


「「「 キンッ!! 」」」


 音がしたかと思うと、剣を向けた男の剣先2/3くらいが切られ落ちた。

「ゴトン!」


 魔法か?


「へっ?」

 呆然と切り落とされた自分の剣を見ている男。


「誰がおばさんだ?2人共まだ19と21歳だ。お肌の曲がり角、前だ!」

 おばさんと言われた女を、かばっているのか?

 19と21歳と言えば子供が居てもおかしくない年齢だが。

 お肌の曲がり角とはどこの角だ?


「ちくしょう!」

 剣を切り落とされた男が飛びかかろうとする。

 ライトアーマーを着た男が、指を向ける。


「「「 ゴキッ! 」」」


 男の右腕が変な角度で曲がった。

 今、何をした?


「こいつ!」

 残った2人が一斉に切りかかる!


「「「 彼女達はブスじゃない。俺の愛する奥さん達を馬鹿にするな。稼げないからじゃない。俺が居るから、また冒険者をやるんだ 」」」


 ライトアーマーを着た男が、指を向ける。

「「「 ゴキッ! 」」」

   「「「 ゴキッ! 」」」


「アァ~~!!」

「痛い、いてえよ~!」


 2人の男達の右腕がさっきの男と同じように、変な角度に曲がっている。


 からかった男達4人は倒れ、これで終わったとそう俺は思った。

 だがそうはいかなかった。


 普段、仲が良い訳でもないのに仲間をやられたと思った、残った15人くらいの冒険者がライトアーマーを着た男に向かって行った。

 


 今まで見ていた女達が助けに入る。


「エアガン!!」

 魔術師風の女がなにやら叫ぶ!


「「 パン! 」」  「「 パン! 」」

 「「 パン! 」」   「「 パン! 」」

「「 パン! 」」  「「 パン! 」」

 やはり魔法攻撃か!

 ライトアーマーを着た男に向かった、数人の冒険者が吹き飛ぶ!!



Air shotエアショット!」


「ドッ!」「ドッ!」「ドッ!」「ドッ!」

  「ドッ!」「ドッ!」「ドッ!」「ドッ!」

 信じられくらいの速さで、狩人の女が矢を連射していく!

 男達の太腿に正確に矢が突き刺さる。



「キィン!」  「キィン!」   「キィン!」  「キィン!」

    「キィン!」  「キィン!」   「キィン!」  「キィン!」

 ライトアーマーを着た男をかばうように、髪の短い騎士風の女が立ちはだかる。

 プレートアーマーを着ているとは思えないほど、素早い動きで冒険者達を切り倒していく。死なない程度の攻撃だがそれでも切られれば血は出る。

 そして嫌がらせの様に相手の剣を切り落としていく。

 俺は初めて見た。剣で剣を切るところを。

 そんなことができるのか?


 ライトアーマーを着た男に向かって行った、15人の男達はボロ雑巾のように転がっている。



「「 パン! 」」  「「 パン! 」」  「「 パン! 」」

 「「 パン! 」」   「「 パン! 」」 「「 パン! 」」

「「 パン! 」」  「「 パン! 」」 「「 パン! 」」


「「「「 キャハハハハハハハハ( ̄∇ ̄;)ハッハッハ!! 」」」


 そして男達を倒した後も魔術師の女はハイになったのか、奇声を上げ魔法を連射しながら冒険者ギルドの壁をボコボコにしている。


 こ、怖え、こんなチビるような思いは、大人になってから始めてだった。


◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇


 私の名はオルガ。

 ルイディナとパメラは同じ村の出身だ。

 住んでいた村がとても貧しく暮らすことが出来ず村を出た。

 そして生活のためにアレンの街で冒険者になった。


 もっと器量が良ければ、男の人を相手にする仕事もできたけど。

 この街では生きていくために、体を売ることはけして恥ではない。

 働くところも無くお金が無ければ生きていけない。

 生きていくために何かをしないといけないから。


 でも私達3人はけして器量が良い方ではなかった。

 だから命の危険があるかもしれない、戦闘経験のない私達では稼げない冒険者になった。


 エリアス君と結婚してヴィラーの村にやって来た時、私達がエリアス君の奥さんだと分かると村の人は憐れむような顔をエリアス君に向けたわ。


 エリアス君は美形の美男子で、私達は人並み以下の女が3人。

 釣り合う訳がない。

 美男子と野獣ね。

 

 そう思っていたのにウォルド領の冒険者ギルドに来て言われた。

 醜女しこめだと。


 最初は我慢だと思った。

 でも「ブスだから客も引けないから、冒険者か。嫌だね~」

 この言葉に涙が出た。


 当たらずも遠からず、だったからだ。


 器量が良ければ女なら、他にも仕事はある。

 冒険者は伝手や技術を持たない人達がやる、日雇い仕事みたいなものだ。

 収入も不安定で戦闘経験もない私達では、魔物を倒すことも出来ない。

 冒険者ギルドに登録していることで、身分証になるだけ。


 そしてエリアス君と知り合い、奥さんにしてもらった。

 とても嬉しかった。

 でもキングを倒した頃から、無邪気だったエリアス君の笑顔が消えた。

 そしてエリアス君は私達に愛の言葉を、1度もかけてくれることは無かった。



 今日は違った。

 エリアス君は私達のために怒ってくれた。

 

 『俺の可愛い奥さんだ』

 『俺の愛する奥さんを馬鹿にするな』、と。


 あんな怒ったエリアス君の顔は初めて見た。

 私達のために怒ってくれた。


 もう吹っ切れた。

 容姿の事でもう悩まない。

 エリアス君のその言葉を、聞けただけで十分自信になったわ。


 だからお願い。

 これからは、もっともっとその言葉を聞かせて。

 可愛いと言って。


 思っているだけでは、何も伝わらない、わからない。

 言葉に出して思いを聞かせて。


 そして私達に自信をつけさせて、貴方。


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