第21話 忍び足で確認

結局、マイケルはあの時に酒場にいた四人のうちの一人だという事が判明した。何処かで聞いた様な声だとは感じていたけれど、噴水遊びの後ガブリエルがお勉強に行ってしまって、僕が寝そべったビショップの隣の籠の中でうとうとしている時に、証言が出たんだ。


「なぁ、あれからあの可愛い青年に会えたか?」


そうマイケルが言い始めて、僕はピクリと耳をそば立てた。執事の入れたコーヒーを飲みながら、ルークは答えた。



「私もあれから2回しか夜に出掛けてないけどね、全然欠片も会えてない。酒場では幻の青年とも言われ始めてる。着ていたものも上質だったし、何処かお忍びの貴族令息だったんじゃないかな。年齢も誤魔化して。流石に私も3~4歳年下は全部把握してるわけじゃないからね。」


そう、ルークが言うと、マイケルが考え込んで言った。


「…貴族令息なら何処かしらで会った事があるだろう?それにあれほど人目を惹けば、噂になってるはずだ。そうなると、金持ちの商人の息子か、旅行で来ていた隣国の者と言うこともあるかもしれない。だが、言葉に困ってる風は無かったな…。はぁ、全然わかんね。」



僕は可笑しくなってしまって、口元に手を当てて笑いを堪えた。するとマイケルが僕を覗き込んで言った。


「おい、コイツ本当に変な動物だな。何か仕草が人間みたいで。今、口に手をあてて笑ってなかったか?」


するとルークが僕をじっと見つめると、ボソリと呟いた。


「変な感じといえば、どうもジュニを見ると何か思い出す気がして。最初見た時から気になってるんだが、思い出せないんだ。それより、また近いうちに夜出掛けよう。あいつらにも連絡しておくよ。」



僕は二人の関心が逸れたことにほっとして、寝たふりを決め込みながら頭の中はフル回転していた。夜の街で僕が噂になっていたのにも驚きだけど、やはり今夜、隠してある服の確認が必要そうだ。


確認だけしてサッと戻ってくれば、近いうちに抜け出して遊びに行く時に慌てなくて済む。僕は脳内シュミレーションをして 夜になるのを待った。




窓から差し込む月の光が傾く頃、僕はむくりと起き上がって、ガブリエルの部屋の気配を窺った。規則正しい安らかな寝息が聞こえて、僕はスルリと人間型になると、やっぱり全裸だったけれど、ガブリエルの寝顔を覗き込んだ。


指先で優しく金色の髪を解いてから、僕は忍び足で部屋の扉に近づいた。耳をすましても物音ひとつ聞こえない。僕はドアノブをそっと回すとゆっくりと引いた。静かな廊下はやっぱり人の気配はしなかった。



前回の様に衣装部屋に忍び込むと、手近にあったブラウスとズボンを手早く身につけた。着てから少しヒラヒラしてる気がしたけれど、今はそんな事を気にしている時間は無かった。


僕はあえて裸足でこっそりと階段を降りると、テラスへと急いで外に出ると、側の植え込みを確認した。雨が当たらない場所のせいか、脱いだ時のままになっていた。



僕はシャツを広げると、着てきたブラウスと交換した。デブでも着れるトップスと交換だ。以前着て行ったシャツはほこりっぽくて、バタバタと手で払うと、袖を通した。ん?やばい、このシャツ案外ピタッとしてるみたいだ。ボタンが止まらない。


僕はしょうがなく袖だけ通すと、テラスから室内へと戻って階段に向かって歩き出した。その時、ホールから誰かがやって来たみたいだった。僕は思わず周囲を見渡して階段の下の大きな花瓶の影に息を潜めて隠れた。心臓がドキドキと煩く鳴り響く音が聞こえる様で、僕は思わず息を止めた。




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